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超能力暴走バトル編_18

 校舎三階、今にも戦いが再開されようと言う時に、笠原みどりが現れた。


 みどりは、紗夜子の姿を目にして、「おっ」と少々びっくりしたような声を出したが、すぐに敵の方を見る。目的は紗夜子に関連したことではなく、アルファを何とかすることだった。何とかアルファの戦意を喪失させて、危険なロケット弾を撃たせないようにするのだ。


 笠原みどりの手には、アイスクリームがあった。コーンの先に二段重ねのアイスが乗ったもので、笠原商店にある機械で作るものよりも固く、ソフトクリームと呼べるものではない。アイスクリーム。あくまでアイスクリームである。白いバニラの上にストロベリーみたいな色のものを積んでやってきた。見た目は、いかにも爽やかそうである。


 アルファは、それを見て感動的な表情を見せた後、あからさまに「欲しいな、くれないかな」といった子供らしい顔に変化した。キラキラ光線である。仕草まで子供っぽくて、自分の唇をぷにぷに触りながら、欲しいなぁを表現している。


 もちろん、みどりは最初からアルファに与えるつもりでアイスを持ってきていた。


「アルファちゃん」


「ミドリおねーたん、それ……」


「うん。これね、アルファちゃんにあげようと思ってね」


 パァッと花が咲いた。


「アイスクリーム♪ アイスクリーム♪」


 歌うように。


「でも条件があるわ」


「条件?」


「ロケットとかね、爆発物使うのやめなさい」


「うんやめる」


 即答だった。余程アイスが欲しいらしい。


「約束だからね。破ったら、もうアイスあげないからね」


「うん。早くちょうだい。溶けちゃう」


 事実、溶けかかっていた。何せ、明日香のせいで校内はとても暑いのだ。


 アルファは、那美音の防御範囲の外に出て、みどりに歩み寄る。手に持っていた紗夜子の靴を投げた。紗夜子はそれを拾って履きなおす。そしてアルファは、アイスを手にして、すぐに溶けかかったそれをペロリと舐めた。


「うぅっ……」


 アイスをポロリと手放し、廊下にドサリと倒れた。


 なんと腹黒い女だ笠原みどり、と達矢は思った。毒や睡眠薬でも仕込んだのかと思ったのだ。しかしながら、みどりにそんなつもりなど毛頭なかった。単に手作り料理が信じられないほどポイズニングなだけである。


 アルファは気を失った。


「えぇ? あれ、アルファちゃん?」


 何と、アイスクリームは手作りだった。市販のものを積めばいいものを、校舎一階の家庭科室、そこで液体窒素なんかを使って手作りなんてしたもんだから、見た目はいいけどポイズンな感じになってしまったのだ。 こうして、笠原みどりの意図しない活躍でアルファを倒し、「なんかよくわかんないけど、アルファちゃん保健室に連れてくね」とみどりが言い残して二人去った。


 達矢と紗夜子の二人が、那美音と対峙した。


 那美音を倒せば、明日香への道が開ける。


 いや実は、三階から四階へ続く廊下はガラ空きで、別に那美音と戦う必要なく辿り着けるのだが、やはり物事には順序というものがある。中ボス二人を倒さねば、ラスボスには辿り着けないものなのだ。


「たっちー。どうしよう」


「どうもこうも、紗夜子の方が那美音……いや、サナだったか。幼馴染なんだから詳しいんだろ? 何か弱点とか無いのか?」


「毒が苦手」


「それ、たいていの人苦手だろ」


「あとは、うーん。お肉が苦手で、食べられなかった」


「何と、そいつぁ人生損してんなあ。魚は大丈夫なのか?」


「うん。サナは、魚介類はむしろ大好きだった」


 ただ、そんな好き嫌いの問題は、戦いにおいて弱点を突くという問題とは別である。


「蟲とかはどうだ? 嫌いな動物とか居れば。ほら、ここ理科室なんだろ? 標本とかチラつかせればビビるんじゃないか?」


「あー、でも、わかんない。この町さ、蟲とかあんま居ないし、だからこそ苦手かもしんない。わたしもやばい蟲は苦手だから理科室の標本なんて全部捨てたし」


「なるほど、そうか」


 達矢は切り札を使うことにした。しかし、目の前の那美音は思考を読める化け物である。普通の人間に通用する精神攻撃でも、その意図を先に理解してより大きな精神攻撃や力づくの叩き潰しを発動させるだろう。


 達矢の切り札は、相手に重大な隙を作らせるものだと達矢自身は思っている。だから、考えを読まれるわけにはいかない。


 考えを読まれないために、まずは無に、心を無にしようと思った。が、いや待てその必要は無いかもしれないとも考える。もしかしたらと達矢は思った。


 次の瞬間には、全力でエロいことを妄想してみた。心の中、あらゆる妄想力を駆使し全力で那美音を辱めた。これでもかというくらいに。何かが立ち上がっちゃうくらいに。思わず年齢制限をかけねばならないことを大量に。だが那美音に反応は無かった。


