上井草まつりの章_4-3
雨の中、歩いて、歩いて、また歩いて、学校に着いた。風は弱かった。どうやら一日一度の風の弱まる時間帯だったようだ。
さて、どこに行くか。
いや、まぁ、特に目指す場所も無いしな。ぶらぶらするとしよう。
俺は律儀に下駄箱で靴を履き替え、ビニル傘を全く使われていないような錆びた傘立てに置いて、校内へと入った。
行くアテもなくブラブラしていると、職員室前に出た。
休日に制服も着ないで校内に侵入するというのは、当然校則違反だ。だが、バレなければ何の問題も無い。ここは、ギリギリのスリルを味わいたくなるぜ。もしも職員室に教師が居れば叱られるのは必至。
抜き足差し足千鳥足。
――って千鳥足は違うだろっ、よっぱらいかよっ。
ふぅ……ついつい自分でツッコミを入れるために立ち止まってしまったぜ。
しかも職員室の扉の前で。
この瞬間に教師とかが出てきたらやばいな。なにせ授業ない日に私服登校だからな。
と、その時だった。
ダダダダダダダダッ!
聞き覚えのある足音がした。
長い廊下を猛ダッシュしてくる制服女子の姿が見えた。
現れたのは、上井草まつり!
「どけぇえええええ!」
まつりは風を纏い、猛スピードで近付いてきて……近付いてきてぇ!?
「お、おい……ちょっと――」
ドムンッ!
言い掛けた俺の体を弾き飛ばした!
トラックに撥ねられたみたいな衝撃!
「ろぶすたぁあ!」
エビ風の叫び声を上げながら、俺は宙を舞った。
両手両足を前に突き出しながら廊下を飛んだ。
そして、ドサリと床に落ちる。
超痛いっ!
「ソーリー!」
反省の色が感じられない謝罪。
なんか、前にもこういうこと、あった気がする。転校初日あたりに。だが、今の俺はあの時の俺とは違うのだ。ただまつりが視界から消えるのを待つだけの男ではなくなった!
そう。度重なるまつりからの暴力によってレベルアップしているのだ!
すぐに立ち上がって、「まちやがれぇえ!」と言って、まつりの背中を追った。
ダダダダダッ、としばらく走って追いかけ、
「まてっつーの!」
追いついた、そして、腕を掴んだ。ガシッと。
「なっ、何だよ……」
と、まつりは言って、攻撃的な目を向けた。
「俺を撥ね飛ばしておいて、何だよは無いだろうが」
「謝っただろ」
「あんな誠意のない『ソーリー』を謝罪とは言えない」
「放せ!」
「…………」
俺はばっと彼女の手を放した。
まつりは、腕組をした。
「お前、何で休みなのに学校きてんだ? ストーカー?」
「人聞きの悪いことを言うな。お前こそ制服まで着込んで学校に何か変なもん仕掛けてんじゃないだろうな。爆発物とか」
「はぁ、そんなことするわけねえだろ……」
「まぁ、そうだな。お前なら素手で学校破壊するもんな」
「あたしは何者だぁー!」
どかーん!
「ふっ、効かん」
頭から流血してるけど。まぁ、十五秒もあれば止まる。
「で、何か用?」
「俺と勝負しろ」
「休みの日までやんのかよ」
「何? 逃げるというのか?」
「やるけどもさ」
「そうか、では体育館へ移動だ」
「体育館で何やるんだよ」
「それは行ってから決める!」
「はいはい、何でも来なさい」
溜息混じりに、まつりは言った。