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超能力暴走バトル編_6

 上井草まつりを先頭に、戸部達矢と風間史紘がついていく。笠原みどりと宮島利奈も続き、ようやく校内へと足を踏み入れたのだ。


 さぁ、戦いの幕開けである。


 だがいきなり脱落者が出た。風間史紘が体の不調を訴えてテントへ戻ってしまったのだ。彼は病を抱えているので、体調不良なら仕方ない。元々彼が居ても居なくても戦力的な変化は微々たるものなので問題視するようなことではなかった。


 ひとまず、この時点での敵の戦力を考えれば、高熱を発する明日香の他に、紫のローブを身に纏った正体不明の人間が居ることがわかっていて、紫ローブは上井草まつりと同等かそれ以上の戦闘力を持っていることもわかっていた。


 笠原みどりと宮島利奈が二人がかりで攻撃しても、平常な状態の上井草まつりには勝てない。余程弱っていない限りはボロボロにされてモイストされてギュウギュウ頬を引っ張られた挙句にくすぐられて涙目になったりグッタリするほどなのだ。余程落ち込んだりしていない限りは絶対に勝てない。それを野球拳とはいえ撃退するなど常人にできることではない。そういった観点から眺めてみても、敵は強大なのである。


 志夏は図書館からの増援を求めようかとも考えたが、ひとまずまつり達に様子見をしてもらおうという結論に至って手を振った。


 上井草まつりは、一度乗り込んでブザマにも敗北したのだが、一回敗走したら二度と戦えないなどというルールが存在しない以上、まつりを行かせることに何の問題も無かった。彼女の戦闘力は重宝すべきものであるし、統率力という言葉にすると何か違う気がするけれど、何だかんだ言って人を引っ張っていく力がある。


 かくして、まつり、達矢、みどり、利奈の四人組は校舎内に足を踏み入れたのだが、やはりたいへん暑かった。


「あっついわね!」


 誰もがわかりきっていることを叫んで昇降口に響かせたのはまつりだった。


 と、その時、笠原みどりが周囲を見回して何かを発見してピシリと指をさした。


「あ、あれはっ何?」


 もぞもぞと動くもの。一体何かと目を凝らしてみると、上井草まつりの制服だった。


 首から上が無かった。


 制服には、両腕に紫の三本ラインが入っていて、それは、上井草まつり用の特別デザインである。この学校は、袖の模様を自由にカスタマイズして良いことになっているので、人によって様々な個性を見せる。この町に服屋は無いのだが、誰でも好きなデザインを要望して職員室か生徒会室にでも提出すれば、刺繍や縫い物の類がとても上手い人間――とある引きこもり――が特別に作ってくれる。


 たとえば、とある引きこもりの浜中紗夜子がイタリア国旗っぽい色のラインを入れていたり、穂高緒里絵が造花で飾っていたり、宮島利奈が図書委員の腕章をつけていたり。全部が全部、身分を表すというわけではないのだが、結果的に上井草まつりの腕の模様は上井草まつりを現すものになっていたりする。


 首なしの制服に話を戻そう。達矢と利奈は戦慄していた。まつりが先刻脱いだ制服が、勝手にモゾモゾ動き回っているのかと思ったからだ。しかし次の瞬間に、銀色の波打つ髪の毛をした可愛らしい頭部が姿を現したのを見て一気に安心した。


「ぷはぁっ、うー、まちがって袖に頭入れちゃってたよ」


 アルファ。天才少女のアルファちゃんであった。軍隊名簿の登録名はファルファーレだったりして本名不明なのだが、アルファという呼び名でいいだろう。そっちの方が短いし。さて、アルファはぶかぶかな制服を着てご満悦で、四人が来襲したのにも気づかずにウフフと笑った。


