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上井草まつりの章_8-4

 商店街を抜けて、風車並木の急な上り坂を歩く。


「はぁ、はぁ」息切れ。「お嬢ちゃん、どこに行くんだい?」


 苦しそうな若山の声。


「お嬢ちゃんって、やめてください。上井草まつりです」


「上井草さんか。どっかで聞いたことある名前だな」


「そりゃ、有名人だもんな」


 俺が言ったところ、


「どういう意味だぁあー!」


 どかーーーん!


「特に意味は込めてないのにー!」


 ドサッ。すぐに立ち上がる。


「痛いぜ」


 若山さんは、若干ひいていた。


「ぜぇ、ぜぇ……」


 そして疲れていた。


「で、上井草さん、どこに向かってるって? おれもトシだからな、そろそろ疲れちまったぞ、この登山」


「学校に行くんです」と、まつり。


「学校……? 何で」と俺。


「学校の地下に、発電施設があるからでしょうが」


 当たり前でしょ、みたいなトーンで言われても、知るものか、そんなの初耳だ。


 そのまつりの言葉に対して、若山が興味深そうに、


「ほう……そんな所に……」


「全員避難の期限は三日。その間に何とかして欲しいの」


「まぁ、おれはエリートだからな。一日あれば十分だろ」


 自信があるようだった。





 で、学校。


 花壇のような所に、地下へと続く円いマンホールっぽい扉があった。


 その先にはコンクリート製の急な階段があって、闇が広がっている。


「こんな所に、地下への入口が隠されていたとはっ」


「あのね達矢、別に隠されてないでしょ。花壇のところに思いっきし『立入禁止ィ!』って書いてあったじゃないの」


 俺はその光景を思い出して少し笑いを交えながら、


「へたくそな字だな。誰の字だ?」


「あたし」


「ダイナミックな字だな。躍動感がある。誰の字だ?」


「今さら褒めても遅いっつーの」


 ばこっ。


「痛いっ」


「ふははっ」


 若山は殴られる俺を見て笑っていた。


 そして三人、地下に入る。


「暗いな。電気は?」


「今、点けるわ」


 そしてパチッと音がして、バチバチっと音がして、蛍光灯が点いた。


「こいつぁ……すごいじゃねえか」


 視界には、大型の機械があって、横に並んだ三つのディスプレイとその前に固定して取り付けられたキーボード。立派なコンソール。全体的に少し古くて、大量の埃をかぶっていた。


「あたしのじいちゃんが風力発電システムの責任者だったらしいんだけどね。昨日のうちに避難させちゃったから、頼れるのは若山さんしかいないの」


「おいおいまつり。俺がいるじゃないか」


「はいはい」


 溜息混じりに受け流されたぞ。


「それで若山さん。何か必要なものある? あれば取ってくるけど」


「ちょっと待ってくれ……」


 言いながら、若山はコンソールの前に立ち、キーボードをチャカチャカと操作した。


 するとディスプレイに文字列が表示される。


「何とかなりそうだ」


「そう。よかった」


「ほう、知らないOS(オーエス)だな」


「OSって、何すか」と俺。


「オペレーティングシステム」とまつり。


「だから、それが何かと訊いているんだが……」


「綱引きの時の掛け声だ」と若山。


「それはギャグっすよね」


「達矢うるさい。出てけ」


「ひどいっ」


「だいたい、OSの意味くらい自分で調べろ!」


 なんか、おこられた。と、その時だった。


「――むむっ!」


 若山が声を出した。


「どうしました?」


「パスワードの入力を求められた」


「一つ目は、558837564」


「オーケー」


 若山は言って、チャカチャカとキーボードを打つ。


「ゴーゴーファイヤーミナゴロシって憶える」


「殺伐としたパスワードだな」


「達矢。うるさいって言ってるでしょ、さっきから。若山さんの邪魔だよ」


「じゃあ、何か手伝うことはないか? 手伝いたいんだ」


「お前は戦力外だから、もう帰って良いよ」


「そりゃない! さっきから冷たい! あと、何で若山さんと仲良さそうにしてるんだよぅ!」


「何? ()いてんの?」

「やいて――えっと、やいてないですよ……」


 超妬いてた。


 とその時。


「むむっ!」と若山。


「二つ目のパスワード?」


「そのようだ」


「それは確か……」


 で、まつりは再び数字列を口にした。


「オーケー」


 そしてキーボードを打つ。


「ヤキウチ、ヤキウチ、ウチコワシって憶える」


「ひでえ憶え方だな、オイ……」


「達矢……」


「わ、わかったよ。黙ればいいんだろ」


「いや、なんかもう、存在が邪魔」


「出て行けと?」


「そう」


「いや、だが、まつりを男と二人きりにするわけには……」


「妬くなっての」


 と、その時、キーボードの音が止まり、若山さんが声を出した。


「あー、アブラハム」


「達矢です!」


「おっと、そうだった。達矢」


「何ですか!」


「おれは、女性を襲ったりするような男ではないぞ。エリートだからな」


 エリートだから女性を襲わないという理屈は通らないんじゃないか。男はだいたい女の子大好きだろう。それに、むしろエリートの方が性犯罪に走るイメージがある。偏見だけど。


「それに、おれが襲っても間違いなく返り討ちで病院送りだと思うが?」


「確かに……」


 まつりに殴られて平気なのは俺くらいのものだ。


「ほら、わかったろ?」とまつり。「たまに様子見に来てくれるだけで良いからさ、出てってくれ。気が散るだろ」


「……わかったよ」


 そして俺は、渋々地下の風車制御室を後にした。





 で、日々の習慣なのか、制御室を追い出された俺の足は自然と教室に向いた。引き戸を開けて閉め、窓際の自分の席に座る。


「………………」


 しかし、教室に来たは良いが、何もやることがないな。


「いや待てよ。そういや、昨日寝てないんだった」


 俺は机に伏して、寝ることにして、目を閉じた。




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