上井草まつりの章_7-1
寮の部屋で目覚めた俺は、仰向けに寝転がった姿勢のまま天井を見つめつつ、昨日のことを思い出し、憂鬱な気分に浸っていた。
夢だったら良いと思ったのだが、夢じゃないんだな、これが。
どうやら、俺はまつりと結婚するらしい。
「いや……ねぇだろ……」
そりゃ好きだとは言ったよ。でも、いきなり結婚とか言い出すなんて思わなかった。正直ありえん。
いやはや、予想のはるか斜め上を飛び越えていく女である。
「憂鬱だぜ」
思わず額に手の甲を当てつつ呟くほどに。
その時だった。
「憂鬱って、どうして?」
ぎょっとした。
「何だとぅ!」
がばっと起き上がると、畳の上に座るいつもの制服姿な上井草まつりがっ!
貴様っ、何故ここにっ!
「おはよう」
「おう、おはよう――っておはようじゃねえよ!」
「?」
「『?』でもねえよ!」
「どうしたんだ、達矢」
「どうもこうもあるか! ここは男子寮だぞ!」
「だから?」
「女人禁制だ」
「じゃあそれナシ。今日からナシ」
「はぁああ?」
「風紀委員の名のもとに女人、解・禁!」
「まさか、お前……」
「うん。ここに住――」
「ダメだ」
「あたしのこと好きだって言ったくせに!」
「何だこの面倒くさい女は!」
「何だってぇ!」
どごーーーん!
叫びながら宙を舞う。
「しまったぁあ。つい思ったことが口に出てしまったぁああ!」
ドサッ。すぐに立ち上がる。
「いいかい、まつり。俺たちはまだ学生だ。結婚なんて気が早いとは思わんかね」
「浮気する気満々かこの野郎ぉおお!」
ばこーーーーん!
「誤解だぜーーー!」
ドサッ。すぐに立ち上がる。
「いいか、まつり。もっと自分を大切にするんだ!」
「青春ドラマかぁあ!」
ずごーーーん!
「いたーい!」
ドサッ。気を失ったフリをする。
「おい、起きろ。まだ話は終わってない」
げしっ。蹴られた。
人間として異常すぎるだろ。何だよこいつ。
「何なんですか……」
思わず敬語を漏らしつつ起き上がる。
「一緒に住むって言っても、どうせ少しの間だけなんだから」
「はい……? どゆこと?」
「後で話すわよ。とりあえず、朝ごはんよ」
「はい……」
俺はまつりに手を引かれて、部屋を後にした。