 そして、


「まちがって頭入れた袖がぁ、なんかワキのニオイして、くさかったよー」


 上井草まつりは聞き捨てならなかった。


「ちょ、こらぁ! あたしのワキくさくない!」


「くさいよ?」


「くさくない!」


「くさいって」


「あんたの鼻の中がくさいんじゃないの?」


 そんな、子供相手に目をむいて本気になってるまつりに、フォローしようと利奈は、


「まつり、仕方ないよ。暑いからいっぱい汗かいたもんね」


「くさくないもん!」


 さらに、みどりが顔を真っ赤にして叫ぶ女の肩をポンポンと叩きながら、


「人間、だいたいくさいもんだよ、まつりちゃん」


「お前らぁっ……」


 上井草まつりは心底全員殴りたいと思い拳を握った。


 そのただならぬ様子を目にした達矢はヤバイと焦って何とかしようと声を出す。


「まて、待つんだまつり」


「何だ達矢。ころすぞ」


「お前のワキがくさいかどうかはともかくとしてだな――」


「ともかくじゃないんだよ! くさくないんだよ! いいにおいだよ!」


 声を裏返して必死だった。


「いや、あわてるな、まつり。話は最後まできくんだ」


「何だよ」


 ことによっちゃ容赦しないからな、とでも言いたげな視線で射抜かれて、達矢は少々ひるんだが、何とか怒りを鎮めさせないことには、仲間割れでひどい被害が出ると考えた。覚悟を決めてこう言った。


「いいか、これは敵の作戦に違いない」


「どういうことだ?」


「まつりのワキがくさかったというのは嘘で、相手の精神攻撃の可能性が高い。まったく、やりおるぜ、やれやれと言いたくなるほどの非常に高度で巧妙で応用的な離間の計だ。子供に見えるが、可愛らしい顔してなかなかの策士のようだな。こうしてまつりがノせられて仲違い寸前になってしまったのだから。だが、俺はそれを看破した」


「何だい、偉そうに」


「つまりだな、まつり。お前のワキはくさくない」


「ん、ああ、そうか。そう言いたかったんだな。そうか、達矢はあたしの味方なんだな」


「もちろんだ」


 しかし、アルファはなおも言う。


「ううん、本当にくさかったし」


「いい加減にしろ! 達矢はくさくないって言ってくれた! 少しは達矢の言葉を信じろ!」


 すると、笠原みどりが、


「でも、戸部くん、かいだことないじゃん」


 余計なことを言った。達矢は慌てて、


「か、かぐ? かぐって何だよ」


「ワキの、においを、かぐ」


 みどりは、まつりのワキをピシリと指差した。


「俺に、嗅げと? まつりのを、嗅げと」


「ふ、ふざけんじゃねぇ! 変態じゃねぇか」と、まつり。


 すると、どうやら普段からイジメられているので仕返しがしたいようで、利奈までここぞとばかりに、


「でもさ、まつり。そうしないとさ、くさくないって証明できないっしょ」


 とか言い出した。


 達矢的には、何だか複雑な気分だ。いやしかし、やはりそんなことをするわけにもいかないと思う。


「い、いやいや、そんな、何で俺が女の子のワキに顔を近づけてにおいチェックしなきゃいけねぇんだよ」


「必要なことだよ。絶対」とみどり。


「じゃあ、みどりが嗅げばいいじゃねぇか」


「でも、ねぇ、それは、ねぇ。マリナ」


「ん、うん。そうよねぇ、サハラ」


「何なんだよ」と達矢。


 すると二人は頷き合い、声を揃えて、


「「くさいって言われてるもの、かぎたくないし」」


 上井草まつりは、さすがに苦虫を噛み潰したような表情になって怒りを表明した。しかしながら、まつりとしても、自らのワキがくさくないことを証明できれば良いのだ。


 黙って諸手を天井に向かって伸ばした。


「な、何してんだお前。顔赤くして、恥ずかしそうに斜め下に視線を落としたりして」


「かげ」


「は?」


「達矢。あたしのワキ。くさくないから、かげ」


「い、いや、だってお前……」


「かげっつってんだよ、ころすぞ達矢ァ!」


 やばい何だこれ、と達矢は焦るしかない。みどりと利奈は何故か期待するような視線を達矢に向けているし、アルファは長袖制服の腕をこれでもかってくらいにまくったり、ぶかぶかの制服スカートの長さを何とか短くするため試行錯誤に急がしいようだった。誰も助けてくれそうにない。そしてワキのにおいを嗅がないと殺すと宣言された。


 目の前の女は、さぁワキを嗅げと言って腕を持ち上げている。変態じみた行動。罠かドッキリかといった疑惑もあったが、達矢としてはちょっとだけ、ほんの僅かに、マジでミクロにではあるが、嗅いでみたい気持ちもあった。


 仕方ないと、俺のせいでこんなことになったわけではないと達矢は思った。


「では失礼する」


 嗅ぐことを決意したようだ。


「はやくしろ。変なとこ触るなよ?」


「ああ、わかってる」


 変な汗が出て来た。ここは確かに暑い。暑いから汗が出るのは当然のことだ。だがしかし、この汗は暑いというよりもむしろわけわからん寒気と焦りによって出たものだ。


 そして、まつりのワキに顔を近付けた。目の前の長袖制服の白い布は汗でちょっと濡れてシミになっていた。いつになく恥ずかしがるまつりのワキに、鼻を近付ける。何となくまつりの腕を掴み、もう片方の手で腰に手を回して引き寄せながら。服の上から。


