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超能力暴走バトル編_23

 和風な着物を装備した、美しく、麗しい、見た目より年いっちゃってる女性が、テントの前に着いた。肩に壺を担いでいた。壺というよりも、花瓶と言った方がそれっぽいのだが、とにかく肩に器を担いでいた。


 そこにゴキ○リが降って来た。と言っても、プラスチックのオモチャだが。そいつは空中を滑空し、華江の胸に取りついた。何かが着物の胸にくっついたことに気付いて、そこに視線を落とし、


「うぁあっ、何だい、何だいこれぇ!」


 慌ててしまってフラフラして、バランスを崩して派手に転んでしまった。尻餅をついた華江のそばで、ガパシャンカラランという限りない不吉さ全開の音色が響き渡った。


 割れていた。


「……あやや、三億円の壺が」


 あややとか言ってる場合ではなかった。


「うわ……えっと……どうしよ、これ」


 この壺は、事態を何とかするためには不可欠なもののはずである。ゲームだったら、捨てようとしても「ぶぶー捨てられません」と言われるような、だいじなものである。


 こうなれば仕方ないねぇ、と華江は呟き、坂をトボトボと降りていく。風車並木の急斜面を過ぎて、穂高花店の引き戸を開けて中に入る。


 風が通り過ぎた。


 自宅に入った華江は、地下に直行し、ワインセラーからとっておきのヤツを取り出し、棚の側面に引っ掛けてあった蓋のコルクを抜くやつを手に取る。螺旋の金具がついた古いもので、それを使ってグルグル回した後コルクを引き抜く。


 ラベルは色あせてよくわからない。しかし、穂高家のコレクションであるから、はっきり言って高いものしかない。ロマネなんちゃらとかそういう類のものかもしれない。


「飲むしかない、飲むしかないのよぉ!」


 学校に壺の残骸を置き去りに、フラフラ家に帰って酒を飲む。何というか、ダメな人である。


「これじゃ娘のことを叱れやしないよぉ、まったくもう」


 何かに怒りをぶつけたいといった口調で言いながら、頭上の蛍光灯に顔を向けてラッパ飲み。ソムリエに激怒されそうな、上品さのカケラもない飲みっぷりだった。普段はこんな豪快な飲み方はしないのだが。


 穂高華江は、なかなか酒に強い。そう簡単に酔ったりしない。しかしながら、さすがに連続で何本も一気飲みして、しばらく経つと、体が焼けるように熱く感じられた。


 地下のワインセラー。高価な着物を汚しながら高価な酒をガブ飲みを続けていると、視界がゆらゆらと揺れはじめた。立ち上がろうとしたら、立てなかった。


「あえ……なんれ……」


 呂律(ろれつ)がまわらない。汗だくで、顔が赤い。


 よろめいて、飲み干した後の瓶をガチャガチャと倒した。


 ばたりと倒れてしまったが、何とか棚の角につかまって起き上がる。


 とてつもない高揚感と、乱れた呼吸と、せまくなった視界。どこか一歩引いたもう一人の自分が冷静に何をバカなことしてんだろうなと思っていたり。そのうち、みずから帯を解き外し、長着も何もかも脱ぎ捨てて、うっかり年齢制限がかかりそうな生まれたままの姿になるが、その年齢にしては美しい肉体は地下の薄暗い明かりでは、はっきりと見ることはできない。


 全部夢だったらいいのに、とか思った。


 町が好きだった。どんな風に変化したって、自分の町だった。四枚羽の風車だった頃のイメージが強いけれど、三枚羽が並ぶ今だって悪くないと思っていた。壊れて欲しくないと、人が住めない町になって欲しくはないと思った。


 もしも大きく変わるなら、次は十枚羽とか、六枚羽とか、めっちゃ巨大な大風車とか、そういうのもいいなぁとか思った。


 ふふふと笑って、もう空になった瓶を傾ける。


「あやや、ねいら」


 あらら、無いやとでも言いたかったのだろうが、もう日本語が崩壊していた。


 穂高華江は深いようで浅い眠りに落ちた。だらしなく「くかー」とイビキをかいて。あられもない全裸のまま、寒い部屋で。




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