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上井草まつりの章_5-1

 転校五日目の早朝に、俺は目覚めた。


 まつりのことを夢に見ちまったぜ。そんで夢の中でまで、まつりにボコボコにされていた。


 で、それはどうでもいいとして、今日も休日。授業は無い。


 雨は弱まりながらも昨日から降り続いていたようで、少し肌寒さを感じる目覚めだった。


 休日二日間の天気が崩れるってのは、何となく損した気分になるが、まぁ、この街に来て最初の連休だからな。ゆっくりできてむしろ良いかもしれん。


 と、そんなタイミングで、ぐるぐると腹が鳴って、空腹を告げた。


「あー。そういや昨日メシ食わずに寝たから腹減ったぜ」


 何故か独り言を繰り出しつつ、空いた小腹を満たすために階下へと向かう。手の中で小銭をジャラジャラ鳴らしながら。


 食堂の前には、カップ麺等のジャンクフードが常備された棚がある。


 寮生なら代金を置けば食べて良いという、無人野菜販売所のようなシステムになっている。


 朝食まで待っても良いのだが、今の俺は飢えに飢えている。それに、たまにはカップ麺のお世話にならないといけないような気がするのだ。


 理屈ではない。


 これはもう、俺という人間に後天的に組み込まれた本能的な行動なのだ。それは本能じゃないというツッコミはいらない。


 で、螺旋状になりたくてなり切れていないような階段を下ったところで、俺の足は止まった。


 男子寮の寮長であるおっちゃんと、女子が何かを話していたからだ。


 こんな早朝に、何だろうか。


 禁断の恋とかだったりしたら邪魔しちゃ悪いな。


 ん? っていうか、あの女子は……。


「おかしいです。そんなもの、あるわけない」


 級長の伊勢崎志夏だった。何故彼女が男子寮に居るのだろうか。


 寮長のおっちゃんは、志夏の言葉に頷いて、


「そう思う。この街に長く暮らす者なら、当然その裏に何かがあることは感じるはずだ」


「でも……それじゃあどうして避難勧告なんて……」


「街の南側の地下にあるんだそうだ」


「でも、あそこにはショッピングセンターのトンネルが掘られたばかりで、詳細な調査の末に掘ったって話だったじゃないですか……」


 俺はそんな二人の立ち話に割って入ってみることにする。ちょうど進行方向に彼女らが居たということもある。


「何かあったんですか?」


 驚いて振り返る二人。


 志夏は少しだけ表情を曇らせつつ、


「達矢くん。もしかして、今の話、聞いてた?」


「すまん。少し聞いた。聞かれちゃまずい話だったか?」


「まぁでも、いずれわかることだから、聞かれてまずいって程ではないけど」


「けど、何だよ。っていうか、何で志夏が寮長さんと話してるんだ?」


「私、女子寮の方の寮長をやってるから。こうして重要なことを寮長同士で話し合うこともあるの。言ってなかったっけ?」


「あぁ、そういえばそうだったか」


「深谷さん。これ、言って良いと思います?」


 志夏は、男子寮長のおっちゃんの方を見て訊いた。ほう、おっちゃんの名前、深谷っていう名だったのか。


「仕方ないんじゃない?」


 おっちゃんは答えて頷いた。


 それを見て、志夏も頷き、話し出す。


「実はね……」


「どうした」


「国から、避難勧告があったの」


 えっと、国からっていうと、政府からってことか?


「へぇ、そりゃまたどうして」


「この街に、不発弾が眠っているのが発見されたから、街に居る全ての人間は一週間以内に街の外へと避難するようにって」


「不発弾?」


「もっとも、そんなものがあるはずなくて、だからわけがわからないの」


「じゃあ、何で避難勧告なんて」


「だから、それがわからないから不安なのよ」


「…………」


「とにかく、不発弾なんて埋まってないから、慌てないでね」


「おう」


 志夏は怒ったような顔で強く言う。


「どういうつもりか知らないけど、政府の思い通りになんかさせないんだから」


 俺は何となく言葉を返し辛くて黙るしかできなかった。


 志夏は右手を挙げながら、


「それじゃあ、私は先生たちにも避難勧告のこと話しに行くから、またね」


 と言い残すと、玄関の方へと歩いていった。


「あ、ああ、またな」


 寮長は、「あ、わたしも朝食の準備をしないと……それじゃあね、戸部くん」とか言って食堂へと消えた。


 そして、周囲には誰も居なくなった。


 ぐるぐるとまたしても俺の腹の音。


「そうだな、カップ麺だカップ麺」


 俺は食堂手前の棚の横に備え付けられた小銭入れに必要な金額を入れ、赤いパッケージのカップ麺を手に取る。


 そして、開封。


 近くの台に備え付けてある電気湯沸かしポッドからお湯を注ぎ入れ、台の上に置いてあった割り箸で蓋を押さえつつ、自分の部屋へと向かった。


 階段とかがあるので、慎重に。


 五分後、俺は久しぶりにカップ麺のお世話になった。


 これで、朝食までの間に飢えて死ぬことはないだろう。食わなくても死ななかっただろうというツッコミはいらない。




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