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上井草まつりの章_4-4

 というわけで、体育館で、俺たちは様々な対決をした。


 まずは卓球――。


「王子サーブッ!」


「小ざかしいっ!」


 バチコーン!


 リターンエース。普通に負けた。


 次はバスケ――。


「ダンクシュート!」


 まつりはダンクを決めた。


「リバウド!」


「ダンク決まったから意味ねぇだろ、っていうか微妙に違うだろうがぁ!」


 どかーん!


 俺は、体育館内を舞った。


「リバウンドでしたぁああ」


 ドサッ。負けた。


 カバディ――。


「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディホァアッハアアア!」


「キモいわぁ!」


 ばこーん!


「はぐぁ!」


 ドサッ。負けた。


 バミトントン――。


「バドミントンだろうがぁ!」


 べずーん!


「失礼しましたぁああ!」


 ドサッ。負けた。


 そんな風に、俺は無様な醜態を晒していった。


 早食い――。


「食い物を粗末にするなぁ!」


 負けた。


 トランプ――。


「くぅ、またしても紙一重で負けた」


 ババ抜きで十連敗。


 カルタ――。


「読み手とプレイヤーの一人二役すんなぁ!」


 ばごーん!


「ぷれいんぐまねーじゃああああ!」


 ドサッ。負けた。


 プロ野球選手背番号当てクイズ――。


「『!』←この番号の選手は誰?」


「それ選手じゃなくてマスコットじゃろがぁ!」


 ばこーん!


「ばれたぁああ!」


 ズザザザザー。


 俺の体は体育館の床をスラィディングした。負けた。


 タロット占い対決――。


 負けた。


 料理対決――。


「食い物を粗末にするなぁ!」


「スタッフが美味しく頂くのに!」


「んなもんどこに居るんだよ!」


 習字――。


 負けた。


 絵画対決――。


 負けた。


 パソコン組み立て対決――。


「電気屋の娘なめんなぁー!」


 どごーん!


「はぐぁ!」


 ドサッ。負けた。


 時々理不尽にぶっ飛ばされながら。


 やがて日が暮れていることに気付いた。


「何連敗だ?」


 ほの寂しい胸を張って、腕組をして威圧的に言ってきた。そこで俺は答える。


「はぁ、はぁ……ふっ、数えるのも飽きたぜ」


 息を切らしながら。俺は、疲れていた。


「格好つけて言う事かぁ!」


 ばこーん!


 また殴り飛ばされ、ドサッと体育館の床に落ちる。


 嗚呼、俺は今日、何回殴り飛ばされただろう。


 さすがの俺も体中が軋んでる。


 その時、まつりは珍しく真面目な口調で言った。


「……お前さ、何でこんなにあたしに突っかかってくるんだ?」


「いつになく真面目だな」


「あたしはふざけてない。いつもふざけてるのはお前だけだ」


 否めない。


「で、何でなんだ」


「みどりをツッコミにしたいから」


「…………は?」


「というのは半分冗談で、お前がみどりにモイストさせないためだな」


「あぁ、痛そうだよな、あれ」


 クスクス笑いながら言った。


 やってる張本人が笑って言ってるんだが。


 他人事だが、少しむかつくな。


 そこで俺は言ってやる。


「みどりにモイストしないと誓え」


「じゃあ、達矢が風紀委員補佐になれ。ならないと殺す」


 殺すってお前。物騒すぎだろ。


 こいつのことだから、その風紀委員補佐ってのは風紀委員のまつりに絶対服従の原則があるんだろうな。


「それは――」


「口答えはいい。なるの? ならないの? なるの? なれよ」


 最後は命令口調じゃねぇか。


 いやしかしここは、あくまで逆らおう。


 そう、女子に屈するわけにはいかない。今の俺は矜持に満ち溢れているのだ。


「ならない」


 俺は答えた。


「じゃあ死ねぇええ!」


 どごーーーん!


「ぐはぁ!」


 ドサッ。


「てめぇ! とんでもない怪力で殴りおって! プロペラのようにして回転しながら吹っ飛んでいってやろうか!」


「何で偉そうなんだぁ!」


 ばこーーーん!


