超能力暴走バトル編_21
中庭に築かれた大本営のテントにて、志夏が息荒く、苦しそうに膝をついていた。普段、こんなにも呼吸を乱すことが無いので、隣に居た風間史紘はものすごくビックリした。
「級長? どうしたんですか?」
「どうもこうも、言ったじゃないの。私の力だって有限で、永遠に町を冷やしてなんていられないのよ」
「あわわ、僕は、どうしたら良いでしょうか。あ、僕の薬のみます? 万能薬だそうですから、何にでも効きますよ」
「それね、あなた医者にだまされてるわよ。万能薬なんてありゃしないわ。きっと、あなたを安心させる気休めよ」
「え……」
フリーズした。
確かに、志夏が言ったのは正解で、彼の主治医が渡す薬はただのビタミン剤だ。彼の病気は、そう簡単に治るものではないどころか、薬が国内で認可されていないのでどうしようもないのだ。
それでも、何とか闇ルートを通じればどうにでもなるのだが、この町の医者はそんなリスク背負って他人を治すほどやる気のある人間ではない。医者としての適性を欠いていると言われても仕方ないほどヤブなのである。やる気も実力も無いと、そういうことである。
つまり、今まで風間史紘は薬ではなく栄養剤を飲まされていたわけだ。
とはいえ、薬というのはある意味、精神で飲むものであるから、それまで効き目が全く無かったわけではない。
とりあえず、言わせてもらおう。なんと悪い子だろうか、伊勢崎志夏。イライラしてるからって、そんなこと言わなくてもよかったのに。
「と、ということは、級長。やはり僕の病気は、絶対に治らないんですか?」
「知らないわよ」
なんか、酷かった。
その時、テントのそばに、男が一人転がってきた。Dだ。
ゴロゴロゴロと転がって、ゲホゲホゲホと咳き込んで、口元を拭うと、やがて怒りの瞳で敵を見据えて立ち上がる。
土汚れにまみれたイケメンが見据えるのは、坂の下、陽炎の中からやって来る上井草まつり。
上井草まつりには敵わないと、D本人は理解している。しかし、一発ぐらい返さないと気が済まない。それまで一度だって決定打を与えられたことが無いけれど、とにかく本気で一発入れねば、目的に向かうことすらできない。
優先すべき依頼である穂高緒里絵から宝刀を受け取ることを後回しにしてでも、プライドを保とうと必死なのである。
しかしその時、テントから飛び出した志夏があからさまに苛ついた声を出した。
「まちなさい!」
それで二人の拳が止まる。
「何よ、志夏」
「上井草さん、Dくん。あなたたちが戦ってどうするの」
「戦わなくては、わかりあえないこともあるっす」
志夏はこの日何度目かの溜息を吐いた。
「今、やることではないでしょう。後で存分にやればいいけどね、とにかく今は紅野明日香を何とかしなさいって話よ。何であなたたちはそれがわかんないの。いつまで遊んでんの。バカじゃないの?」
すると上井草まつりは、
「お、おう……」
と言って、ちょっとだけ反省した。
しかし、Dくんの気はおさまらないようで、
「生徒会長さん、オレはこの怒りをどこにぶつければいいっすか?」
などと言って拳を握ったままだった。
「とにかく、喧嘩してる場合じゃないのよ。はやく紅野さんを何とかして。だんだん熱の力が増しているの。冷風を送るにも限界があるわ」
まつりはフムフムと頷きながら、
「よくわからんが」わからんのかい。うなずいたくせに。「とにかく明日香を早く何とかしないとヤバイんだな?」
わかってんじゃないか、よくわからんとか言ったくせに。
「そうよ。何度も言うけど、あなたたち遊びすぎなの。さっさと何とかしてくれないと困るわ」
「だってよ。D。カオリと一緒に独房入るのと、ひとまず休戦するの、どっちがいい?」
「話が、よく読めないんすけど」
「つまり……これこれこういうわけ……なのよ」
まつりは紅野明日香の暴走に関する話と、那美音とアルファという二人が敵に回っていることを語り、
「なるほど。そういうわけだったんすか。オレの方も……これこれこういうわけ……なんすけど」
Dの方は華江から依頼されたことを返した。
「あぁ……ってことは、特にカオリが好きとか、そういうことじゃないんだ」
「カオリって誰っすか?」
「いや、まぁ、今のは独り言だから気にすんな」
「そうっすか。まぁ、それはともかく、生徒会長さん、穂高緒里絵を見なかったっすか?」
すると、志夏は首を傾げた。しかし、その志夏の横に居た風間史紘が片手を挙げながら言う。
「あ、彼女なら、さっきパタパタ小走りで校舎の中に入っていきましたよ。なんか細長いものを抱えて」