超能力暴走バトル編_20
ちょうどその頃、上井草まつりが自宅でシャワーを浴びて、予備のまた予備の長袖制服に袖を通してテレビしか並んでいない店の外に出たところだった。
というわけで、ちょうど幼馴染の写真を手に歩いている男子生徒Dが通り過ぎていくところに出くわした。
まつりは低めの声を出す。
「おい、お前」
「うぐ、上井草まつり」
「お前さ、ちょっと一発殴らせてくんない?」
「意味わかんないっすけど、珍しいっすね、そっちから喧嘩をふっかけてくるなんて」
「ちょっと、無性に誰かを殴りたくなってね!」
そして、向かっていく。
男らしく構えたD。
男子生徒Dは強い男である。しかしながら、それよりも強いヤツというのも風車の町には数多く存在していて、その筆頭が上井草まつりだった。まつりは名実ともに学園最強の人間であり、あえて順位をつけるとしたらDくんの立ち位置なんて十本の指にも入らない。つまり格が違う。
拳はDを襲い、あっさりと腹部にヒットして、
「うぐぁああ!」
坂の下から吹き上げる風に逆らって空を飛んだ。
しかし、Dは腹をおさえながらも立ち上がり、反撃に出ようとする。
と、その時だった。
上井草まつりは、Dの手に穂高緒里絵の写真が握られていることに気付いた。
緒里絵の母親を含め、緒里絵の好きな人が誰かというのは周知のことである。
まつりの目には、緒里絵が思いを寄せる相手が緒里絵の写真を握り締めていたという光景が見えたわけで、その途端にまつりの態度は急変した。
「まて、D。もういい。許してやる。行け」
くいっと親指で学校を指差した。
「はぁ?」
イケメンがもったいないくらいの、すごい顔になった。
そりゃそうである。一方的に殴られて、反撃しようとしたら「許してやる」とか言われてさっさと行けよみたいな態度をとられたら、誰だってその意味不明さに顔面を崩すだろう。
「いいから行けって言ってんだよ、オラァ!」
まつりは坂の上にある学校に向けて、男子生徒Dを打ち上げた。Dは風に乗った。