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飛古野みことの章_13

 私たちが車で渡ってきたのは、金属を組み上げて造られた即席の橋。あまり強くなさそうな橋だった。通ったのが陽の昇らぬ時間帯でよかった。もしも明るい光の下でその橋を渡っているとわかったら、不安による悲鳴を上げてしまいかねなかったから。


 そんなこんなで、陽もだいぶ昇ってきたので、那美音さんは私に島を案内してくれるらしかった。


 この期に及んで、さてそれじゃ黄泉の国に案内してやるわね、なんてことにはならないとは思うけれど、警戒を完全に解くわけにはいかない。さっきも綺麗な景色を見せてもらう直前に、銃を突きつけられたわけだし。


 ふと、地響き。


 ずごごごごんと、爆発音がした。かと思ったら、ぐらぐらと足元が揺れた。


「な、なに?」私はしゃがみこんだ。


「ああ、また地下で爆破してるのね」那美音さんは平然としていた。慣れているのだろう。


「爆破ぁ?」


 それにしても、また物騒な言葉が出て来てしまった。この島は、鬼が島か何かなのだろうか。そして私は桃太郎役みたいなものだろうか。実は私の正体が桃太郎であることを鬼のスパイに見破られ、招待という名目で捕えられてしまったという、桃太郎伝説の変形なのかもしれない。


 そんでもって、私はこれから、「ショータイムだ」という鬼の親分の掛け声によって、ひどいことをされてしまうんだ。


 なんて、現実逃避をするように考えてみたものの、次の瞬間には、何を考えてるんだと自嘲(じちょう)して、自分の頭を軽くはたいた。


「どうかした?」那美音さんが、すごく心配していた。


「いえ……」


「あたし、本当は人間の思考が読めるんだけど、どういうわけか、飛古野みことの心が読めないからさ。嫌われていないか、とか、少し不安なのよ」


 拳銃を突きつけておいて、どうして嫌われていないと思えるのか、少し理解に苦しむ。だけど、どういうわけか、私は彼女の発言を簡単に信じた。それと思考を読み取れるということも、証拠を見せられたわけでもないのに全面的に信じてしまっていたのだ。


 理由は……何だろう。


 何でだろう。知っている気がした。彼女の能力も、性格も。


 彼女、柳瀬那美音さんだけではない。上井草まつりさんも、浜中紗夜子も、笠原みどりさんも、宮島利奈さんも、穂高緒里絵も、ファルファーレ先生も、風間史紘くんも、大場崎蘭子さんも、穂高華江校長も、愛想の超悪い先輩店員も、そして戸部達矢くんも。はっきり思い出せないけれど、以前どこかで、何度も……。


 もしかしたら、私が学園に入る前の記憶がおぼろげなことと関係があるのかもしれない。一応、記憶はあるにはあるんだけど、どうも現実味が薄い感じが拭いきれなくて、詳細を思い出せないもどかしさがあって……。


 また、地響きと揺れがセットで襲ってくる。


「何なんだろう……」


「確かめに行ってみる?」


 那美音さんに手を引かれ、地下に潜った。かつて花壇があったと思われる場所に、マンホールみたいな入り口があって、円筒状の道には梯子がつけられていた。那美音さんは、ジャンプして、翼が生えているんじゃないかってくらい、ふわり軽々と着地を決めていたけれど、臆病で慎重な私は、一歩ずつしっかりと降りていった。


「洞窟か……」


 狭くて暗くて風通しの悪い場所には、少しだけ苦手意識があった。




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