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超能力暴走バトル編_13

 爆発をきっかけとして、それぞれが動き始めた。


 たとえば浜中紗夜子は自分の城である理科室が三階にあり、その無事を確認しようと走り出したり、それを追いかけて「待ってよ、まなちゃーん」と言いながらも鈍足なため置いて行かれる穂高緒里絵だったり。


 たとえば華江の命令によってショッピングセンターへと向かった緒里絵の弟だとか、若山だったり。


 たとえば身を守ろうと咄嗟に階段方面に逃げた後爆風に(あお)られ階段から転げ落ちたものの奇跡的に無傷だった笠原みどりが立ち上がって急いで逃げるように階段を降りて行ったり。


 たとえば戸部達矢が窓の外に吹っ飛んでアクション映画さながらに大本営テントにバウンドして跳ね上がり、志夏の上に落ちそうになったところで志夏はこれを受け止めるでもなく回避したためにドサリと落ちたり。


 たとえば、上井草まつりと柳瀬那美音が咄嗟に男子トイレに駆け込んで助かったり、撃った反動で転がったアルファが、煙――自らの発射したものがもたらした燃えさかる炎で発生した黒煙――にむせて咳き込んでいたり。


 とにかく動き出した。動かなかったのは、三年二組で高熱を発し続けている紅野明日香くらいだ。


 目下の何とかしなけりゃならないポイントを挙げるとすれば、大多数の人間が、アルファと答えるだろう。銀髪少女の暴れっぷりは少し度が過ぎる。達矢やまつりのようなしぶとい敵を撃退するにはそれくらいのことが必要なのかもしれないが、それにしたって校舎を破壊しすぎである。消火が急がれるという意見もあるだろうしそれも重要だろうが、まず、ところかまわずロケットをぶっ放しまくるアルファを何とかせねばならないだろう。


 達矢は落ちた先の中庭で立ち上がり、三階の爆心地を見上げた。


 ボロボロになった校舎。昇降口にはガラスが飛び散り、三階の理科室近くの一角は窓が吹っ飛んで窓枠がグニャグニャになり、木材を使用している場所もあるから所どころ炎が上がっている。なんかビニール焼いた時みたいな嫌なにおいもする。もはや勝負どころではないんじゃないか。


 校舎内には明日香、まつり、那美音、アルファ、みどりが居て、そのまま校舎に居たら炎に焼かれたり煙で肺をやられたりするのではないか。そう考えた達矢は、三階に向けて叫ぶ。


「まつり! 脱出できるか?」


「はぁ? 脱出だぁ? 何言ってんだ。こんくらいの炎、なんともねぇよ!」


 あいつは絶対に調子に乗って死ぬタイプの人間だ、と達矢は思った。


 さて、プチ不良がどうしたもんかなと思っていると、紗夜子が達矢の横で立ち止まった。


「うあ、わたしの家が!」


 理科室のことである。紗夜子が寝泊りしていて自分の好きなようにカスタマイズしていたが、あくまで学校のもの、つまり公共のものである。紗夜子の家では断じてない。


「大事なもの救出しなきゃ!」


 紗夜子は言って、走り出し、ボロボロの昇降口から入っていった。


 続いて達矢の横に現れたのは、穂高緒里絵だった。緒里絵はぜぇぜぇと苦しげに息を吐いた後、顔を上げ、


「うぁあ、大変だにゃん! 火事だにゃん! 誰か中に居るのかにゃん?」


 達矢は答える。


「ああ、まつりとか……」


「まつり姐さんがピンチ! 助けに行くにゃん!」


 そして紗夜子に続いてこれまた昇降口へ消えた。


 さらに続いて現れたのは、穂高緒里絵の弟、穂高秀雄であった。


 秀雄は消防車についているような丈夫そうなホースを引きずって来ていた。ホースがどこから伸びているかと言えば、湖そばに停車している色あせたボディの消防車である。遥か遠くの地域名が書かれていて、しかも色あせていた。湖の中にホースが浸けられていて、そこから水を引っ張ろうというわけだ。


 が、全く水が出なかった。


 秀雄と若山は、トランシーバーで連絡を取り合う。


「若山さん。水が出ません」


『なにぃ? そんなはずは……』


「どうします?」


 ホースが長すぎるためか、あるいは何かが詰まっているのかとも思われたが、実は消防車が故障していて、ただの走る褪せた赤い箱になっていたという、お粗末な話だった。


 エリート若山は、消防車を何とか動かそうと必死になって修理を試みたが、門外漢であったし、そもそもパーツが足りなかった。元々、強風が吹き荒れるこの町においては車の使用が禁止され、ゆえに消防車もほぼ使われたことが無い。つまり飾りみたいなもので、消火はもっぱらバケツリレーで行われるという原始ぶり。つくづくこの町で起きる出来事は頭でっかちな若山の守備範囲外のことばかりだった。


「若山さん。このままじゃ学校が……」


『わかっとる。じゃあ、学校に水道通ってるから、そこで水汲んで何とかするしかねぇな』


「わかりました。やってみます」


 そして無線通話を終えた秀雄は、テント付近に居た三名。戸部達矢、伊勢崎志夏、風間史紘に向けてこう言った。


「すみません、皆さん。消火作業を手伝って下さい」


 しかし、その必要は無かった。


 何と、驚いたことに、みるみるうちに空を暗雲が覆い、突然の豪雨がピンポイントで学校を襲ったのだ。


 外で消火作業に取り掛かるため動き出そうとした人間たちが雁首(がんくび)並べて唖然としていると、志夏が、


「達矢くん。憶えておきなさい」


 とか言った後、キメ台詞を言うがごとく達矢を指差すポーズをとって、


「――これが、神風というやつよ!」


 目的を終えた雲はあっという間に晴れた。


「あ、ああ、よくわからんが、よかった。火が消えて」


 というわけで、華江に消火を命じられた秀雄と若山のコンビは全く役に立てなかったけれど、何とか火は消えて、戦いが再開されようとしていた。


 雨上がりの世界に残されていた達矢は、しばらくボケーっと校舎三階を眺めていたが、やがて上井草まつりに加勢し、明日香を何とかするために校舎の中へと消えた。



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