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上井草まつりの章_5-3

 暇潰しにやって来たのは、またしても学校。


 今日も休日私服登校である。俺がまつりを探して歩いていると……。


 ――いた。


 発見。制服姿の上井草まつり。理科室の前をウロウロしていた。


「よう、まつり」


「げっ――」


 小さく声を漏らして、ダダダダッ、と逃げ出しやがった。


「ちょっと待てぇ! 顔を見た途端に逃げ出すってのはどういうことだ!」


 ダダダダダッ、と俺は追いかけた。


 で、しばし追い掛け回した末に教室で捕まえる。


「よう、達矢」


 まつりは、涼しい顔で挨拶してきた。


「お、おう……おはよう」


「そういや、達矢。お前のせいで腕と足が痛い」


「そりゃ、昨日あんだけ俺に殴る蹴るの暴行を加えればな」


「はっはっは」


 いや、笑い事じゃ済まないレベルなんだがな。俺じゃなかったら死んでるぞ。


「それで、今日は何の用だ」


「特に用は無い」


「何で用もないのに休日の学校に来るんだよ」


「その言葉、そっくりまつりに返してやる」


「あたしは――……」


 言い掛けて、ごにょごにょ煮え切らない様子だった。


 まつりらしからぬ歯切れの悪さだ。


「お前は何か用があるってことだな」


「…………まぁね。風紀委員だし」


 そういうことにしといてやるか。明らかにパトロールって雰囲気ではなかったけど、俺はそういった気付きにフタをしてやれる優しい男なのだ。


 で、まつりは言う。


「とにかく、理由がないのに休日の学校に来てはいけない」


「何で」


「あたしが今、そう定めたから」


 何とまぁ、俺のせいでまた新たな学園法が生まれてしまったぞ。


 しかし、抜け道はあるものだ。


「理由があれば良いんだな?」


「そうね」


「じゃあ、お前に会いに来たってことで良いか?」


「なっ……っ」


 赤くなりやがった。意外だ。


「お前……もしかして恋愛とか苦手?」


「あたしを、からかった?」


 半分以上本気だ。この真剣な目を見てくれればわかると思うが。


「からかったんだな! バカにしやがって! 最っ高にバカにした最低の目だ!」


「ちょ、ちょっと待て、今のでそんなに怒ることないだろって――」


「死ねぇええ!」


 ドゴーーーーン!


「いたいさぁー」


 沖縄風の声を上げて宙を舞った。


 ドサッ。すぐに立ち上がる。


「やれやれ。痛いぜ」


「……お前、嫌な奴だな」


 散々殴ったり暴言吐いたりした上でシリアスにしみじみと人格を否定してきた。ひどい奴だ。


「どこが嫌な奴なものか。俺のようなイイ奴はそうそういないぜ」


「何か、お前、あたしの思い通りにならない」


「人と人の関わりって、それが当り前だろ」


「殺すよ?」


「おい、脈絡なさすぎんぞ……」


「あたし、怒ってるんだけど」


「俺に対して?」


 するとまつりは頷きながら、


「そうよ」


「何で」


「自分の胸にきいてみな」


「おい、何でなんだ、俺の胸」


 俺は自分の胸にきいた。返事は無い。


「ふざけんなっ! 殺すぞ!」


「だが、お前の胸に聞くのはもっと無理だな。あるんだかないんだかも不明な、ほの寂しい胸だからな。はっはっは」


「このぉ!」


 ビビァーン!


 外人女性の名前みたいな殴られ音がして、俺の体は宙を舞った。


 そしてドサリと床に落ちる。


「けふぅぁ!」


「殴るぞ!」


 もう殴ってる。


「死ね!」


 ああ、死にそうだ、今にも。打ち所が悪かったら死ぬぞ、まじで。


 だが、それでも俺はスッと立ち上がった。


 頭から何かドクドク赤いのが出てるけど、こんなものは五秒もあれば止まるぜ。どうやらこの町に来てからの俺は特異体質になっちまったようだからな。


「あたし、お前なんか嫌いだ」


「俺はお前の事、嫌いじゃないぞ」


「このっ……」


 俺は殴られると思って身構えた。


「…………あれ?」


 殴られなかった。とはいえ、腕組で顔をしかめていて、それ以上ないほどのイライラを表現している。今にも暴力を振るわれそうで半径一メートル以内に近付きたくない。


 そういや、ふと気になったんだが、まつりは避難勧告のことを知っているのだろうか。


「そういえば、まつり」


「あぁ? 何だよっ!」


 威圧的な声。まるで不良。まさに不良。だが、もう声くらいでは俺は怯まない。俺は言った。


「避難勧告の話、知ってるか?」


「何それ」


 キョトンとした。知らないようだった。


「なんか、南の方に不発弾があるって話だぞ」


「不発……弾?」


「そう。だから、街の住人は一週間以内に避難しなくてはならないそうだ」


「そんな」


「ウソじゃないぞ。志夏に訊いてみろ」


「訊いて来る!」


「あ、ああ」


「じゃあね!」


 まつりは言うと、走り去った。


「じゃあなー!」


 彼女の背中に向けて言った。


「…………」


 案外、正常な反応するんだな。


「……帰るか……」


 もう学校に用がなくなった。俺は寮に帰るため、廊下を歩き出した。




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