風車の町と抜き打ち学力テスト-10
校庭前。
そこには、赤点な者たちが集まった。
オールゼロの穂高緒里絵を先頭に、不良D、宮島利奈、不良B、愛想の無い女(利奈の友達のようだ)、そして俺。
全部で六人。
校内でただ六人の落ちぶれた者達。
俺は、その中に入ってしまった。
名前書き忘れのおりえを除けば、僅かに五人。五人だ。
その事実だけで、頭を抱えたい気持ちでいっぱいだ。
「くそぅ……独房入りさえなければな……」
そんな、たらればも出てしまうというもの。
大変に悔しいのだ。
「それじゃあ、赤点の皆さん、グラウンド十周をはじめます」
右手を天に向かって挙げて、上井草まつりは言った。
そう、更に仕切ってるのがカンニングしたって堂々と言っていた上井草まつりだというのも悔しい!
と、そんなことを考えていると、
「何だ、達矢。反抗的な目をしているな」
まつりに気付かれた。
そこで俺は言ったのだ。
「いやぁ、カンニングしたんなら、まつりも走ったり補習受けたりすればいいのにって思っただけだ」
本当に思ったことを。
すると、上井草まつりは……
「達矢だけ町内十周!」
「えぇぇ!」
グラウンドから町内に範囲がジャンプアップ!?
「逆らったらころす!」
「物騒だよ!」
「何だい、赤点がえらそうに!」
「だいたい、何なんだお前こそ! 偉そうにしやがって!」
「あたしは風紀委員だ! また独房に入るかコラァ!」
「ええい黙れ! 先日徹夜で研究した相撲の技を見せてやるッ!」
俺は叫び、上井草まつりに飛び掛った。
バチン!
まつりの眼前で手を叩いた。
猫だましという高等相撲技である。が、
どっごーーーーん!
「くぁっはぁ!」
俺は上井草まつりに触れることもできずにやられ声を上げて宙を舞った。
「達矢、あたしはキミをぶっ飛ばして、その勢いで地球十周くらいさせたい!」
薄れ行く意識の中で、腕を組んで胸張って、いつもの姿勢で俺を見下ろす上井草まつりの姿が見えた。
「何でこんなことに……」
俺は呟き、意識を失った。
――嗚呼……きっと、こんなことになったのは、友人が見ろと言っていたテレビ番組を見られなかったことによる友人の呪いのせいだ。
そんなことを、思いながら。
★
ちなみに、後でおりえに聞かされたのだが、
「ところでにゃん、たつにゃん。昨日、たつにゃんの名前がテレビに出てたにゃん」
「え、何で。別に指名手配されるような悪いことしてねぇぞ。せいぜい遅刻とサボリを繰り返したくらいだ」
「イケメンなお友達が皆でたつにゃんの名前呼んで、『さっさと帰って来い』って言ってたにゃん」
「どういうことだ……にゃん」
「昨日のテレビの特番で、かざぐるま行きになっちゃった人を応援する番組やってたんだにゃん」
「あいつら……それで見なかったら呪うなんて言ってたのか……」
「たつにゃん、友達いたんだね」
「なんかひどくないかな、その言葉」
まぁとにかく、寮に帰ったら友人に電話でもしよう。そして、この町であった楽しいことをいっぱい自慢してやろう。
決して町は牢獄などではないんだぞって。この町の中にある牢獄は相撲しか映らなかったんだぞって正直に。見れなかったと正直に。呪わないでと懇願しよう。
でも、そうだな。この町は嫌いじゃないし、むしろ好きだけれど、できるだけ早く都会の町に帰ろうと思った。友人たちによって『帰れない呪い』とか、掛けられていないことを祈っておこう。
【風車の街と抜き打ち学力テスト おわり】