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超能力暴走バトル編_26

 ボロボロの昇降口。保健室に放置されただぶだぶ制服少女。爆発のあった三階の理科室付近で横たわる紫ローブの那美音と、散乱したガラスの破片やら焼け落ちた木片やら大量の銃やら溶けた毒アイスやら。


 戦いの末、それら全部を置き去りに、ついに一行は四階に辿り着いた。


 発熱の原因たる少女は、窓際後方の席に座り、四階の高さから外を眺めていた。たそがれていた。


 赤い光に包まれながら、いわゆる死んだ魚のような目をして、ボーっとしている。あまりの高熱のため、座っている椅子や近くの机の金属部分が赤く変色していた。


 気温四十度の室内。


 志夏の力でおさえつけてもなお、そのくらいの熱がある。


 そこにやって来たのは、生徒会の密命を受けた団体一行。


 風紀委員の上井草まつりを先頭に、プチ不良な戸部達矢、理科室のヌシである浜中紗夜子、宝刀を持ったにゃんにゃん娘の穂高緒里絵、商店街の看板娘である笠原みどり。


 紅野明日香の陣取る三年二組に辿り着いたのはその五人だった。


「あっついなぁ。何だここ」


 そう言って、明日香をにらみつけたのが上井草まつり。


 事件発生時の明日香とまつりの関係は、勝負保留で、次の朝を迎えたというものである。じゃんけん対決を連続あいこで終え、翌日に決着をつけるはずだった。しかし、明日香はパイロキネシスの暴走、つまり発火能力が暴走して町がえらいことになったために、勝負がついていないままだった。


「決着、つけようか、明日香あ」


「…………」


 しかし明日香は我を忘れている。侵入者たちの方に目をやり、声を発したまつりを見つめてはいるものの、そこに意思は感じられない。


「残念だわ。あまりにも。本来なら、意識のある明日香と決着をつけたかったんだけど」


 そして、叫ぶ。


「目をさまさせてあげる!」


 拳を構え、思い切り教室の床を蹴り、全力で加速した。


 勝敗は、すぐに決した。


 みどりの応援もむなしく、あっさりとした敗北だった。


 手も足も出なかった。


 あの上井草まつりが、一発も入れることなく負けたのだ。


 電光石火で殴りかかるまでは良かった。上井草まつりは正々堂々が信条なので、正面から最大火力でいくのは当然だった。しかし、明日香はダークだった。


 突如何も無い空間から発生した闇の紅い炎の帯が、背後と側面から同時に襲い、何とかそれを超人的勘と身のこなしで回避したまつりだったが、明日香の生み出した炎は回避した方向に追尾した上に、先回りして発生した巨大な炎がまつりに襲い掛かった。


 まつりは飛び退きつつも「あっちぃ!」と叫んだが、それで炎が消えることはなく、高熱がぶつかって服に引火した。まつりは「やばいやばい」と叫びながら水を探したが、教室に水場が無く、やむなく廊下に脱出。水道エリアまで駆けて自分の体に水をかけて安心した。だが、どういうわけか炎が消えない。水をかけても消えない炎だったのか。だとしたら幻覚なのではないかという疑問も浮上するだろうが、これは幻覚ではない。明日香の放った炎が特殊なのだ。


 まつりは「ああん、もう!」と叫んで焦って服を全部脱ぎ捨てて、またしても下着姿になると、ようやく炎の恐怖からは解放された。


 炎上を続けた服はまるでまつりが脱ぐのを待っていたかのように焼け焦げ、やがて灰になったかと思ったら、完全に消滅した。廊下には焼け跡ひとつ付かなかった。


 まつりが得意なのは近接戦闘である。というより、それしか能が無い。近づけないのでは、どうあっても勝てないと考えたまつりだが、それよりもひとまず服を着るべきだと考え、三年三組、無人の教室にあったカーテンをぶっちぎり、それを体に巻いてバスタオル巻いた風呂上りのおねえさんスタイルに変化した。明日香の居る教室に行けば自分の体育着があるので、それに着替えることを前提とした一時的措置だった。


 ともかく、格好つけといて惨敗したまつりはそんな見ようによってはいやらしい格好で三年二組に戻り、こう言った。


「炎出すとか卑怯すぎ!」


 何を言っても、自我を失った明日香は反応しなかった。


「まつり、かっこ悪い」と紗夜子。


「う、うるさいっ!」


 こうして、まつりは惨敗し、教室廊下側にある自席、その机横のフックに引っ掛けてあった白い袋を手に取り、また隣の教室へと向かった。


 というわけで、五人の中でも最強を誇る上井草まつりの敗北から始まった戦闘だったが、まつりがやられたことで誰も向かって行く者がいなかった。


 誰だって、負けるとわかっていて挑むことはよほどの理由が無い限りありえないはずであるし、教室も特別に暑いというので、とりあえず廊下にぞろぞろ出て戸を閉め、協議する。明日香は追ってくるわけでもなかった。


 まず話を切り出したのは紗夜子だった。


「ノアちんって、何者なのかな」


 ノアちんとは、明日香のことである。


 この問いに答えたのは、隣の教室から出て来たばかりのまつりだった。


「ひきょうもの」


 まつりは体育着を着ていた。着替えたようだ。この袖をまくって肩を出すスタイルがお気に入りだった。


 しかしまぁ、この卑怯者という明日香に対する評は無視された。単なる負け惜しみだと思われた結果の冷ややかな反応だった。よって、まつりはあからさまに()ねて黙った。


 紅野明日香は何者か。達矢は言う。


「フツーの女の子だと思うけどなぁ」


 しかし、すかさずみどりが、


「フツーの子、火炎とか出さないんじゃない?」


 すると紗夜子が、


「火遊びくらい皆するじゃん」


「そういう規模じゃねぇだろ」達矢。


「火遊びって……あんた……」

 みどりは何かよからぬことを想像したらしく、顔を赤くしていた。


「わかったにゃん!」穂高緒里絵が手を打って、「エイリアンだったんだにゃん」


「何言ってんだいカオリ。単なる超能力者だよ」と、まつり。


 紗夜子もハッとして、


「実はこの世に存在しないのかも」


「何言ってんの」


 みどりはツッコミを入れた。しかし紗夜子は、なおも続ける。


「地底人のセンも捨てがたい」


「何で地上に出て来たのよ」


「ドラゴンの血を引く者とか」


「アニメ見すぎだし、なんかさっきからあんた感性おかしい」


「じゃあキツネ! もうむしろキツネウドン!」


「うむにゅん、きつねうどんってカタカナで書くと怪獣の名前みたいだにゃん」


 すると紗夜子は何かを理解したように頷きを見せ、


「なるほどぉ。“紅”野明日香できつねうどんか。つまり、赤いからうどんかー。ってことは、サハラが“みどり”だから、えっと、たぬきそばだね。カタカナで……タヌキソバ」


 紗夜子の言葉に対し、みどりと達矢を除く全員が、


「「「なんか弱そう」」」


「あたし怪獣じゃないわよ!」


「きゃあおこったにゃん、にげろー!」


 緒里絵は一人、走り出す。


「おいこら、お前ら真面目にやれよな!」


 プチ不良の達矢が真面目に見えるほど、緊張感の無い連中だった。




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