 くんくんと。


 ないことはなかった。まつりのにおいがした。箪笥の中みたいな和風っぽいにおいもした。色々混ざったにおいがした。ぶっちゃけ、ちょっとだけ汗くさいとおもった。ドキドキした。


 まつりの体から手を離す。三歩ほど後ずさる形で離れる。


「達矢、どうだった。くさくなんか、ないだろ?」


 戸部達矢は、どうしたもんかと思ったが、嘘を言っても仕方ないと思ったので、感じたことを正直に言うことに決めた。


「こんなことを言うのはアレだがな、全くにおわないわけではなかった」


「え」


「ああ、まぁ、えっと、そのなぁ。結局のところ、あの、つまりだなぁ」


「何なんだよ!」


「少しだけ汗くさいけど許容範囲だ!」


 親指を立てた。


「しねよぉ!」


 悲痛に声を裏返した。泣きそうだった。あの上井草まつりが。


 とはいえ、度重なるスカートめくり等、度を過ぎたセクハラ行為を繰り返されると泣いてしまうという噂もあって、案外セクハラや恋愛的な何かには弱いという話もどこかで達矢の耳に入ったことがある。目つきが悪くて暴力的だが血も涙も無い女ではないのだ。


 というわけで、上井草まつりはちょっと汗かいたせいで汗くさいけど特別にくさいわけではないということが判明したところで、笠原みどりがはっと何かに気付いた様子で言う。


「ていうかちょっと待って。ていうかさ、何でアルファちゃんが此処に居るのかな?」


 この疑問に、アルファが待ってましたとばかりに、


「ミドリおねーたん、よくきいてくれました」


「え、うん。あれ、でも、何であたしの名前知ってるのかな」


「実はね、あたしね、天才なの。天才だから、何でも知ってる」


 そこで、利奈がピンときた。


「あ、じゃあ、どうして紅野明日香っちが暴走しちゃったかわかる?」


「わかりません!」


 すかさずみどりが、「何でも知ってるんじゃないのかよ」とツッコミ。


「でも、あたしは諸事情により、明日香おねーたんの味方をせねばならないのです」


「諸事情って何よ」とみどり。


「明日香おねーたんの闇の意識に操られているのです」


「なにそれ」


「どす黒い何かです」


「天才なら、もっと具体的に」


「んふふぅ、これ以上敵に与えるべき情報はありません。どうしても知りたければ、あたしを気絶させてからにしなさい!」


 気絶させたら情報得られないじゃないのというツッコミを入れる間もなく、だぶだぶ制服のアルファたんは、突如として戦闘モードに突入した。


 最初の戦いが、昇降口にて開戦したのである。


 取り出したのは、拳銃。かと思いきや、拳銃の形をしたライターであった。もう片方の手で構えたのは、三本のロケット花火。アルファは導火線に点火する。


 あろうことか、室内でロケット花火を乱射しようと言うのだ。


「いきますよ、フライングファンファーレ!」


 大きな声でそう言って、ピョンと飛び跳ねた。


 説明しよう。フライングファンファーレとは、アルファが滞空時間の短いジャンプを繰り出しながらロケット花火に火を点けるという技である。何故ジャンプするのかと言えば、その方がアルファ自身に「やってやった感」が生まれるからである。


 そうして点火された三本の改造ロケット花火は、全部外れた……かに見えた。しかしながらフライングファンファーレの真骨頂はここからである。


 上井草まつりを除く三人に向けて発射されたロケット花火だったが、誰にも当たることは無かった。そもそも、軌道が大きく外れていたのだ。それの何が真骨頂なのかと言えば、フライングファンファーレという技は単にロケット花火を飛ばすわけではないということ。


 そう、跳弾を計算しつくして花火を飛ばすのだ。


 発射台とも言える安っぽくて細い棒を離れ、極めて直線的に空中を飛んだプラスチック製の高速弾は壁や下駄箱や防弾ガラスにぶつかって跳ね返り、一斉に達矢を襲った。


「な、なにぃっ!」


 慌てて回避行動をとるにも、間に合わない。四方から襲った弾丸が襲う。避けられない。達矢は死を覚悟した。何故全弾俺に向かってくるんだ理不尽だと思いながら。




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