風車の町と抜き打ち学力テスト-8
しばらくして、ナースステーションで縛られていた俺を迎えに来たのは、上井草まつりだった。
何故、まつりが?
寮に連れ戻されるというのか?
「達矢、見損なったぞ。まさか夜の病院でナースさんを襲うなんてな」
まつりは呆れたようにそう言った。
「違うんだ。俺はただ、フミーンの部屋に行きたかっただけなんだ」
「フミーンの部屋に? 何で?」
そりゃテレビを見るために決まっているが……だが、これを言って良いものなのかどうか、言ったらぶっ飛ばされそうで嫌だな。何せテレビ禁止令が出ている身だから。
ということで沈黙を選択したところ、
「言えないようなことなのかよ。まさか……そういうこと?」
「そういうことってのは、どういうことだ。何を想像している?」
「お前、フミーンのこと好きなのか?」
「好きだといえば好きだが……」
「夜這いをかけようとしたのかっ!」
まつりは、驚くと共に俺から少し距離を置いた。
「まてまて……何を言ってるんだ、お前は」
「そんなこんなで独房入り!」
「えぇっ……?」
「来い! 独房に入れてやる!」
「何だこの展開はぁ! 何故俺の思い通りにならないぃ!」
「うるさい、黙って歩きやがれ!」
俺は、目隠しをされ、まつりに腕を掴まれた。
「さぁて、それじゃあな、達矢。しっかり反省しろよ」
上井草まつりが、俺の目隠しを外しながら、そう言った。
「テレビ……テレビが見たい……」
俺はうわごとのように呟くしかない。
「そうか。いや、実はあたしも、テレビ禁止令ってのはさすがにヒドすぎたかなと思って、ほら、見てみろ、テレビを用意した」
まつりが指差した先を見ると、ブラウン管型のテレビがあった。
おおっ、テレビ……。
「だが、まつり。テレビはあるのにコンセントが無いとか、そういうオチじゃないだろうな!」
「そんなわけあるかよ。まぁとにかく、テレビも用意してやったし、あたしって何て優しいんだろ」
見ると、確かにテレビから伸びたコードの先のプラグがコンセントに刺さっていた。
「ああ、ありがとう、まつり」
「明日の朝になったら出してやるからな。しっかり反省するんだぞ」
「おう」
そして、まつりは俺を残し、独房の鉄扉をゴゴンと閉めて出て行った。
俺は、その音がまだ鳴り止まぬうちに、テレビの電源を入れた。
テレビは、映像を映し出した。少し画質が悪いが、確かに映っている。
「おぉ! 映るぞ! テレビが見れる!」
ブラウン管の画面には、土俵と力士の姿が。
相撲が放送されていた。
時刻は、ちょうど友人が出る番組が放送される時間。
よかった。これで呪われないで済む……。
「だがちがう! 俺が見たいのは相撲じゃない!」
俺は叫びながらチャンネルを回した。
『のーこった、のこった、のこったぁ』
また相撲。
「ここでもない!」
『あーっと上手投げぇ! 横綱まさかの黒星ぃ!』
画面では座布団が舞っていた。
何だこれは……。
嫌な予感に支配されつつ、俺はチャンネルを回した。
『いやぁ、これは大金星です』
横綱が格下力士に投げ技を決められているスロー映像が、画面を支配していた。
何だこれは、何で相撲しかやってないんだ!
これでは、友人が出演するという番組が見られずに、俺は友人に呪われてしまうじゃないかぁ!
「ちくしょおおおおおおお!」
俺は叫んだ。
独房で一人、叫ぶことしかできなかった……。