 ドサッ。


「お前に弱点はないのかー!」


「あぁ?」


 超こわい顔でにらまれた……。


「そんな恐ろしい顔をしてくれやがって! ゴキ○リに出遭ってしまった大人しくて可哀想な子猫チャンのように怯えてやろうか」


「ご、ごき○り……」


 まつりは足元に向けた視線をグラグラさせた。


「ほう……」


 ピンときたぜ。


 こいつ、さてはゴキ○リが苦手だな……?


 俺は、都合よく持っていたプラスチック製のゴキ○リのカタチをしたおもちゃを取り出し、親指で発射した。笠原商店で手に入れたアレである。


 プラスチックゴキ○リ、略してピージーは、一旦体育館の天井に向かって生き生きと舞い上がり、直後、


 ぽとり。


 まつりの肩の上に奇跡の着地を果たした。


「ん?」


 肩に違和感を感じたのか、軽く喉を鳴らし、肩の異物をバシッと手の甲で払う。


 茶色いピージーが体育館の床の上にボテッと着地した。


 彼女は、そこに視線を落とす。そして、


「っうぇ…………」


 固まった。フリーズした。


「どうした、まつり」


 するとまつりは、震えた手でそれを指差し、かすれたような声でこう言った。


「おい、達矢。その虫……」


「虫は無視!」


「殺すぞっ!」


「まずいっ、大声を出したら走りだすぞこいつは!」


「はっ――」慌てて口元をおさえた。


 やべぇ、なんか普段と違いすぎでギャップありすぎで超可愛く思えてくる。


 プラスチックゴキ○リにビビってる。


「まつり、どうする。敵は強大なようだ……」


 芝居がかったセリフを言ってみる。


「そ、そうだね……」


 ビビっていた。


「どうした、いつもの気迫でやっつけないのか?」


「だ、だって、武器とかないし?」


「俺の上履きを貸してやろうか?」


 どうせニセモノのゴキ○リだしな。汚くはないだろう。


「やだよ、お前の上履きなんて手に持ちたくない。汚い」


 どういう意味だ。割と新品だぞ。


「じゃあ、話し合いというのはどうだ?」


「話し合い?」


「ゴキ○リってのは頭の良い虫だ。当然、人語を解する」


 たぶん、解さないと思うけどな。


「だから、まつり、お前が丁重にお願いすればどこかへ行ってくれるかもしれん」


「そ、そうか。よし」


 そしてまつりは、ピージーに話し掛けはじめた。


「ご、ごき○り殿、お話があります!」


 まずはゴキ○リに向かって両足を揃えて敬礼した。そして優しく語り掛ける。


「おい、ごき○り……ここは、キミが入ってきてはいけないところなのだぞ。不法侵入は、風紀委員が、罰するんだぞ」


「…………」


 しかしピージーは黙っている。


「どうしよう達矢! 無視だよ!」


「そりゃ虫だからな」


 まつりはムッとして、再びピージーと対峙する。


「こ、ここに居るのは、お前のためにもならない。ここには食糧も無いからな。お前の望むものは何も無いのだぞ。おい、きいてるのか、おい……ぉぅぃ……」


 声がどんどん小さくなってく。


「まつり」


「何だよぅ!」


「ひょっとしたら、少し距離が遠いのかもしれん。もっと近付かないと声が届かないんじゃないか?」


「えええっ?」


 やべぇ……おもしれぇ……。


「ほら、近付かないと」


「わ、わかってる」


 おそる、おそる。一歩、一歩。すり足で進む。


 そこで、


「わっ!」


「うああああぁ!」


 ばこん!


