風車の町と抜き打ち学力テスト-2
翌日の昼。
俺は目覚めた。
試験は明日。だから、これは寝坊ではない。
それに、朝はちゃんと起きて定時に朝食を摂った。
だからこれは寝坊ではない。
食事の後、ちょっと勉強しようと思って勉強道具を広げたら眠くなってしまったのでついつい昼まで二度寝してしまったのだ。
仕方の無いことだった。
実は今日も授業というものがあったりするのだが、この街では授業なんてのはマトモに行われることの方が稀で、大半は自習である。
だから、まぁ大丈夫。誰にも叱られることはないのだ。
遅刻とサボリの更生よりも、補習の回避の方が重要だ。
世の中には優先順位というものがあるのだ。
と、そんなことを考えていた時、
「ん?」
机の上に放置していた手紙が目に入った。
「そういや、誰からだったんだろ」
昨晩はそれさえ確認せずに眠ってしまったからな。
俺は手紙を手に取って見た。
戸部達矢様と書かれていた。
裏返してみる。
「差出人……」
以前居た街の友人からだった。
「何だろ」
ビリビリと封筒の上部を千切って開封し、中身を覗いてみる。
便箋が一枚、入っていたのでガサガサと開いてみる。
読んでみる。
『おっす達矢、元気にやってるか? 牢獄で(笑)』
牢獄とはご挨拶だな。そういや、この街を牢獄だと言った友人がこいつだったか。
『今回手紙したのは、他でもない。俺たちの学校にテレビ局が来てな、俺らみんなテレビに映ったんだぜ! 十七日の夜八時に某チャンネルで放送されるらしいからな、せいぜいその牢獄(笑)から俺たちの勇姿をご覧になるといい。収録が終わった後に記念撮影した写真に、達矢のことも右上に丸い写真で配置しておいたからな。帰ってきたら見せてやる。まぁとにかく、俺たちがついにテレビデビューしたって話だ』
テレビに、映っただと?
ていうか、十七日って……今日じゃねぇか!
『あと、中村って女子知ってるか?』
誰だそれは。
『お前のこと好きだったんだってさ』
何だと?
『でも、かざぐるま行きになったから嫌いになったってさ(笑)』
やべぇ、何か今すぐ殴りに行きてぇ。
『達矢なんていなくても皆楽しくやってるから心配するな。でも早く帰って来いよ』
そりゃもちろん、そのつもりだ。
そのためにも、俺は勉強しているのだ。
……いやまぁ、この街に送られてきた理由が『遅刻と無断欠席を繰り返したため』というものである以上、優先すべきは授業をサボらないことだったような気もしてる。
しかし、それ以上にキツイ補習は嫌なのだ。
『P.S.俺たち出演の番組を見なかった場合は、俺たちは達矢を許さない。見ろ、絶対見ろ。見なきゃ呪う』
こいつ、何でこんなに必死なんだ。そんなにテレビに出たのがうれしいか。
まぁ、その感情はほんの僅かに少しだけ、わかる気もするがな、わざわざ手紙にしてまで報告してくるのは、俺に対するイヤガラセがしたいに違いない。友人の性格の悪さに思わず絶望しそうだぜ。
とにかく、俺は手紙を読み終わった。
「テレビ……か」
寮のこの部屋にはテレビが無い。
そして俺は、友人に呪われたくはない。
つまり、友人たちが出演する番組を見逃すわけにはいかない。
この田舎の街にも家電売ってる店くらいはあるだろう。
優先すべきは、テストよりもテレビジョン。
というわけで、俺は開かれていた教科書とノートブックを閉じて……。
「さて、テレビを探しますか」
立ち上がった。