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飛古野みことの章_4

 その女の子は、長くて綺麗な髪をしていた。身長も私より高くって、すらっとしていて、上井草まつりさんと同様、モデルをしているのよと勝ち誇るように自慢されても納得してしまうような素敵な体型をしていた。


 宮島利奈は、偶然だねぇと目を泳がせつつ言いながら、偽ブランド品のバッグからラケットを取り出した。


 偶然通りかかっただけだよ、偶然ね、と何度も強調しつつも、自前のシェイクハンドを持参していたことから考えるに、知った上、準備万端で駆けつけたに決まっている。


 宮島利奈さんは、白々しい言葉を連投した後、不満を表に出して、こう言った。


「まったくさ、卓球するなら、わたしのことも誘ってくれればよかったっしょ」


 まつりさんの紹介によれば、この人は自称図書委員で、図書館にひきこもっていたのだという。


「ヘイ、その紹介はひどいっしょ!」


「事実だ。仕方ないだろ」まつりさんはきっぱりと言う。


「けど、利奈っちは、案外アウトドア派なところもあるよな。探検とか大好きだったろ」


「何だよ達矢。妙に利奈の肩もつじゃねぇか。浮気か?」


「なっ、何言ってんだまつり。そんなんじゃねぇよ」


「ちょっ、それ困るんだけど!」利奈さんが慌てた様子で、「わたし達矢のこと嫌いじゃないけど、でもでも、ひとのもんを横取りするなんて人の道にあらずっしょ!」


 ひとのもん……ということは、達矢くんには恋人がいるということだろうか。もしかして……。


「あの」私は手を挙げた。皆が私を見た。「達矢くんは、まつりさんとお付き合いしてるんでしょうか?」


「――あ?」まつりさんが怒り顔を向けてきた。


「んなわけねえだろ」達矢くんもドスのきいた声でブチギレ寸前である。


 そして、「誰がこんな猛獣と付き合うんだよ」と達矢くんが言えば、「はん、こっちだってお前みたいなつまんないヤツとは死んでも付き合わないし。つーか猛獣とは聞き捨てならねぇな」まつりさんが返す。


 どうしよう。すごく剣呑(けんのん)な空気になってしまった。


「何だよまつり、なんか文句あんのかよ」


「こっちの台詞だろ」


 私は、助けて欲しくて、紗夜子と利奈さんの顔を交互に見つめた。


 二人そろって、お手上げって感じのジェスチャー。


 結局、達矢くんが体育館の壁に激突することとなった。達矢くんにはもう、ごめんなさいという言葉だけでは足りないかもしれない。


 さて、気を取り直して、卓球だ。


「卓球はさぁ、わたし鍛えられてるかんね。ほら、わたしのママ、卓球チョーつよいっしょ? 国技だし。昔よくママと特訓したから、負けないし」


 そうは言っても、たぶん、今度は紗夜子やまつりさんに泣かされることになると思う。この二人は実力が桁違いだ。私の見た限りでは、宮島利奈さんは、二人に比べて運動神経が良くなさそうだ。


 案の定、あっという間の決着。


 涙目だった。


 バックスピンや、サイドスピン等、いろんな種類の回転をかけて工夫していたけれど、紗夜子には全てより強い回転で返され、まつりさんには回転を無視したスマッシュを滝のように浴びせられて、四つん這いになった。雫がぼたぼたと床に落ちる。


「よわっ」


「利奈、おまえホントに口ばっかだな。激弱じゃねえか」


「ひどいっしょ……」


 だけど、使えない子と断ずることはない。戸部達矢くんや私とは同じくらいの力量であり、この後、三人でとても楽しく卓球ができたのだから。


 卓球台を二つ並べて、一つは光をほとばしらせながらレベルの高い応酬をしていて、もう一つは、ほのぼのと温泉でやる卓球のごとく平和で優しい打ち合いを展開したのだった。


 私は達矢くんとペアを組んで、宮島利奈さんを相手に、ラリー、つまり、何本ミスなく打ち合っていられるかという、地味な遊び方で楽しんだ。


 ボールが行ったり来たり。ダブルスを組む達矢くんと、前と後ろで何度も入れ替わったり。


 不意に利奈さんがラケットを振った拍子に、すっぽぬけてしまって、紗夜子の方に飛んだんだけど、まつりと勝負中の紗夜子はあくまで冷静に対処した。キャッチして、そのまま右手に装備したのだ。両手にラケットを持つ形で、まつりさんとの対決を続けた。


「ちょ、まて、両手とか卑怯!」


「じゃあ、まつりも両手使えばいいんだよ」


「あたしにゃ無理!」


 左と右とを巧みに使って、まつりさんを翻弄しはじめた。本当にもう、器用すぎて驚きを通り越して、恐怖すらおぼえるレベルだ。


 紗夜子とまつりさんが休憩に入っても、まだ私たちはリズミカルにラリーを続けていた。台のそばに寄って来たまつりさんは、次のように言った。


「なかなか退屈なことしてるわね。バーってやって、ガーンて打っちゃえばいいのにな。なんか地味だよな」


「そうね」と利奈さんが言い返しながら、球を打ち返す。


「卓球で、こうも長いことラリーが続くと、だんだん打球の音がさ、『紅野明日香、紅野明日香、紅野明日香』って、明日香の名前を連呼してるように聞こえるわね」


 そうしたら、達矢くんはボールを打ち返しながら、まつりさんにも言葉を返す。


「ほう、まつりもそう思ったか。実は俺も、全くおんなじことを考えていたところだ」


「お前と一緒にするなぁ!」


「ヌアァッ!」


 戸部達矢は苦しげな声を残して、体育館の天井に向かって打ち上げられた。それでラリーが途切れてしまって、利奈さんが、ひどくしょんぼりしていた。


「あのさ、紅野明日香って誰?」


 私は紗夜子にきいてみたけれど、紗夜子はふふんと不敵に笑っただけで、答えてくれなかった。




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