風車の町と抜き打ち学力テスト-5
少し悩んだ末に、俺はある場所に来た。
頭上の看板には『笠原商店』の文字。
そう、笠原みどりの家だ。
俺は引き戸を開けて、店内に入った。
「いらっしゃいま――」
店内に居た看板娘の笠原みどりは、お客様に対する挨拶の言葉を言いかけて、やめた。そして続けて言うのだ。
「戸部くん。ここにはテレビは無いよ」
「くっ、ここにも手が回っていたというのか!」
「それは、当然だと思うなぁ」
否めない。
まつりとみどりは、何だかんだ言って仲が良いからな……。
「だが、みどり。せめて一つだけ教えて欲しい」
「何かな?」
「まつりの息がかかっていなくて、テレビが見られる場所を教えてほしい」
「そんなに見たいんだ……テレビ」
「ああ」
「明日、試験だよ。忘れてない?」
「忘れていないが、呪われるわけにはいかない」
「へ? 呪い?」
「そう、呪いだ」
二人、無言の時間が少しあって、みどりが言った。
「そんなにテレビが見たいなら……理科室なら、もしかしたら……」
「理科室? 学校の? そんな所に何があるってんだ」
「それは、行ってみればわかると思うけど……とにかく、戸部くん」
「何だ、みどり」
「はやく店を出て欲しいな。まつりちゃんに怒られちゃう。『戸部達矢を店に入れるな』って言われてるから……」
「ひどいやつだな、まつりは……」
「ひどいのは、戸部くんだと思うけどね」
「何でだ」
「田舎の街だからって、バカにしてるんでしょ?」
「そ、そんなことは……」
「いいから、はやく出て行って。モイストされちゃう」
「モイストってのは、何――」
「出て行ってってば」
みどりは、自分と向き合っていた俺の体を強制的に反転させ、俺の背中を押した。開いていた引き戸から、外に出される。ここは大人しく、みどりの言うことをきいてやるか。
「あ、ああ……それじゃあ、情報、ありがとな、みどり」
俺は言った。
「あの……はやく、まつりちゃんに謝った方がいいと思うけど、近付かない方が良いと思います」
どうしろってんだ、それは。
「とにかく、さよなら。禁止令が解けたら、また来てください」
笠原みどりはそう言って、ピシャンと優しく引き戸を閉めた。