表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/579

笠原みどりの章_2-6

 放課後。


 俺は体育着に着替えて坂の下にある湖に向かう。


 門を出たところで、笠原みどりは言った。


「あの、あたしはここで待ってますから。死なないように頑張って下さいね」


「そんな、大袈裟な。単に坂道を走るだけだろ」


「そうですけど……あの、突風とかありますから」


「なるほど、風を味方に付ければいいんだな」


「あと、これ、スニーカーです。昨日ウチに忘れて行ったでしょ? 革靴よりは走りやすいと思うから……」


 みどりは、スニーカーを差し出して来た。


「おう、サンキュ」


 それを受け取り、履いて、脱いで地面に転がった革靴をみどりが手に取った。


「この靴は、下駄箱に入れておきますね」


「ああ、頼む」


「……頑張って下さい」


「おう」





 湖の前に着いた時には、既に二人の姿。制服姿の伊勢崎志夏と体育着姿の上井草まつりが待っていた。体育着の半袖の上着をまくり上げて肩を出す、若干不良っぽく見えるスタイルだ。


 で、まつりの足元、アスファルトにチョークで白いラインが引かれている。


 そこがスタート位置らしい。俺もすぐに位置につく。上井草まつりは右隣で座り、クラウチングスタートをする気満々だった。虎のごとく鋭い瞳で坂の上にある学校を見つめている。


「準備は良い?」と志夏。


「おう、いつでもいいぜ」

「あたしも」


 一応俺も男だからな。女子に、かけっこで負けるわけにもいかん。とか思ってクラウチングスタートの構えをとった。つまり、本気を出すということである。


「位置について、よーい……」


 腰を浮かす。


 パンッ!


 銃声。


 よく運動会のスタートの時に鳴り響くような、火薬音だった。


 地面を蹴って、二人、走り出す。


 学校の上空には太陽。太陽に向かって走る形だ。


 少し眩しい。


 昔、街を車が走っていた頃の名残の掠れた中央線を挟んで、右側がまつり。左側が俺。それぞれのコース。


 湖から坂の上の学校までは真っ直ぐな一本道。しかし、その長さは……けっこう長い。歩いて十分以上は掛かる距離だ。


 しかも、商店街を抜けた辺りで坂が急勾配になるのだ。これはもう、女の子の体力では、走り切るなんて、とてもとても。


 上井草まつりには悪いが、女子と男子の体力の差というものを見せ付けてやろうではないか。


「がんばってねー」


 走り出した俺の背後から、志夏の声が聴こえてきた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