「ふぅむ……」


 達矢は股間を膨らませながら、呟いた。


 その妄想は確認だった。さすがにこれで反応しないとなれば、今、事実上心を読む能力は発動していないということになる。そこに勝機を見出せるのではないかと思った。


 確かに達矢の考えた通り、まつりと拳を交えて以降、心を読む能力を使っていない。


 何故かといえば、アルファが至近に居たからだ。アルファの居る場所で那美音の心を読む能力を発動すれば、アルファの人間離れした大容量ハイスピードの思考が流れ込んで来てしまう。那美音はその思考が苦手であり、うっかりそこで読心力を使えば酷い頭痛を引き起こすだろう。つまり、達矢の予想は当たっていた。ロケット娘のアルファが健在で居る限り、完全ではない那美音の能力の発揮は難しいのだ。


 しかし、もうアルファが居ないのだから、能力発動しても問題ないのではと考えられるはずだが、そうもいかなかった。


 この時の那美音は心を読みたいと思っていなかったのだ。


 何故かと言えば、幼馴染や妹が自分という存在を前にして何を考えているのか知りたくなかったのである。もしも、遥か昔のターニングポイントで那美音が町を出て行かなければ、まつりはもっとマトモで優しい良い子に育ったかもしれない。那美音としては、まつりが変な子になってしまった責任は自分自身にあると思っていた。さらに那美音が出て行かなければ、紗夜子が肩を痛めた後も何とか幼馴染の世界を落ち着かせることができたかもしれないし、そうやってリーダーらしく修復すれば幼馴染がバラバラになることも無かったかもしれない。


 そのことを、町に来ていくつかの心を読んだことで理解していた。


 つまり、この時は、紗夜子の心を読むのが恐怖だった。


 というわけで、達矢は確信した。


 ――今、那美音は心を読む能力を使っていない。


 さぁ、股間もおさまったところで、先日笠原商店で購入した究極兵器を使う時が来たようだ。


 達矢はポケットに手を入れる。何かを取り出すのかと身構えた紫ローブの那美音だったが、何が出てくるのかわからなかった。


 達矢は、プラスチックゴキ○リ、略してピージーを親指で発射した。それは真っ直ぐ那美音に向かって飛んだ。瞬時に手榴弾のような爆発物だと予想した那美音は、それを掴み取ると、達矢に向けて投げつけた。


 しかし、達矢にはぶつからず、紗夜子の方に飛んだ。


 ピージーは、紗夜子の額にペタンと当たって、小さな右手の上に落ちた。


「ひっ」


 小さな悲鳴の後、甲高い悲鳴が響いた。右手でそいつを投げた。空に向かって飛んだ。天井しかなかったから跳ね返った。紗夜子の広いおでこに直撃してぴったりくっついた。


「わやぁああああ!」


 パニックだった。首をぶんぶん振り回して吹っ飛ばした後、その場に座り込んで、


「うぇっ、ひっく」


 泣いた。


 空中にまたしても舞い上がったピージーの行く先は、那美音方面だった。自分が握って投げ返したのが、禍々しい害虫だと理解し、予想外にも、「いやぁあああっ!」と叫びながら手をゴシゴシと壁にこすり付けていた那美音の顔面だった。


 はりついた。


「いぁ、ひぃあああああ!」


 叫び声が止まらない。目の端に涙を浮かべている。


 達矢は思った。おっと、これは大変なことになった。まさかこんなに効くとは、ニセモノのゴキ○リなのに。


 その思考に、那美音は我に返った。


 さすがの予想外事態に、回線を開いたのだ。つまり、心を読み始めた時に達矢の単純な思考がダバダバ流れ込んできたということ。


「ふっ、やってくれるわね、達矢くん」


 気付いた。ニセのプラスチックゴキ○リだと。


 そして次の瞬間にはローブの中に隠してあった拳銃を構えた。ローブの隙間から、ちらり胸の大きなふくらみが覗く。


 うげぇやべえと達矢は思った。紗夜子はしくしく泣いていた。


 戸部達矢は、この事態を何とかせねばせねばならぬと思い、ひとまず悲しそうに泣いちゃってる紗夜子をどうにかしなければならないと思った。


「紗夜子」


 達矢が声をかけたところ、いきなり抱きつかれた。


「たっちー、ごきっ、ごきっ、うあーん」


 紗夜子は泣いている。達矢の胸に顔を埋めて泣いている。


 まずい、動きを奪われた。紗夜子の感触とかは良い感じだけれど、抱き返してやりたいけれど、いやもう抱き返そう。死ぬ前に、可愛い子を抱きしめる機会が得られた分、良い人生だったじゃないか。


