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飛古野みことの章_9

 ある日、私は工具一式と木材を買った。


 電車で遠出して買ってきた木材を持って、植物に飲み込まれた我が家を出る。すぐそばにある公園に向かった。


 目指したのは、ベンチ。


 別に、日曜大工が趣味というわけではない。今の私には趣味がない。ただ何となく私は、公園を直したいと思ったのだ。誰かのためにというわけではない。自分のために、である。


 朽ち果ててしまったままでは悲しいから。誰からも忘れられてしまうのは寂しいから。そんな悲しくて寂しいものを、見ていたくないから。


 もしかしたら、壊れた何かを直すこと。修理、修復。立て直し。そういうことに、私は魅力を感じているのかもしれない。


 釘とカナヅチを取り出して、素人丸出しの手つきでベンチを直す。


 この公園は、ベンチ以外にも直すものが大量にある。


 そう、ブランコ、滑り台、シーソー、ジャングルジムという四つの遊具である。


 ブランコは錆び付いた鎖が千切れている。滑り台は、傾斜がでこぼこしていて滑れる状態にない。シーソーは板が腐り、ジャングルジムも骨組みが何本か折れていて、どの遊具も、遊ぼうとした子供らが命を奪われてしまいかねない惨状だった。


 何とか直すことができたとして、この公園を人が使うようになるのかどうか。疑問だけれど、とにかく私は、全力でこの公園を直すと決めた。


 ふと、私の耳に、モーターの回転音が響いた。


 何だろうかと、音のした方向に目を向けると、そこには宮島利奈が居た。


 電動ドライバーを自分の頬の前で構えて、「いいっしょ?」と言った。色っぽい声だった。


 どういう意味だろうか。手伝ってもいいかと許可を求めているのだろうか。だとしたら、断る理由は無い。


「いいよ」


 利奈さんはフフン、と得意げに笑ったのだった。


 私達は二人で、ベンチに板をはめこんで、電動ドライバーでネジを回した。電動ドライバーと宮島利奈さんの威力は絶大で、一週間はかかるだろうと思われていた作業を、わずか半日で終えることができた。その上、利奈さんはいろんなものを持っていて、滑り台に使う金属の板なども持って来てくれた。


 元通り、使えるようになった公園。


 お礼として、レストランの九割引き券を三枚ほど渡したら、飛び上がって喜んでいた。安いものである。


 その日は、どうも今まで経験していないことに縁があったようで、アルバイトに入った夜には、紗夜子に料理を教わった。初めて料理を作った。店長ほど上手には作れなかったし、ヘタクソって言われたけど、初めてにしては上々だって自分で思った。


 さらに、深夜になってお店が閉まると、今度は陶芸をしに行こうと誘われた。どうやら、店長に気に入られたらしい。


 店長こと浜中紗夜子は、『工房☆風間』と看板がかけられた田舎っぽい木造家屋に入っていった。私も続く。


「ここはね、友達の風間史紘くんがやってる工房。風間焼ってブランドをつくったらいいんじゃないかってわたしは言ってるんだけどね、あんまり乗り気じゃないみたいで。彼のつくるものは、あんまり美しくはないんだけどね、魔力っていうか、迫力っていうか、生命力っていうか、不思議な魅力があるんだよ。彼とは、どっちがスゴイものをつくれるかって勝負してるんだ」


 家屋の中に入ると、いくつもの割れた陶器が転がっている。


「コノミっち、足元に気をつけてね」


「は、はい」


 奥に進むと、明かりのついた部屋があって、そこで、病弱そうな男子学生が真剣な表情でろくろをまわしていた。


 私たちは陶芸に興じた。紗夜子は上手に作ったが、私は、またヘタクソだった。


 紗夜子は、その後、今度は音楽室に行った。夏休みの深夜の学校に忍び込んだ形である。私は紗夜子を引きとめようとしたのだけど、「大丈夫だから」と繰り返していた。


 心配が的中し、途中で校長先生に見つかってしまった。着物を着た女校長だ。名前は確か……穂高華江さん、だったかな。すごく威圧感のある人だ。


「だから言ったのに……」


 私は弱弱しく呟くしかなかった。


 だけど、校長先生は、驚くべきことに、私たちを咎めることをしなかった。それどころか、


「音楽室いくのかい? いいねぇ、聴きにいってもいいのかい?」


「もち」


 音楽室では、一人の女の子が待っていた。


 紗夜子と同じくらい小さな女の子は、名前を大場崎蘭子といった。どこかできいたことがあるような、ないような。


 音楽室には、なにやらものものしい機材と巨大なモニタが設置されており、何が開催されるのかと不安になった。


 そこで私は、初めてカラオケというものを経験した。


 器用な紗夜子は普通に上手なほうで、校長先生と私は、あまり歌が上手ではなかったけど、それよりなにより、大場崎蘭子さんの歌唱力が度を越えていた。プロ並であった。


 気付いた時には、もう朝で、紗夜子も、大場崎蘭子さんも、校長先生も、私も、そろってぐったりしていた。


 とてもとても楽しい、刺激的な一日だった。



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