風車の町と抜き打ち学力テスト-1
ある日の体育館、朝礼が行われていた。
壇上にはマイクを持った生徒会長の伊勢崎志夏。
『えー、来週は、私の神聖なる気まぐれで、テストにします!』
体育館に、響き渡った宣言。
当然、生徒たちは一斉に不満を表明した。
「えぇええええええええええ!」
という叫びが、館内を満たす。
『うるさい。なお、赤点の生徒はグラウンド十周とついでにオマケの補習です。以上!』
ピシャリと言い放ち、生徒会長はマイクを置き、舞台を降りた。
その時の俺は、何だかボンヤリとした意識の中で、志夏の姿を目で追っているしかなかった。
そして今は、その数日後の深夜。
試験を二日後に控えた俺は勉強していた。
グラウンド十周させられるのは構わないんだ。ただ、補習というオプションがついてくるのならば話は別。
あれだ、「オモチャ付きお菓子」の実態が「お菓子付きオモチャ」であるのと同じように、「グラウンド十周とオマケに補習」の実態は、俺にとっては「グラウンド十周付き補習」に他ならない。
要するに、グラウンド十週ならまだしも、補習なんて果てしなく頭痛が襲ってきそうなものをする気はさらさら無いので、何とか回避しなければならないと、そういうことだ。
その考えが、不真面目な俺を奇跡的に机に向かわせたのだが……。
「あぁ~、ダメだぁ~、教科書が襲ってくるぅ~」
俺は言って、いつでも寝られるように用意してあった布団にダイブした。
「はぁ~、布団って最高だよなぁ」
頬をまくらにすりすりしてみる。最高に快楽だった。
このまま吸い込まれるように寝てしまおうと思った。
と、その時、コンコンと軽快な音色。深夜の寮に、ノックの音が響いた。
「な、何だ……?」
こんな深夜にノックとは……。
まさか、霊?
俺は恐怖に震えた。
が、しかし、
「戸部くーん、起きてるかーい?」
扉の向こうから男の声が聴こえてきた。
その声に聴き覚えがあったので、俺はドアを開けた。
「やぁ、戸部くん」
声の主は、寮長のおっちゃんだった。確か、深谷さんとかいう人だ。
「寮長さん? どうしたんすか、こんな夜中に」
「いやぁ、実はね戸部くん……」
「な、何すか。ハッ、まさかっ……退寮っ?」
「違うよ、戸部くんに手紙が来てたから」
「手紙……? でも何でこんな時間に……」
俺が手紙を受け取りながら言うと、
「それは、今日は深夜に風の弱まる時間だったからね。ついさっき船が来て、届いたんだよ。それで、戸部くんはまだ起きてるみたいだったからさ」
寮長の深谷さんはそう言った。
なるほど、風が弱まる時間帯にしか郵便を届ける船や飛行機が来ないというわけか。
「そうっすか……」
「どう? 勉強、はかどってる?」
「全然です」
「まぁ、補習にならないように頑張ってね。今回の補習は、かなり厳しいものらしいから、ちゃんとやらないとね」
「キツイ補習……っすか……」
「そう、キツイ補習」
「まじっすか……」
「それじゃ、がんばってね」
「あ、はい」
バタン、とドアが閉じられた。
「さて、と」
部屋に一人残された俺は呟き、机の上に手紙を放置して、なんと勉強するでもなく寝た。