表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/579

上井草まつりの章_7-5

 昼休みになった。


 それでようやく起きたまつり。セーラー服のエリが立っていた。


「おい、昼ご飯食べるぞ」


「構わないが、その前にトイレでも行って鏡見て来い。よだれ垂れててだらしないぞ」


 本当はよだれなんて垂れてないけどな。


「ん、ああ。鏡な。鏡ならある」


 言って、スカートのポケットから小さな鏡を取り出すまつり。


 げぇ、しまった。予定が狂ったぞ。


 まつりがトイレに行って鏡を見た時にようやく気付いて、俺はまつりがトイレ行ってる隙に逃げ出す予定だったのだが。


「……何であたし、エリ立ってるの?」


「お、俺じゃないぞ」


「他に誰がやんのよ」


「……俺です、ごめんなさい」


「まぁ、良いか。別にこんくらい」


 エリを正しながら言った。


 おお、寝ている間に心が広くなったのだろうか。ここで豆知識を披露する風に語ってみよう。


「セーラー服のエリにはな、意味があるんだ」


「どんな」


「それを立てることによって、なんかステキな感じするだろ……」


 終わりである。


「……達矢、言いたいことはそれだけか?」


「そうだ。細かいことはいらない。セーラー服のエリを立てているお前が可愛い。俺にはそれで十分なんだ」


「とりあえず死ねぇええ!」


 どごーーん!


「なんでー」


 ドサッ。しかしすぐに立ち上がる。


「何でお前は、エリを立てることで船乗りが甲板上で聞き取りにくい音を集めるためだって説を言わないの! その他にも諸説あるでしょ!」


 まつりは言った。だが俺は言うのだ。


「そんなことのために、俺はエリを立てない!」


「アホかぁあ!」


 ばこーーーーん!


「いたいー」


 ドサッ。立ち上がる。


「俺は、どちらかと言えば、エリを立てたまつりの方が好きだ」


「そ、そう……ありがと……とか言うと思ったかぁああ!」


 ずごーーーん!


「あいやー」


 ドサッ。立ち上がる。


「お前、俺を殴りたいだけだろ……」


「うん」


「うんって……」


「だって愛だし」


「屈折しすぎっ!」


「光だって屈折するだろうがぁああ!」


 どかーーーん!


「意味わからーーん」


 ドサッ。立ち上がる。


「ツンデレって苦労しない?」


「いつデレたぁああ!」


 どごーーーーん!


「ツンギレでしたぁあ!」


 ドサッ。立ち上がる。


「ほら、まつり。バカなことやっていないで昼飯を食いに行くぞっ」


 言いながら俺はまつりの背後に回り、いそいそとまつりのセーラー服のエリを立てた。


「バカはお前だぁあ!」


 ばごーーーーん!


「もう許してー」


 ドサリと落ちた俺を尻目に、まつりは言う。


「さて、じゃあ皆でご飯を食べよう」


 そして、まつりはヨロヨロと立ち上がりながら、なんとか「おう、そうだな」と返事した俺に言った。


「お前、ちょっと行って買って来いよ!」


「パシリっ?」


「なんか美味しいやつ買って来い」


「抽象的っ!」


「早く行けよ」


「横暴っ!」


「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと行けぇえ!」


 どかーーーん!


 俺は宙を舞い、その勢いで廊下に出た。


 そしてまつりの手で、ピシャンと引き戸が閉じられる。


「いってらっしゃい」


 扉の向こうから、暴力女の声がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