 達矢は、とりあえず紗夜子をギュギュッと抱きしめつつ一度はそんな風に諦めかけたものの、やはり死にたくないと思い、苦し紛れの嘘を吐くことにした。


「さ、紗夜子、よくきけ」


 抱きしめられたまま顔を上げた。


「なに」


「さっきの蟲、いただろ」


「うあん、思い出させないでよ、きもちわるい」


「ああ、気持ち悪い蟲な。実は、あれはあの女のしわざだ」


 嘘である。


「あの女って……サナ?」


「そうだ。サナとやらからの、お前に対する攻撃だ。よく思い返してみろ。あのゴキは、あいつがお前に投げつけただろ?」


「たしかに」


 その前に達矢が親指で弾き飛ばしたのだが、その辺を思い出すことなく、達矢を信じているようだ。那美音はなんかもう呆れた様子。


「ほら、見ろ、あいつの手の上を。黒光りする害虫があいつの手の上ではおとなしくしてるだろ? あいつは蟲を操る魔女なんだ」


「言われてみれば、ローブとか目つきとか魔女っぽい」


「だろ? あの構えた銃から蟲がピロピロって出てくるんだ」


「まがまがしい! たっちー、それまがまがしいよ!」


「ああ、禍々しいな。だから、俺たちはあいつを倒さねばならない! あの最低の女をな!」


「サナ! みそこなった! 何でそんな子になった?」


 すると那美音は、こう返す。


「ひきこもりにそういうこと言われたくないんだけど」


 紗夜子は達矢から離れ、那美音を指差して。


「たっちー、あいつ最低だ!」


「ああ最低だ。蟲を操るばかりか、可愛いお前のことをあんな風に言うなんて」


「たっちー、どうすればいい?」


「まずは、あの銃を何とかせねばなるまい。あの蟲がピロピロ出てくる銃を構えられたまんまだと迂闊(うかつ)に動けやしない。実は、あの蟲は全力で発射すれば殺傷力も発揮するのだ」


「あれ、でもそれって、半分くらい詰んでるってこと?」


「半分どころじゃない。ほぼ詰んでるってことだ。奇跡でも起きない限り厳しいだろう」


「じゃあ、こういうのはどうかな」


「どういうのだ」


「さっきの女の子」


「アルファのことか?」


「そう、アルファ。またの名をファルファーレ。そのアルファを人質ってことにする」


「なるほど。紗夜子、おぬしも悪よのぉ」


「フフフ、ありがとう」


 褒めてない。そして達矢はとことん最低だ。


「きこえたか那美音! お前の可愛いアルファは人質にとった! 返して欲しくば投降しろ!」


 しかし那美音は言うのだ。


「ここに、引き金があります。実はこれは銃ではありません。引き金を引けば、理科室が爆発します。どういうことだか、わかるわよね、マナカ?」


 マナカとは、浜中紗夜子のことである。


 つまり、那美音は理科室をぶっ壊すと言ったのである。


 紗夜子の顔色が変わった。理科室という住処に加え、その中にある特に芸術的創作物を盾にとられたのでは、紗夜子は那美音に逆らえるはずもない。


 達矢は、何となくそういった雰囲気をキャッチし、心底まずいと思い、


「紗夜子、大丈夫だ。あいつの言っているのは、嘘だ。理科室は爆発なんてしない」


「あら、どうして達矢にそんなことがわかるの? もしあたしがコッソリ爆発物を仕掛けていたら、達矢の選択がマナカの家を破壊する引き金を引くのかもしれないわね」


 達矢は紗夜子の左肩に手を置く。


「安心しろ紗夜子」


「さわらないで!」


 激しく拒否した。いついかなる時でも、紗夜子は左肩に触られるのは嫌なのだ。


「う、おう、すまん。とにかくだな、紗夜子の家は絶対に大丈夫だから、な? 俺を信じろ」


 その時、紗夜子はどっちにつくべきか迷い始めたようで、二人の顔を交互に何度も見ていたのだが、ここで那美音は事実を並べる。


「マナカ。よく見て。このゴキ○リくんはオモチャよ、プラスチックの。そしてよく思い出してみて。これが最初、どこから発射されたのかを」


 紗夜子はハッとした。


 そして、戸部達矢が伸ばした手をすり抜けて那美音のもとに歩み寄ると、達矢を指差して、


「あやうくだまされることだった。たっちー、あまりにもダーク! さては、闇のノアちんに操られてるんだね?」


「ノアちんてのは誰だ」


「紅野明日香ちん」


 こいつらはわかりにくいあだ名をつける天才なのか、と達矢は思った。サナだのマナカだのサハラだのマリナだのカオリだのマツリだの……いや、マツリはわかりやすいか。とにかく、名前の一部を取り出してあだ名にする決まりのようだ。


 とすると、戸部達矢はどうなるのだろうか。「ベタ」とかそういう感じだろうか。


 達矢は慌てて言う。


「落ち着け。違うぞ紗夜子。操られているのは俺じゃない。那美音だ。そっちは危険だ、戻って来い!」


 しかし、もう信用は失われていた。


「だまりなよ、ダークたっちー」


「紗夜子、まさかお前まで、そっち側につくって言うのか?」


「とにかく、たっちーは敵!」


 柳瀬那美音は、どうよ達矢くんとばかりにフフフと笑った。




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