超能力暴走バトル編_8
ぽにょんぽにょん、ぽにょにょんにょん。
限りなく楽しげな音を立てて、弾丸が達矢にぶつかって落ちた。
達矢はポカーンと口を開けて、立ち尽くしていた。
やわらか素材だった。軽かった。殺傷力など皆無に等しかった。
仮にそのロケット花火のやわらか弾丸で大ダメージを与えられる可能性を考えれば、目玉にモロに打ち込んで目潰しするくらいしか無い。
「そんな! フライングファンファーレが効かないっ?」
アルファはガガーンと驚愕した。
天才を名乗る割には、全然ダメだった。あるいは生来の平和を願う優しい性格がアダとなったのだろうか。
しかし頭の回転が早く、気持ちの切り替えも早いアルファは、すぐさま次の攻撃方法を考える。
小さな銀髪少女が取り出したのは、ロケットランチャーだった。体の倍くらいはある大きさの重たい物体をパカリと開いた壁の中から取り出し、チャキッと構える。一体いつの間に仕込んだのだろうか。
正面から見れば、円形に見える弾頭。横から見れば身長を遥かに越えるくらいの細長い砲身の先に丸みを帯びた菱形に見える弾頭。灰色の弾頭。
今までのは小手調べですよとばかりのニヤリ笑いを浮かべた後、片方の膝をつき、それをぶっ放した。
これはペットボトルが先端についているような、そんな甘いものではない。正真正銘の爆発物だった。
先刻のロケット花火は、あるいは油断させるための策だったのだろうか。
発射された弾丸は、四人の間に高速で飛んで、昇降口の硬い床にぶつかった。
爆ぜた。
何メートルか爆炎があがった。爆風で昇降口のガラスが割れた。木製の下駄箱に、いくつも穴があいた。燃えている下駄箱もあった。砂塵が舞っていた。
かなり危険だった。
もしも砕けた床の破片が身構えた誰かに直撃していたらと思うと、ぞっとする。
しかしさすがにそこまでは計算できなかったようで、直撃コースに立っていたのは上井草まつりだけだった。まつりはすさまじい反射神経で回避したため、四人の中でこれといったダメージを受けた者は居なかった。
一番痛かったのは、小さな銀髪少女だった。
ロケットランチャーを撃った反動で、背中の方に吹き飛び、腰を思い切り壁に打ちつけ、倒れてしまったのだ。銀色の髪が、床に広がっていた。
「あぅ……ぐ……」
高くか細い声で痛そうに呻いていた。
砂塵がようやく収まり、痛みに悶える少女を目にした四人のうち、最初に声を出したのは宮島利奈だった。
「あ、あぶなっ、ロケットそんな風に使うとかあぶなっ! さすがに許しがたいっしょ!」
宮島利奈はロケットを愛する父を持っていた。なので、ロケットと名のつくものを平和以外に利用したダークなアルファを許せなかったようだ。
「みんな、先に行って。この子はわたしに任せてもらいたいわ。ロケットが目指すべき未来についての教育が必要みたいだから」
説教する気でいっぱいのようだった。
まつり、みどり、達矢はそれぞれ目を合わせながら、まぁ相手も怪我したみたいだし小さい子だから負ける要素なさそうだし利奈がそう言うなら。ということで、
「んじゃ、先行くけど、あんまりイジメるんじゃないわよ」
などと自分のことを棚にあげたまつりが言ったり、
「相手子供なんだから、スタンガンとか撃ち込んじゃダメだかんね」
そんな風にみどりが言ったり、
「変なドジ踏むなよ、利奈っち」
達矢が言ったり。
「わかってるわよ、そんなの。任せて!」
というわけで利奈は、少女を見下ろした。三人は少し不安に思いつつも昇降口から階段へと進む。目指しているのは、高熱の発生源。現在は三年二組の教室に居る紅野明日香だった。
なお、一年の教室が二階にあり、二年が三階、三年が四階という配置になっているので、これから階段を上って四階まで行かねばならないのだった。