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超能力暴走バトル編_Ending

 達矢が船倉から釈放されて数分後。


 氷を割って進む船、その甲板上にて、達矢と明日香に、更生期間の延長、まぁつまり刑務所で言う刑期みたいなもんの延長が言い渡された。不純異性交遊としては激重の五百年の罰なのだが、内訳としては不純異性交遊というよりも、暴走して町を危機に陥れたことに関連することが大半だった。そんな身に憶えの無いことで五百年自由を奪われるなんて言われたもんだから、明日香は大変怒り、まつりと喧嘩になりかけた。


 また暴走してはたまらないと、達矢に何とかしろとコタツから指示が飛んだりしたが、達矢一人では力不足。事態を何とかするため、ひとまず華江さんに調停を任せることにした。


 その際に、今回の事件、そのそもそもの発端が明かされたのだった。


 華江は、広い船室の中、丹前を羽織り、布団の上に正座して、話を始める。


「問題は、紅野明日香ちゃんに責任があるかどうかってことだよねぇ。さて、そもそも、何で紅野明日香ちゃんがあんなことになったか、緒里絵、何か心当たりあるかい?」


 いきなり犯人を名指しだった。


「な、ないにゃん」


「うそだね」


「……ない、にゃん」


「言ってみな。ヒントは一升瓶」


「押入れにあったお酒なんて飲んでないにゃん! 飲もうとしたけど、何も入ってなかったにゃん!」


 おそらく、飲もうとした時に封印が外れたに違いない。中身が酒ではなく、悪しき炎だったのは、誰にとっても誤算だっただろう。


「やっぱあんたじゃないの! このバカ!」


 バシン!


「いたいにゃん」


「あと百発くらいぶん殴ってやろうか?」


「死んじゃうにゃん」


「いっぺんくらい死んだ方がいいねぇ、死んで出なおしてきな」


「うむにゅん……」


「またふざけて!」


 バシン、とまた殴る。


「あの一升瓶には封印が施してあったんだよ。それをっ」


「なにそれ」


「何か、代々受け継がれてきたもんらしいのよ。悪いもんを瓶に詰めて封印したって話でね、昔は神社があったのはあんたも知ってんだろ?」


 頷いた。


「宮島んとこのロケットで吹っ飛んでからヤバイって言われてるもんはみんなウチで引き取ったんだよ。だから、迂闊に押入れとか地下室のもんいじるなって言ってんのに、このバカ娘ときたら」


 バシン!


「あう……痛いにゃん……」


「あやまんなっ。迷惑かけたんだから、あやまんなさい。みんなに。ほれ」


「ごめんにゃさい」


 ヘラヘラしていた。


 ごすん、と拳が落ちた。


「あんた何さ、その態度。斬り殺すよ、あぁ?」


 達矢は思わず「こ、こえぇ……」と恐怖を口にした。


 さすがの緒里絵も、尋常じゃない殺気にびびったようで、基本的に本気で謝ることは珍しいのだが、さすがに謝罪する。


「はにゃん……ごめんなさいでした」


「土下座!」


「はひ」


 土下座した。マットに手をついて、ごちんと強めに額をぶつけていた。痛そうだ。


「まぁ、こういうわけなんだけど、どうか許してやってくれないかねぇ」


 人々の意見は、意外にも一致していた。


 ――まぁ、穂高緒里絵なら仕方ない。


 そんなんで良いのかと言いたいところだが、皆、緒里絵のことは何だか憎めないらしい。


 というわけで、そもそも、明日香覚醒の朝に悪しき霊を封じ込めた瓶を解放した緒里絵のせいで生まれた炎であり、原因も明らかになったところで、明日香は言う。


「じゃあ、私の罪も消えたわけね? 私が暴走したのは私のせいじゃないってことで」


「それは、残念だけど、ダメだ。お前、さっき達矢とキスしようとしてたし」


「ちがっ、あれは、達矢が無理矢理……」


「何だと、達矢。キミはあれか、婦女暴行常習犯か!」


 そんなまつりの言葉に、達矢は言う。


「ふっ、何を言うか。心の底から明日香が大好きだから、キスしたまでだ」


 言ってやった、という顔で誇らしげに笑う。明日香は恥ずかしそうだったが、まんざらでもないというか、相思相愛なので、どこか嬉しそう。


 利奈は「え」と意外そうに声を漏らし、紗夜子は興味なさそうで、みどりは「あれ」と呟いた。緒里絵は相変わらずのアホ面だった。


 というわけで公開告白だったが、それによって罪が軽減されることは残念ながら無いだろう。


「ま、とにかく、しばらくは二人とも、元の町になんか帰さねぇからな」


 そして、まつり達と明日香と達矢は、同じ学校に転校することになるのだった。





 転校。そう、転校である。


 元の、風が坂を駆け抜けたり、風車が回転したりする町には、もう居られない。とりあえず、一旦、安全が確保されるまで別の学校にまとまって行くことになった。そういったわけで、最後に残っていた町の人々は砕氷船に乗ったというわけだ。


 原因は、志夏だった。


 これは、仕方のないことだ。どういうことかといえば、暴走明日香の発する高熱に対抗するため、志夏が上空の寒波を地上に送り込み続けたという行為が原因。


 結果として、寒波を呼び寄せるサイクルがそのまま残ってしまい、それまで暑かったのが嘘のように氷に鎖されてしまった。


 寒くて、風が強くて、人間が住めない。寒くなることが想定されていないため、建物の窓も薄いし、風車が凍って止まってしまって、電気も通らない。豪雪に見舞われ、春になれば、急斜面を雪崩が駆け抜ける可能性だってある。


 雪と氷に鎖された町。どう見ても、そこは廃墟。


 強がりな志夏が一人で過ごす町。


 人が確かに生きていた証を示すものだから、廃墟だってさびしくはないと志夏は言う。


 観客も共演者も居なくなった舞台みたいなものだから、そんなに嫌いじゃないとも言う。


 でも、でもね。


「やっぱり、この結末は、違うよね」


 手をかざした。



 ――どうか、それぞれの心に、それぞれの理想郷が、生まれ続けますように。



【超能力暴走バトル編 おわり】



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