上井草まつりの章_Ending
一ヵ月後のことである。
とある学校の廊下にに、どごーーーーんという轟音が響き渡った。
俺がぶっ飛ばされる音だった。
「痛ぇえええ……」
しかし、ぶっ飛ばされた意味がわからない。身に憶えが無いのだ。
殴られる理由が無いのに殴られて、わけもわからないままキョロキョロと周囲を見渡す。
すると、怒れる上井草まつりの姿があった。
腕組をしてほの寂しい胸を張り、威圧的に俺を見下ろしている。
ピンチ! 突然の生命の危機!
「な、何だ。どうしたんだ、まつり。何を怒って……」
「昨日の夜、学区内で立て続けにセーラー服のエリが立てられるという事件があったのよ!」
「まて、それは俺じゃない。昨日の夜はお前とずっと一緒に居ただろう! 借りたDVDを徹夜で見ていたではないか!」
俺は首を振りながら、必死に事実を並べた。
「じゃあ分身してやったんだろ!」
「できるかっ!」
「口答えするな!」
「なんでっ」
「このセーラー服エリ立て教信者が!」
「なんだその宗教は!」
「お前が教祖だろうがぁ――――――!」
言って、殴りかかってくる。
「やめてぇ! せっかんしないでぇえ! ていうか信者なのか教祖なのかどっちだ!」
「問答無用ぉー!」
ばこーーーーん!
「ぐはぁあああ!」
俺は、派手に、且つ芸術的に宙を舞った。
「おりゃあああ!」
どごーーーん!
「お前がやったんだろぉ!」
ずごーーーーん!
ドサッ。
本当はやってない。やっていないけれど、許してもらわねば死んでしまう。何故だか今日のまつりは普段以上にお怒りだ。
「お、俺がやりました。もう許して……」
「許せるかぁああー!」
ずごんっ!
「カカトォ?」
視界に星、舞う。
「お前は、あたしのエリだけ立ててりゃいいんだよ!」
なんじゃそりゃ。
「だから、やってないって――げふぅ!」
殴られた。さらに胸倉つかまれて縦横に好き勝手に揺さぶられながら、
「さっき『やった』って言っただろぉお!」
「そ、そりゃ殴られたくないから……」
「しねぇ――――――――っ!」
「ひぃいいいい!」
俺は駆け逃げる。廊下を、必死で。
「あ! 逃げるな、こらぁああ!」
「ひぃいい! たすけてぇえ!」
「しね、バカ野郎ぉ――――!」
「カンベンしてくれぇええ!」
「まてぇ――――――――――っ!」
ひたすら駆け逃げたが、逃げ切れるわけもなく。
「誰かたすけてぇえええええっ!」
首根っこを掴まれながら、俺は叫んだ。
【つづく】