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超能力暴走バトル編_44

「そこの食糧とか盗み食いすんなよ? すぐチュウチュウするネズミ野郎が」


 指差して、吐き捨てるようにそう言うと、ハシゴの先の扉を閉め、施錠。完全な密室が完成した。


「まったく、投げ落とすとか荒っぽいな、まつりは。入っとけって言われりゃちゃんと入るのに」


 と、呟きながら起き上がった、まさにその時だった。


 達矢の耳に、はっと息をのむ音が届いた。


 船倉は、真っ暗ではない。蛍光灯が一本あって、その白っぽい明かりで薄暗いながらも互いの顔がハッキリクッキリ見えるくらいには明るい。


 ふとみると、驚いた女の子の顔が達矢の下にあって、すぐさま怯える表情を見せて、狭い部屋の隅へと逃げた。とはいえ、そんなに広い場所ではなく、畳一枚分のスペースしか無かったのだが。


「お、お前。何でこんなとこに?」


「わ、わかんない」

 明日香だった。俯いていた。顔が赤かった。


「わかんないってこと無いだろ。お前も、まつりにぶち込まれたのか」


「う、ううん。あ、あの、自分から……」


「自分から船倉入りを志願したのか? 酔狂なやつだな」


「ち、ちがくて。一人になりたくて」


「ていうか、どうした、様子が変だぞ。何をそんなにおどおどしている」


「え、え? う、あれ、てか、何であんた平気なの?」


「どういう意味だ」


「だって、その、あんな……あんなこと、しといて。私に、しといて」


「あんなことってのは、あれか、キス……」


 明日香は頷いた。


 すると、達矢は言うのだ。誇らしげに。


「だって、好きだからな。恥ずかしいことなんて、無いから」


「え、ど、どういうこと?」


「明日香のことが、好きって言ったんだよ。愛。英語で言えばラヴだ。そうじゃなきゃ、たとえばキスしなきゃ世界が滅ぶって言われたとしても、本当に好きな人じゃなきゃ、あんな思い切り何度もキスしねぇよ」


 ものすごい格好つけていた。


 僅かな沈黙。エンジン音が、大きくなった気がした。


 明日香は考え込む。


 ――何度もしたんだ。何回くらいしたんだろう。どんな風にされてて、その時私は、どんな風になっちゃってたんだろう。


 多少記憶は残っていたが、全部というわけにもいかず、想像しても、なんだかよくわからなかった。


 静かな世界に、明日香の声が響く。


「ねぇ、達矢」


「何だよ」


「私さ、あんま、憶えてないの」


「暴走してたときのことか?」


 すると明日香は渋い顔をして、「ううん」と言って勢いよく頭を振った後、言うのだ。


「キスした時のこと」


 少しだけ考え込み、達矢はすぐに正解に至る。


「ええと、それは、なんだ、あれか、思い出したいってことでいいのか?」


「ま、まぁ……うん。なーんか、こう、くすぐったいけどずっとそうしていたいような、感じたことのない感触で、好ましい何かに支配されているような、ウザ可愛い感じではあったんだけど、やっぱり、ちゃんと思い出したいっていうか……」


 すごく恥ずかしそうであった。


「でも、それは断っていいかな」


「え……」


 戸惑った。困ってしまった。


 明日香は、好きだった。達矢のことが。いつから好きなのかは自分でも思い出せないくらいに昔から。だから、キス要求を断られてしまって、何故だかものすごい焦りを見せた。それはもう、視線をあちこちにグラグラさせてしまうほどに。


 それを見て、達矢は意地悪な感じにニヤニヤ笑う。


「明日香」


「え、な、なに、達矢」


 明日香はおっかなびっくりと、薄氷に踏み出すように。


 達矢は当たって砕けろの精神で、限りなく格好つけた声で。


「もっと、いい感じのキス、してやるよ」


 言って、彼女の肩と腰を抱き寄せ、顔を近づける。明日香は静かに目を閉じて、達矢の背中に手を回し、そして二人は、唇を――。


 バダンと、船倉の出入り口が開いた。


 止まった。


 まつりだった。


 目を逸らした。


 上井草まつりは、胸をつき合わせて絡まっている二人を見て数秒間固まった後、狭い船倉に下りて、二人の存在を無視するように棚を物色する。


「あー、カオリがなぁ、ポテチ的な菓子食いたいっつってたから、取りに来たんだけどな」


「そ、そうなんだ」


「へ、へぇ、おりえのための菓子を取りに来てやるなんて、や、やさしいな、まつりは」


「お、あったあった。んじゃ、大人しくしてろよ」


 そして、船倉が閉じられる。それで二人はまた見つめ合う。と、閉じかけた瞬間、また開いた。


「あ、ていうかさ、お前ら、何してたの?」


「「ぷ、プロレスごっこ?」」


「何だそのバカみてーな言い訳」


「ちょ、まつりに呆れられるとむかつくんだけど!」


「いいからほれ、さっさとしろよ。チュウするんだろ」


「い、いや、そんなことしない。俺は紳士だからな!」


「そ、そうよ。しないわよ!」


「あぁ、そうなの? さっき達矢がさ、皆の前で自慢げに言ってたんだぜ、俺は明日香に何度も接吻してやったってな。しかも、べつに誰も聞いちゃいないのに、なんかすげー事細かに。どこ触りながらとか、明日香はどこが弱いとかな」


 半分くらい嘘である。大いに脚色されたものである。自称風紀委員としては、こう言えばどうなるか先が読めるというのにこんなことを言って、なんとも意地悪である。


 まつりの思惑通り、明日香はとても怒った。


 頬を膨らまして顔真っ赤で、恥ずかしそうな目で。


「ま、まて違う! まつりが言うのは嘘だ! 俺はそんなこと――」


「じゃあ何でまつりが、キスしたこと知ってるのよぉ!」


 そして明日香は、「神さま、この最低男を殴ることをお許しください!」とか言った後、達矢を突き飛ばし、平手で思い切りぶん殴って、船倉を出る。


 勢いよくハッチが閉じて、しっかりと施錠された。


「ちくしょーう! まつりィ!」


 憎しみにまみれた叫びを上げるしかなかった。


「このっ! うるさいわね、バカ達矢!」


 ハッチを蹴飛ばす音がした。




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