風車の町と抜き打ち学力テスト-7
夜になってしまった。
強風の中、アスファルトの上を彷徨う。
明日はテストであるが、そんなものは関係ない。
俺は、俺は友人が出演する深夜番組を見なくてはならないんだ。
そのためには、グラウンド十周だって補習だって甘んじて受ける。できれば受けたくはないが、友人に呪われるよりはマシだ。
「テレビ……テレビを見せてくれ……」
呟いたその時だった。
「お困りのようね」
背後から、そんな声。
俺は振り返った。
「志夏か……」
「はぁい、達矢くん。こんばんわ」
そこに居たのは、生徒会長にして級長の伊勢崎志夏。
微笑を浮かべながら立っていた。
「志夏、助けてくれ。テレビが見られないんだ!」
「そうねぇ、私はテレビ持ってないから、残念だけど見せてあげることはできないわね」
「そうか……」
「でも、そうねぇ。風間くんのところに行けば、町で一番立派なテレビがあるって聞いたことがあるわ。まあテレビっていうよりもホームシアターだけど」
「ほほう、町一番か。いやでも待て、風間ってのは誰だ」
「風間史紘くんよ」
「あぁ、フミーンのことか。そういやそんな名前だったな。フミーンは、一体どこに居るんだ?」
「あら、知らなかった? 入院しているのよ。南西にある、坂の上の病院の303号室に」
入院していただと?
「とにかく行ってみるか。情報ありがとな、志夏」
俺は志夏に背を向けるとフミーンが入院している病院に向かって歩き出した。
「がんばってねー」
俺は志夏の声を背中で聞いた。
さて、病院。
どうやら面会時間は過ぎているようだ。
照明の多くは落とされ、薄暗い明かりの受付ではナースさんが退屈そうに自分のツメをいじくっていた。
俺はコソコソと夜の病院をほふく前進する。
そう、忍び込もうというのだ。
何故なら、俺にはテレビ禁止令が発令されていて、つまりそう、お尋ね者だからだ。誰にも見つかるわけにはいかない。
フミーンの病室は何処だろうか。
303号室と志夏が言っていたから、三階だろうな。
俺は階段に向かって進み出した。ほふく前進のまま。
と、その時、
「誰か居るの?」
ナースさんの声。
しまった、見つかったか。
ここは一つ、裏技を繰り出そうではないか。
相手の気を逸らして、隙を作るのだ。
俺はポケットに手を突っ込んだ。
そして、ポケットの中に入っていたゴキ○リの形をしたプラスチックのオモチャ、通称ピージーを掴んだ。
そして、投げた。
ピージーはライナー性の軌道を描き、ナースさんの前に落ちた。
「ひぃっ!」
悲鳴と共に、涙目で体を硬直させた。
――よし、この隙にフミーンの部屋へ。
そう思った時、
「きゃあああああああああ!」
夜の病院に、響き渡った声。廊下の電気が一斉に点灯した。
しまったぁ、これでは忍び込むどころではない!
何と言う失策!
ひとまず逃げなくてはっ!
俺は駆け出した。
が、目の前には、白衣を着た男が!
がしっ!
俺は捕まった。医者と思われる男に羽交い絞めにされ動きを奪われた。
「えっ?」
ゴキ○リに対する悲鳴だったのに、俺が捕まったことに不思議そうな声を出すナースさん。
「不審者め! ここで何をしていた!」
「ち、違うんです、俺はただ……」
「ただ……何だ?」
「病院に忍び込もうとして、プラスチックでできた害虫のオモチャを囮として転がしただけで……」
「逮捕ぉ!」
俺は医者に捕まった。