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風車の町と抜き打ち学力テスト-4

 だがまぁ、まつりに店を追い出されてしまったが、ショッピングセンターに行けば何とかなるだろう。


 何せ巨大なショッピングセンターだ。テレビくらい存在していて当然だ。


 というわけで、ショッピングセンターにやってきた。


 広大な敷地に建つ二階建ての建物。


 一階は食料品や生活必需品や花屋や薬屋などが並んでいて、どうやら家電のコーナーは数々の専門店が並ぶ二階にあるようだ。


 俺はエスカレーターに乗り、二階へと辿り着いた。


「よし、予想通りの光景だ」


 俺は心の中で親指を立てながらそう言った。


 視界にあったのは、大量のテレビジョンたち。しかも、まつりの店にあったものとは違ってブラウン管ではなく薄型だったし、ちゃんと動く画を映し出していた。


 最初からここに来ておけばよかった。と、そんなことを思ったその時、


「撤収~!」


 どこかで聴いたことあるような声が響いた。


 そしてその声が終わるか終わらないかといううちに、テレビ画面は一斉に暗転した。


 俺は何が起きたのかと思い、キョロキョロと周囲を見回す。


 停電?


 いや、そんなことはない。電気などは点いたままで、軽快な店のオリジナル音楽も鳴り響いたまま。ただテレビの電源のみが切れたようだった。


「さっさと撤収しろー」


 そう指示をしているのは……いつか湖で出会った自称エリートのショッピングセンター店長、若山さんだった。


 店員たちの手によって片付けられていくテレビたち。


 何が起きているというんだ……。


 俺は呆然としているしかなかった。


 と、そこへ、


「よう、達矢じゃねぇか」


 若山さんが話しかけてきた。


「あの……若山さん……これは……」


「『戸部達矢テレビ禁止令』が発令されているからな。達矢が近付いたらテレビを片付けなくてはならんのだ」


「何ですかそれ……」


「一体何をしたんだ、達矢。いかがわしいビデオでも見すぎたか?」


「やめてくださいよ、人聞きの悪い」


「じゃあ何なんだ」


「ちょっと上井草まつりって女を怒らせて……思い返してみると、それで何か禁止令とか言われましたけど」


「痴話げんかってやつか」


「クソ違いますよ」


「話をまとめると、こういうことだな? いかがわしいビデオを鑑賞しすぎたせいで、恋人の上井草まつりにテレビをみることを禁じられたと」


「テレビを見るなと言われたこと以外は全部ハズレっすけど」


「ふっ、そうか。秘密の関係というわけだな。それじゃ、俺はテレビの撤収作業で忙しいから、またな」


 言って、若山さんはテレビの撤収作業を繰り広げている人々に向かって何やら指示していた。


「何なんだ、一体……」


 俺は呟いた。


 と、そんな時だった。


「はにゃん……」


 鳴き声を発しながら、謎の娘が、体を半分くらい物陰に隠しながら、こちらの様子をうかがっていた。隠れ切れていなくてバレバレの謎の娘。


 いやまぁ、謎でも何でもなく、あれは穂高緒里絵というムニャムニャ系アホ娘なのだが。


「何してんだ、おりえ」


 俺は声を掛けた。


 すると、物陰から出てきて、とててと駆け寄ってきた。


「たつにゃん」


「何だ」


「今の話、本当にゃん?」


「今の話てのぁ、何だ」


「まつり姐さんと、恋人にゃん?」


「そそそ! そんなわけないにゃん!」


 俺は叫んだ。


「いかがわしいビデオ見て、おこられたにゃん?」


「あー、それも違うからな。誤解するな」


「じゃあ、何なんだにゃん」


「たぶん、都会から来た俺が田舎娘である自分を見下していると被害妄想的に感じたんだろう」


「見下してないにゃん?」


「いつ見下した」


「いま」


 確かに、今は背の低いおりえを見下ろしてはいるが。


「そりゃ、見下すってニュアンスが違うだろ」


「店長さん、どうなんだにゃん?」


 穂高緒里絵は、再び俺の前を通りがかった若山さんに訊ねた。


「どうもこうも、おれはこの街の人間じゃないんでね、何とも言えないが、戸部達矢にテレビ禁止令が出たのは事実だぞ」


「て、てれびきんしれい!?」


 穂高緒里絵は、ガガーンって感じで驚愕(きょうがく)した。


「大袈裟だな、おい……」


「この街の数少ない娯楽のテレビにゃのに、それを禁止するなんて、よっぽどのことをしたに違いないにゃん……。さてはたつにゃん! セクハラしてしまったにゃん?」


「――してねぇよ!」


「これは一大事! みんなに伝えてこよー!」


「まてぇい!」


 俺は走り去ろうとしたおりえの腕をガシっと掴んだ。


「何するにゃん」


「ありのままの事実だけを言うぞ。俺はまつりにこう言った」


「どう言ったにゃん?」


「あー、その前に、まずはまつりが言ったんだ『どうせ、都会の電器屋と比較して劣ってるとか思ったんだろ』と」


「ふむふむ」


「そして俺は言ったのさ、『別に比較してないぞ。確かに、ここはボロいテレビしか無いし、ブラウン管とか時代遅れもいいとこだとは思うが……』と。そしたら、まつりがいきなり怒り出してな。俺にはわけがわからなかったぜ」


「たつにゃんが一方的に悪いにゃん」


「何故っ」


「見下してるにゃん。まつり姐さんが怒るのも当然にゃん」


「し、しかしだな、俺にはテレビを見なければならない事情があるのだ」


「どういう事情だにゃん?」


「そ、それはだな…………かくかくしかじかというわけなんだ」


「つまり、お友達がテレビに出ることになって、テレビを見なければお友達に呪われると宣言されて、それが嫌だからテレビを見ると、そういうことだにゃん?」


「あぁ、そうだ。おりえ、お前の家にテレビとか無いか? よかったら……」


「知ったこっちゃないにゃん」


「なっ……」


「まつり姐さんが禁止令を出したんだったら、たつにゃんにしてあげられることは皆無だにゃん。せいぜい頑張るといいにゃん」


「そういわずに、頼む、このとおり!」


 俺は頭を下げた。


 しかし、


「ばいばーい」


 その声に反応して顔を上げた時には、おりえはもう遠くに走り去っていた……。


 まずいな。


 まずいぞ……。


 このままでは、友人に呪われてしまう。ピンチだ。


 どうするかな……。




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