 痛いっ。脅かしたら、ぶん殴られた。


「お前、お前、脅かすなぁ……」


 ドキドキしているようだ。


 ふっ、十分楽しんだ。そろそろ種明かしといこうか。俺はピージーに近付き、そして、その触覚を掴んで拾い上げた。そしてまつりの方を見た。


 遠く遥か向こうにいるまつり。


 いつの間にあんな遠くへ……。


「…………すてろっ、はやくすてろっ!」


 すげー遠くで命令してる。


 超遠い。四十メートルくらいの距離だ。


 そして、俺は言うのだ。


「おーい、まつりー。実はコレ、にせものなんだ。俺が用意したオモチャのゴキ○リ」


 と、次の瞬間――


 目の前にまつりの拳があった。あの一瞬であれほどの遠くからっ?


 瞬間移動の超能力でも持ってるのかコイツは!


「この……すっとこどっこいがぁああ!」


 ドゴーーーーーーン!


「フェスティバーール!」


 お祭り風の叫び声を上げて、俺は宙を舞った。


 そして、体育館の冷たい床の上に落ちる寸前に、蹴り上げられた。


 何だ、このコンボ。まるで俺でリフティングするかのようだ。


「しね! しね! ころすころす!」


 ばこーーーん! ずごーーーーーん! どごーーーん!


「かはぁ!」


 あまりにも一方的な暴力。たまに体育館の壁とかにぶつかって跳ね返ったりする。まるで俺でスカッシュしてるみたいな。


「ばか! あほ! まぬけ!」


 ばこーーーーん! どごーん! ずごーーーん!


「この、このぉ! おたんこなすー!」


 その罵声、小学生のごとし。


「くたばれぇええ!」


 どごーーーん!


 体育館中を俺の体は飛び交って、まつりが肩で息をするほどに疲れた頃、ようやく暴力から解放された。


 超痛い。


 最後の方は、もう声を発することさえできなかった。


 だが、俺は丈夫だからすぐに回復する。たぶん、何らかの神的なものの加護を受けているのだ。


「はぁ……はぁ……次やったら、マジで殺すからね」


 珍しく肩で息しながら言って、体育館の床を蹴って駆けた。


 ぶっ飛ばされながら空中で考えていたことなんだが、これは、やっぱり謝らなくてはな。


 駆け足で追いかけ、廊下を走り、下駄箱で追いついた。


「おーい、まつりー」


 すると、まつりは立ち止まり、


「何で生きてるんだぁ!」


 ばこーん!


 殴られ、宙を舞う。


「げふぅ!」


 ドサリと廊下に落ちた。


 すぐ殴るんだもんな。でも、相変わらず痛いけれど、もう慣れてしまったぜ。


 俺はすぐに立ち上がって、話しかける。


「手、痛くないか?」


「痛いわよ!」


「ごめんな、ゴキ○リのこと」


「許さない。死ね」


 口を開けばすぐ暴言である。


 俺とまつりは、上履きから下履きに履き替えた。


 そして、まつりは、昇降口の傘立てに一本だけ残っていた俺の緑っぽいビニル傘を手に取る。全く躊躇うことなく。そして、バサッと開いた。これまた躊躇わず。


「まてまてまてぃ!」


「何よ」


「それは俺の傘。俺の傘だぞ! さっき笠原商店で買ったやつだ」


「学校に置いてあったんだからあたしのだ!」


 どんな論理だ、このジャイ○ン崩れめ!


「こ、こら、待て」


 しかしまつりは俺を無視して土砂降りの外へ出る。まだ風は弱いままだ。


 中庭を歩く。激しい雨に打たれて、俺はすぐにずぶ濡れになった。


 無理矢理傘の中に入ってみる。


「入ってくんな! そして死ね!」


 何言ってんだ! 俺の傘だぞ!


「返せ、返せ。ちょいさー、ちょいさー」


 俺は手を何度か伸ばし、傘を奪い返そうとした。が、


「あたしの傘にさわるなぁああ!」


 どごーーーん!


「あいやー!」


 いつものように拳に吹っ飛ばされ、水たまりにバシャーンと落ちて泥まみれになった。


 っていうか、お前の傘じゃねぇよ!


