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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_理科室の友達と過ごした日々
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理科室の友達と過ごした日々-4

 四日目。


 私はそれなりの準備をした。喋れない彼女のために何かを持って行こうと考え、ペンとメモ帳を持っていった。ところが、何と嬉しい事に、彼女の方でも鉛筆とノートを用意していた。


 歓喜したよ。これでマトモな会話ができるって。


 彼女は椅子に座って左手に鉛筆を握り、机に置いたノートの横線を眺めていた。


 私はとりあえず、彼女の名前を正確に知ろうとして、こう言った。


「えっと、はもやませつこちゃん、だっけ」


 すごい無理矢理な間違い方をした。本当は、名前おぼえてたけど、あえて間違った。


 すると彼女は、無表情のまま怒りマークをつけて、


『はまなかさよこ!』


 と殴り書いた。あんま上手じゃない、味のある字だった。


「どういう字だっけ? 忘れちゃったからもう一回教えて?」


 すると彼女は、平仮名で書くよりも丁寧な字で、


『浜中紗夜子』


 と、そう書いた。


 私は彼女と会話した。


 私がどうして声出さないのか、喉をつぶしたのかと訊ねると、『しゃべらなくても問題ないと思ってたけど、こういう時、困るね』だとか、『しゃべらないで過ごしてたら、いつの間にか声の出し方をわすれちった』とか書いてきた。


 しゃべらなかったら声を忘れたなんて、漫画の中のネタだけかと思ってたけど本当に居たんだってビックリした。


 でも、ずっと彼女は笑わなくて、表情というか、喜怒哀楽がなかなか表に出なくて、なんか、ちょっとね、正直に言うと、ちょっと怖かったかな。


 ユーレイなんて呼ばれてたのも、僅かばかり納得できちゃうくらいには。





 七日目、くらい。


 正直、何日目だか忘れた。日々の蓄積が日記ってものならば、私のつけてる四日目から七日目まで吹っ飛んだコレはもう日記としては失格な気もするけれど、言い訳をさせて欲しい。


 楽しかったんだ。彼女と遊んだ日々が。


 彼女は全く声を出せないけれど、筆談すれば会話もできるし、やらせりゃ何だって出来る。そりゃもう、腹立つくらいに何だって出来る。


「もっとそれを活かしなさいよ、このダメ人間」


 って罵倒してやりたいくらいに万能だ。


 自分自身と比較してみても、私が勝てる教科なんてのは、歌わなきゃいけない音楽と喋らなきゃどうにもならない英語のオーラルコミュニケーションくらいだ。声出しが必要なスポーツとかも考えたけど、私に長時間の激しい運動は不可能だから彼女みたいなひきこもり相手でも、たぶん負けるし。


 まぁもうね、センスで言ったらだいたい負けてるんだけどね。


 だけど、そうだな、負けたいと思った。私はあらゆることで彼女に負けたいって思った。


 私にとっては、負けるが勝ちだ。


 なんちゃって。




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