超能力暴走バトル編_22
達矢と那美音は、銃が散乱する廊下で戦っていた。一方的な展開である。それを傍観しているのは、那美音側に寝返った紗夜子。
達矢にこれといった攻撃方法が無いため、ただ避けるだけの展開が続く。何を避けているのかと言えば、銃だ。
銃弾ではなく、銃本体である。
那美音のローブの中から、一体、何丁隠してんだってくらいの銃が出てきて、しかも紫女はその引き金を引くわけではなく、ただ投げ飛ばしてくる。
時々でかい小銃とか猟銃とかが風を切って飛んできて、スリル満点なのだが、達矢はそれを何とか時々カスりながらも避け続けている。
しかし、俺けっこうすげーじゃんなどと思っている達矢だが、実は那美音は本気で攻撃しているわけではない。
わざとギリギリで外しているのだ。
そして、本当の目的は理科室の破壊にある。
那美音の投げる銃のいくつかは、すでに達矢の背後にある理科室に穴をあけた。それを続ければ、いずれ理科室が崩壊してしまう。
那美音は言う。
「マナカ。よく見て。達矢くんが避けるせいで、理科室がこわれちゃう」
「たっちー、よけんな」
「俺に理科室を守る盾になれと? それ死ぬだろ」
「だって、たっちーは死んでも文句いえないもん。女の子にあんなオモチャしかけるなんて、極悪だもん」
「フフフ、そう、そうよ。仲間割れしなさぁい。フフフフフ」
笑っていた。早い話が、ピージーの仕返しとばかりの精神攻撃だった。
「おい那美音。性格が限り無くダークだぞ、お前」
「闇の炎の眷属になった柳瀬那美音は、もうあなたたちの知ってる柳瀬那美音ではないのよ」
すると紗夜子は言う。
「元々ヤナセなんて人しらないよ。上井草那美音なら知ってるけど」
「あぁ、確かにそうかもね。でもそんなことより負けを認めなさい。マナカ」
「うん、まけ」
諸手を挙げた。
「おいおい、紗夜子……」
「だって仕方ないよ、たっちー。わたしの家、人質にとられちゃったんだもん」
だからそこは理科室である。紗夜子の家ではない。
と、その時だった。階段を上ってきた小柄な女子が一人。
その何か細長いものを抱えた女子は、目の前の光景を目の当たりにして、首を傾げた。達矢が手前に居て、那美音が暴れ、その後ろで那美音を応援しているっぽい紗夜子が居る。
「どういうことだにゃん。何で、どうしてまなちゃんがあっち側に居るにゃん? さては、たつにゃん、売り飛ばしたにゃん?」
穂高緒里絵だった。プライスレスなレベルの高価な宝刀を持ってやってきた。
達矢としては、自分の中で納得のいく言い訳が思い浮かばず、回避しながら考えるというのも大変だったので、
「いや、その、なんつーか。ごめん」
とりあえず謝った。
「ひとでなしっ、ひとでなしだにゃん! 何で売り飛ばしたんだにゃん」
「いやぁちょっと待ってくれ。売り飛ばしたんじゃなくてだなぁ、色々とあるんだよ、色々と」
「色々って何だにゃん」
すると那美音が横から割り込んで、
「ゴキ○リのおもちゃを飛ばしたのよ」
「いや、あのゴキ○リは、その……ていうか違うんだよ。紗夜子の理科室さんがだな、人質にされて……」
と、さらにそこに上井草まつりとDが現れて、
「おい、忌まわしい生物の名を口にするな、ころすぞ」
一気に人の増えた三階の廊下だった。
そんなタイミングで、那美音が銃を投げるのと同じ動作であるものを投げつけた。
それは高速で音速の壁を破り、上井草まつりの方向に飛んだ。
まつりはプラスチックの忌まわしきソレをキャッチして、手の平に視線を落とす。
「ひっ、ぎゃあああああああああ!」
那美音は攻撃の手を休めて言う。
「達矢くんがやれって言うから」
「言ってない、言ってないよ!」
そして紗夜子が追い討ちで、
「でも、あのゴキもどきは、たっちーの所有物だよね」
なおも「あああああああああ!」と叫ぶまつり。珍しいことである。まつりがこれほど長い恐怖の悲鳴を上げるなどということは。
Dくんが、「落ち着くっす! それオモチャっす!」と言ってもまつりはパニックで、周囲の人間全員ぶっ飛ばしそうな勢いで腕をぶんぶん振り回したりしていて、廊下の壁を殴り壊し、コンクリが鉄骨むき出しになるくらいに抉れたりしていた。
全ては、まつりがゴキ○リのオモチャを握り締めているからだが、嫌なら手放せばいいのに、冷静さを失っているためか手放さない。
で、その場に居る人々の肉体を脅かす危機的状況を救ったのは、何と、普段は役立たずのにゃんにゃんアホ娘だった。
「まつり姐さん! 落ち着くにゃん!」
そう叫んで、まつりの腕に取りつき、叫びの中でぶんぶん振り回されながらも手をこじ開けてプラスチックゴキ○リを掴み取り、廊下から、めちゃくちゃになっている窓へと投げ飛ばした。
窓の外に落ちていった。
落ち着いた。
まつりはゼェゼェとしばらく息を吐いた後、沈黙の中、立ち上がり、
「……今見たことは、わすれろ!」
どうやら、自分が取り乱したという事実を記憶から消し去ってもらいたいらしかった。