 俺は、めげずに立ち上がり話しかける。


「なぁ、まつり」


「うるさい、死ね」


「怒ってる?」


「…………」


 怒っているらしい。


 ちょっと(あお)ってみようかな。


「いやー、しかし、まさかお前が、ゴキ○リにビビるとは思わなかったな」


「……死ぬ?」


「い、いえ、死にたくないっす」


 こわい。殺気がやばい。こいつはシャレにならないぜ……。


 殺伐オーラがシュワシュワいってる。


 本気で殺される気がするので、もう言わないことにしよう。


 そのまま、門を出て土砂降りの坂を下る。


「なぁ、まつり。傘入れて――」


「ダメだつってんだろ!」


 ばこっ。軽く殴られた。


「なぁ、まつり。お前は、どうしてそう、暴力的なんだ」


 俺でなければ耐えられないほどに。


「っ、それは……」


「暴力でストレス発散してるのか?」


「みどりに聞いたの? 色々」


「そうだな……色々聞いた。あ、だからってみどりにモイストするなよ?」


「…………」


 こいつ、やる気だ。


 みどりに会ったら即モイストする気だ。


 口の端が不気味に吊り上って、何か企んでる感がひしひしと伝わってきた。


 しばらく歩くと、風車並木の急な坂が終わって商店街に出た。


「モイストはするなよ」


 念を押す。


「…………」


 返事が無い。


 やはりモイストする気なのだろうか。


「お前がモイストを強行するってんなら、俺にだって考えがあるからなっ!」


「……じゃあ、あたしの家ここだから。バイバイ」


「え?」


 上井草まつりは俺の宣言を無視するように言って手を振ると、傘を差したまま店の引き戸を開けた。透明な引き戸に白い字で縦書きされた文字は、


『上井草電器店』


 まつりは戸に手を掛けたまま振り返って、


「バイバイってあたしが言ってるんだけど?」


 挨拶を強要してきた。


「あ、ああ。じゃあな」


「うん」


 フッと笑って店の中に消えた。


 ここが、まつりの家か。みどりの家の三軒離れてるくらいか。


 店なのかわからないくらい寂れてるから今までスルーしてたけど、そういや商店街の娘だとか言ってたっけ。


「ふぅ……」


 俺は溜息を一つ吐いて、寮に向かって歩き出した。


 雨足が強くなったけど、ここまで濡れていたらもう関係ないな。


 おのれ、上井草まつりめ。





 さて、寮の玄関にはバスタオルが用意されていて、そこで全身を雑に拭いて、靴と靴下を脱いで絞った。水がザバーっと出て玄関の土足可領域に水たまりを作った。で、ついでに服も脱いでパンツ一枚になり、服を絞る。水たまりは川になった。


 そんな寮の床が濡れないように中途半端な気を利かせた行為の後、俺は部屋に戻ってシャワーを浴びた。


 そして今、部屋で寝っ転がって天井を見つめているところだ。


 横暴な上井草まつりに対する怒りを噛み締めながら。


 何であいつは、ああも粗暴なのだろうか。もうね、本当どうしようもない奴だな、あの女は。


 だけど、嫌いじゃないんだよな。どうしてか。


 そういえば、次の登校日……つまり明後日か。


 明後日の朝は、みどりがモイストされないように、みどりを迎えに行かないとな。何と言っても、俺がまつりに近付いたのは、みどりにモイストさせないためだから……。


「…………」


 ちょっと待てよ。


 本当に? 本当に、そうだろうか。


 俺は、みどりのためにまつりに近付いたんだっけ?


 みどりをツッコミにしてコンビを組むためだ、と言って来た気はする。だが、だが俺は本当にそう思っているか?


 みどりのため?


 自分のためじゃないのか?


 俺自身が、まつりの近くに居たいから。


 ということは、だ。俺は、まつりのことが、好き……なんじゃないか?


「…………」


 好き。好きって何だろうな。


 好き。好き、好き。ああ、わけわからん。


 好きなわけないじゃないか。でも、うーん。


 寝よう!


 こうなれば寝るしかない。


 俺は押入れの上の段から布団を引っ張り出して敷き、布団の中でのた打ち回った。


 そして、いつの間にか眠った。



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