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上井草まつりの章_7-7

 数分後。


 俺は空腹に耐えながら窓の外の風車を見ていた。


 ぐるぐるってまわってる。目が回って倒れそう。


 そして、ぐるぐるってお腹が悲しそうに鳴いている。空腹で倒れそう。


 向かいに座るまつりに背を向けながら、ふてくされたようにして、変わらずそこにある風車観察を続けている俺。背後では、隣同士に座る志夏とまつりが、何やら深刻そうな話を軽いトーンで喋っていた。


「避難勧告の話だけど……」


 志夏が言って、まつりがこう返す。


「ああ、それね。そろそろ避難しないとまずいかな」


 返された言葉に志夏が答える。


「そうねぇ、でも一気に移動は難しいと思うわ」


「あたしたち生徒の受け入れ先の学校は見つかったの?」


「候補地はいくつかあるんだけど……」


「見せて。ファイルとかあるんでしょ?」


「うん。極秘書類だから気をつけて扱ってね」


「へいへい」


 そして、パラパラと紙をめくる音がした。


「ふむふむ。フミーン。どこが良い?」


「え? 僕ですか。僕は、できればこの街に残りたいですけど」


「それは、難しいと思うわ」と志夏。


「みどり、どこが良いと思う?」とまつり。


「へ? 何が?」


「ほら、不発弾で避難しなきゃいけないでしょ。それで、どこにするかって」


「不発弾なんて……本当にあるの……?」


「ないわ」志夏が口を挟んだ。


「じゃあ、どうして避難するの?」


「政府からそういう指示があるからよ」


「長いものに、巻かれるの?」


「ったく、みどりはどうしてそう、変なトコ頑固なの」


「だって」


「あ、上井草さん。ここなんかどうかしら。手のつけられない不良グループが暴れまわってる学校らしいわよ」


「良いわね。そこにしようか」


「でも、こっちは手のつけられない教師たちが色々悪いことしてるらしいわ」


「そこも良いわね」


「やっぱり、普通の学校は受け入れてくれないわね、私たちの学校、評判がアレだから」


 志夏は、笑顔のままでそう言った。少し自嘲気味にも見えた。


「まぁ、いいよ。とにかく、その二つの学校にチェックつけとこう。ペンある?」


「ええ。はい、これ」


 カチッとボールペンをノックするような音がした。


「あ、上井草さん。それペンじゃなかったぁ! 級長うっかりっ☆」


 えっと、こいつ本当に志夏なのか。こんな変な子だったっけ?


「え? じゃあ、これ何?」


 と、まつりが訊いた、その時だった。


『まつりがドSの大変態だからな』


 声が、流れ出した。


『やはりみどりをパートナーにしたいっ!』俺の声。

『ひゃぁ。む、胸に触らないでくださいっ』みどりの声。


 なんということでしょう……。


『まつりと俺との――』俺。

『婚姻届』俺。

『――もやしって』みどり。


 ピンチ……冷や汗が止まらない!


『でも、まつりちゃんに怒られないかな……』みどり。

『大丈夫。バレなきゃ平気だよ』俺。

『なんか、今日のみどりは冷たいな』俺。

『ひゃぁ』みどりの声。


 さっきのペン型ボイスレコーダー。まさかとは思うけど、志夏、わざとか?


 俺は恐怖で振り返ることができないまま、窓の外に視線を固定したまま掠れた声を出すしかない。


「……ち、違う……。誤解だ」


「まだ何も言ってないんだけど」


 平らかな声が逆におそろしい。


 棒読みで志夏が言う。


「ごめん。達矢くんと笠原さんの秘密の会話がバレてしまったわ!」


「おいこらぁ――」


 俺はそう言いながら、振り返った。


「――ひぃっ」


 振り返ったところで、少しの悲鳴と共に言葉を失った。


「たーつーやぁ……」


 こわいっ!


 目が、やばいっ! 殺気がやばいっ!


 何もかもやばいごめんなさい!


 死ぬっ! 狩られるっ!


「誤解なんだって、誤解! なぁ、みどり!」


 みどりの方を見たところ、みどりに何やら耳打ちしている志夏の姿が見えた。そして、みどりは志夏の言葉に数回頷いて、言うのだ。


「あたしは嫌だって言ったんだけど……戸部くんが無理矢理……」


「おいぃいいい!」


「フフフ」


 笑ってるぅ? 志夏さん笑ってるぅっ!


「おい、風間っ、何とか言ってくれ! 誤解だってことを伝えてくれ」


「無理言わないで下さい。状況証拠が揃いすぎています。間違いなく、クロです」


「み、みどりぃ……」


「緑じゃなくってクロだって風間くんも言ってるだろっ」


 ツッコミ動作と共にツッコミ調で言って来た。


 何を他人事みたいに。


 そして、


「しねぇえええええええええええ!」


 どごーーーーーーん!


 そして俺は、宙を舞った。


「四面楚歌ぁああっあああ!」


 叫びながら、ドゴン、と天井に三つ目の穴を開けた。


「この浮気モンがぁ! あたしのこと好きだって言ったくせにっ! バカッ! しねっ!」


 ああ、俺、好きになる人を間違えたかもしれない。



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