笠原みどりの章_2-1
目が覚めたのは、午前五時半。早朝だった。
遅刻にならないギリギリの時間が八時半、学校までの所要時間が三十分。なので、これは超がつくほど早起きだ。
やはり、日が沈むのが早いと街が眠るのも早い。そうなると俺の寝る時間も早まるというものだ。笠原みどりと別れた後に、部屋に戻って、娯楽とか何も無いので、所在無くゴロゴロしているうちに意識を失っていた。
布団も出さずに眠ってしまったので、眠ったのは六畳敷かれた畳の上。
そして起きて、今は部屋に備え付けられたバスルームでシャワーを浴びている。ユニットバスの風呂釜の中で、蒸気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「よし」
俺はお湯を止めて、風呂場を後にする。
外に出て、開いていたカーテンから外を見る。少し明るくなってきた世界。
風車の町。
坂を駆け上っていく風が、もう風車を回している。
というか、一日中、風車が回っているんだったな。
一日一度きり、少しだけ風が弱まる時間帯があって、その時に飛行機が離着陸したり、船が停まったりして、人や物資が出入りする。
日によって風の弱まる時間帯は変わるが、それは気象予報士の腕の見せ所らしい。俺も、一昨日の夜、風の弱まった時に、人や物の出入りに乗っかって、この街に来た。
この街と外を結ぶ唯一の公的な交通機関である船を利用した。
街の東側にある隙間の崖。
ランドルト環(視力検査とかでよく見るC字のアレ)みたいな地形の隙間に接岸して、すぐに下船。急かされながら街へと続く道を歩いた。
この時、誰かが吹き飛ばされないように、下船した二十人くらいで手を繋ぎながら進むという、妙なシチュエーションがあったりする。その際に妙な団結が生まれたり、生まれなかったり。
で、その道は、両側の崖がどんどん迫ってくるみたいな感じで進むほど狭くなっていって、少し怖かった。
都会の町、ビルの間を歩いている時よりも更にこわかったな。
外側に向かって少しずつ道幅が広くなっている形で、その街に入る者には圧倒的な圧迫感を与える仕様なのだろう。そして、圧迫感だけではなく、強風も襲ってきたのも恐怖感を植えつけられた原因の一つに違いない。
船に同乗し、街の入口で別れた気の良さそうなおっちゃんの話だと、風が弱まった状態であの風らしい。
それは、もう、何かに掴まっていないとあっさりと吹っ飛ばされそうなほどの風。強風でなびいた俺の短い髪に引っ張られた毛根が悲鳴を上げるくらいの風だった。
風速は……何メートルくらいだろ。
だいたい秒速三十メートルくらいだろうか。
よくわからんが、とにかく直立姿勢を保てないほどの風だった。
俺がウサギだったら、耳で羽ばたいて空を飛べそうな感じのな。
――って俺ウサギじゃねえし、つーかウサギでも飛べるかっ。
自分でツッコミを入れて虚しくなった。