超能力暴走バトル編_9
その頃、穂高緒里絵と浜中紗夜子は図書館の入り口近くのテーブルに隣り合って座っていた。
「暇だにゃん」
そう言った緒里絵の方は、退屈そうにグッタリと頬をくっつける形で机に伏していて、
「暇だねー」
そう返した紗夜子の方は、町が大変なことになってるというのに自分の部屋から持ち出してきた携帯ゲーム機で、遊んでいた。
「なんか冷房さむくないにゃん?」
「んー、気のせい。ちょうどいいよ」
「そうかにゃん」
やや沈黙があって、口を開いたのは意外にも理科室ひきこもり娘の紗夜子であった。
「ときにさ」
「何だにゃん、まなちゃん」
まなちゃんというのは、浜中紗夜子のことである。緒里絵しかこの呼び方をしない。他の幼馴染は、たいていマナカと呼ぶ。
「ときに、カオリ。こんな話知ってる?」
なお、カオリというのは穂高緒里絵のことである。双方とも、名前の一部を取り出して短くしたあだ名というわけだ。
「どういう話だにゃん?」
緒里絵はだるそうな体を持ち上げた。面白い話が飛んでくるのかと思い、期待したようだ。
そして、まなちゃんことマナカこと理科室の幽霊こと浜中紗夜子は言う。
「悪霊が瓶の中に封印されてるって話」
すると、あまり興味をそそられる話じゃなかったようで、緒里絵は再びだるそうに伏した。しかも隣に座る紗夜子の方から顔を背ける形で。
「しらにゃい」
「あ、そう」
「それがどうかしたにゃん?」
「もしかして、この町に置かれていた瓶の封印が解けてしまったんじゃないかと思ってさ」
緒里絵は、何よそのオカルトとでも言いたげな振舞いで溜息を吐いた。
「まなちゃん、何変なこと言ってるにゃん。そんなこと、あるはずないにゃん。中二病もほどほどにしないといけないにょ」
そんな言葉に、あくまで表情を崩さない紗夜子。紗夜子は基本的にポーカーフェイスなので、表情から何を考えているのかを割り出すのは慣れないと難しい。
ゲームを操作しながら、紗夜子は言う。
「でも、他に原因が考えられないよ?」
そして、なおも緒里絵は紗夜子に後頭部を向けたままで、
「ひきこもってばっかいるから、そういうこと言うようになっちゃうんだにゃん。これからは、外で遊ぶようにするにゃん」
「やだ、太陽こわいし」
「……まなちゃん、吸血鬼みたいだにゃん」
「じゃあ、実は既に吸血鬼になっちゃったのかな。わたしの知らない間に」
「それだにゃん」
「それかなー」
ゆるい会話を交わしていた。
図書館は、とても平和で涼しい空間のようだ。
相変わらず、カチャカチャと音を立てながら、紗夜子はゲームを続けている。
ふと思い立ち、むくりと起き上がった緒里絵は、紗夜子が何のゲームをやっているのかと覗き込んでみた。吸血鬼のゲームではなく恐竜系のモンスターを狩ってた。