笠原みどりの章_2-7
序盤、坂が緩やかな辺りまでは、俺が圧倒的にリードしていた。
なので、これは楽勝だな、なんて思っていたのだが。
坂が急になってから、俺の足がうまく動いてくれない。追い風によって、何とか足を踏み出せるが、スピードがダウンした。だが、まぁ余裕だろう。
もう随分差をつけたし、坂が急になれば、自然と相手の足も止まるはずだ。
まして相手は女……。
が、しかし、その時だった。
スッと抜かれた。あっさり抜かれた。
一瞬、信じられなかった。ずっと後方にいたはずだった。
いくら、俺のスピードが落ちたからといって、そんなに、こんなにすぐに抜き返せるはずはない。
まつりの背中。
まつりの背中……遠い……。
どんどん遠ざかる、長身女のシルエット。
広いストライドで、力強く坂を蹴る。
だがしかし、その時だ!
上井草まつりの進路に、集団の不良が立ちはだかった。
派手な格好の、わかりやすい不良だ。
「ひゃっはー! ここは通さねえぜええ!」
「てめぇの命、置いていきなぁあああ!」
世紀末な不良だ。推測するに、上井草まつりに敵対する連中なのだろう。フェアではないが、みどりへの嫌がらせをやめさせるには、まつりに勝つしかないんだ。予想外の加勢に、心の中で感謝、しようとした。
どかんどかん、と不良、舞う。
うぇえええええ。吹っ飛ばしたよ、全員。別に進路妨害してなかった不良まで。一瞬で。何この最強女子!
その時、俺は、負けを認めることを覚悟した。
――だが、だが最後まで走り切ろうじゃないか。せめて最後まで。
そう思ったのだが、まつりが吹き飛ばした不良が、目の前に飛んできて、避けきれず、
「うぉっ――」
つまづいた。
転んだ。
右膝をしたたかにアスファルトに打った。
痛い。
超いたい。
「っ……ぅ……くっ」
呻いた。
そして、対戦相手は背中さえ見えなくなった。