超能力暴走バトル編_25
バシャンと水が派手に飛び散って、湖畔の土を濡らした。
水に放り投げられたのは、女。岸には一人の男が居た。
杖をついて、ピリリと背筋を伸ばした老人が一人。威厳がありそうな感じだった。
あろうことか全裸の華江が、老人の手によって湖に放り込まれたわけだ。
バシャバシャと意識を取り戻した音を立てて、華江は湖面に顔を出す。
「村長……」
髪を整えながら、そう言った。
「穂高の。何をしとるんじゃ、お前は」
老人の、全盛期の面影を残す鋭い視線が華江を射抜いた。
それで酔いが吹っ飛んだ。
「あ、いや、えっと、その、すみません」
「そこからあがって服を着ろ」
そして差し出されたのは、下着と、上井草まつりの予備の予備の予備の制服だった。
華江は、岸に大事な部分を隠しながら上がり、服を受け取り、下着と制服を素早く着る。体を拭いていないので、少々不快だったが、何も着てない状態よりもマシであろう。
華江は、少々胸がきついと感じながらも、自分の制服姿にまんざらでもない様子で、スカートをパタパタしてみたり、くるりと回転してみたり、腕を見つめながら伸ばしたり引っ込めたりしていた。
「懐かしいねぇ、この腕の三本ライン。あたしも入れてたよ」
上井草まつりの長袖制服には、いつも三本ラインが入っている。まつりいわく支配者の証とのことだが、実は学校の伝統だったらしい。まあ、支配者というよりも問題児の烙印だったりするのだが。
「懐かしんどる場合か」
老人は、威厳ある口調でそう言った。
「あっは、すんません」
さらに老人は、昔話を語り出す。
「その昔、始まりの人の祖先は、壺を肩にかけ、魔を払う宝刀でもって戦ったと聞く。人の悪しきところを斬って封印することのできる伝説の宝なのじゃ」
華江は無言を返して目を逸らした。宝刀はともかく、壺の方は砕け散ってプラスチックゴキ○リの隣で中庭に散乱している状態だからだ。
「あの剣と壺を持った者に斬られた者は例外なく、限りなく善良で人々を照らす存在になれるのじゃと。じゃから、遥か昔には村長は必ずあの剣の洗礼を受けたというのじゃが、まぁ、最近じゃあ、近代化が進み、そういった儀式は残っておらんがな」
「あの刀と壺にそんな神話があるんですかねぇ。村長の作り話じゃなくて?」
それで村長がムッとしたので、華江は焦りながら頭を下げる。
しかし老人は怒ることなく、提案した。
「どうじゃろう。うちのバカ孫あたり、この機会にこっそり斬ってみるとか」
「無理ですよ。あの子、強いから」
「あんたよりもかい?」
「そりゃもう。あたしなんて全然。これでも、自分と相手の力量くらいは見定められるくらいの長さは生きてるんでね」
「そうかい。相手が孫じゃとどうしても冷静な目で見られなくていけないのう」
「それに、たとえその昔話が本当だったとして、あの刀で無理矢理善良にしなくたって、何とかなるもんですよ」
「うむ、それには同意じゃな。あんたが更生して子供まで産んだなんて、未だに信じられんわい」
「あはは、ちがうねえ、村長。子供産んだからさ、あたしの場合はね」
「ふむ、男には、わからんが……そういうこともあるらしいのう」
「そのうち、あの子にもわかる日が来るさ」
「そうじゃといいのう」
「大丈夫。あたしが保証するからさ」
「アテにならんの」
「どういう意味だいそれ」
「ときに華江さん。何か言うことがあるんじゃないかい?」
すると穂高華江は、少しの沈黙の後、深々と頭を下げる。
「ごめんなさい、壺、わっちゃいました」
「やはりそうか。相変わらずそそっかしいの」
「返す言葉がないねぇ」
華江は、ばつが悪そうに笑っていた。