超能力暴走バトル編_14
校舎の三階には、まつりとアルファと那美音が居て、まつりが孤立無援で二人の強敵と対峙している形である。四階に明日香が一人、高熱を放っている。
ひとまず三階の様子を見れば、アルファが那美音に何かを手渡しているではないか。
「アルちゃん。これ何」
「強力睡眠薬。静脈に注射するの」
「なんだ。でも、あたし睡眠薬持ってるわよ。口に入れただけで眠っちゃう、いかれたレベルの強い薬」
「あぁ、そっちの方がお手軽です」
「まぁ、紅野明日香を捕えるためのものなんだけど、残念ながら目的が変わっちゃったからね。捕えようとしてたものを守ってるなんて、何だか不思議な感じよね」
しみじみと言った那美音は、まつりの方に視線を向けた。
まつりは、どうしちまったんだと言いたくなるほどにオドオドしていた。
「お、おねえちゃん、いつからここに?」
まつりらしくない、妹らしい甘えたような声を出した。
「いつって、最近だけど」
「帰って……きたの?」
「まぁ、そうねぇ」
「おかえ――」
「待ちなさいまつり」
「ふぇ?」
「今のあたし達は敵同士。紅野明日香の邪魔をする者は、妹といえども排除せねばならないの。わかる?」
「え、いや、でも……」
もじもじしている。何だこの豹変ぶりは。あまりにもまつりらしくない……と、何も知らない達矢あたりは思うに違いないが、まつりは姉の帰りをずっと待っていたのだ。
「ていうか、おねえちゃん……」
「まつり!」
ビクッとした。
「な、なに?」
「その『おねえちゃん』って言うのやめなさい。今のあたしは敵なのよ。いつものように『しね、このクソ女』とでも言って掛かってきなさいよ」
「い、いやあたしそんなこと言わないよお」
言ってる。普段は言っている。これでもかというくらい死ねだの殺すだの言ってるし暴力も振るってる。しかしながら、まつりとしては姉に知られたくないのだろう。隠しても那美音には全てお見通しなのだが。
「とにかく、そっちから来ないなら、あたしから行くわよ?」
「え、そんな。待ってよ、おねえちゃん。納得いかないよ。何であたしよりも紅野明日香の味方してるの?」
「は? 何その言葉遣いは。猫かぶってんじゃないわよ」
「質問に答えてよ!」
と、そこで会話に割って入ったのは、アルファだった。
「あたしが知ってるよ」
「何なの。紅野明日香は何が目的? どうしておねえちゃんが……」
「那美音おねーたまとあたしは、明日香おねーたまの忠実なるシモベなのです。明日香おねーたまと共に、世界中を闇の炎で焼き尽くすのです!」
するとまつりはこう言った。
「あたしも一緒に焼き尽くしていい?」
なんということだろう。まさかの寝返りだった。
上井草まつりが、明日香、那美音、アルファの三人と手を組んだ。
思わず、傾きかけの大本営テントに居る志夏は溜息を吐いた。