理科室の友達と過ごした日々-1
理科室に何か居るらしい。
そういった噂を耳にした私は、こわいもの見たさ全開の思春期的思考でもって、何か居ると噂の理科室を訪ねてみることにした。
そして、理科室に行ってみると、確かに何かが居た。
外からこの学校に入ってきて、数か月が経っていた。平凡で善良な私はこんな町でも当たり障りのない人間関係を築くことができていた。
そんな時に耳に入ってきたその噂。
同じクラスの人の話では、ユーレイという説が最右翼だったから、もしそうなら除霊ごっこでもしてやろうと企んでいたのだけれど、理科室に居た何かはユーレイではなく、「何か」という表現したらいけないような、かといって人間と言うにはちょっと足りないような、そんな子だった。
私は理科室であったことは、クラスの人たちには全て秘密にすることにした。
理科室には、最初、鍵がかかっていた。無理にこじ開けるのもどうかなぁと思って、その場でずっと座り込んでいた。何時間もボケーっと天井や理科室の出入り口を見つめながら何かが起きるのを待っていると、やがて理科室の戸が勢い良く開いた。黒い服を着た痩せ細った何者かが立っていた。
幽霊ではない。くさかったから。
って、女の子相手にくさかった、なんて日記に記しちゃうのもあれだけど、でもま、事実だから仕方ない。
女の子は私の姿を見て少しビックリした後で扉を閉めて鍵をかけた。
どうやら、他人と接するのが苦手な子みたいだった。
だけど、そう、その時私は思ったんだ。「もったいない」って。
痩せ細ってはいるけれど、あれだけの美貌だったら誰だってそう思うに違いない。こんなところで腐らせていたらいけないと。
私は元来おせっかいな性格だし、祖父ちゃんあたりに「おてんば娘がぁ」とかってののしられることもあったから、その生来の特徴を発揮する形で、彼女の世話を焼くことを心に決めたのだ。
そう、私はこれから、彼女を何とかしてみせる。
これは、そういう決意の日記。
というわけで一日目。
鎖された理科室をコンコンと二度ほどノックしたが、返事は無かった。
「おーい、いるんでしょー」
と声を掛けてみても、居るとも居ないとも言わない。
扉に耳を当ててみても、物音ひとつしなかった。
きっと、おびえていたのかな。
そこで私は、居なくなったフリをしてみた。扉の外に張り付いて、様子をうかがってみる。
五分くらいして、戸が、そうっと、ちょっとずつ開いた。
隙間から外をのぞき見ていた。外で待ち構えてた私と目が合った。「スキあり」って感じで扉に手をかけようとした。思い切り閉めやがった。私の手が挟まれて私は「うぎゃぁ」と叫びながら挟まれた指をおさえて涙目で悶えまくったたんだけど、なんと理科室の女の子は再び扉を閉めて施錠した。
私が帰ったフリで隙をつこうなんて卑怯なマネしたからなんだろうけども。だけど、他人に危害を加えといて知らぬ顔ってのは、ちょっと、どうかしてる。
私はちょっとさすがにイラついちゃって、もう痛くないのに五分間も「あんぎゃー」とか「ふぬぅううう」とか「あぐぅぅえあ、うぁああ」なんていうわざとらしい悲鳴を上げながらのたうち回ってたんだけど、ちょうどそこに風紀委員を名乗る変な長身女が通りかかってね、すごく恥ずかしかった。
制服の腕に紫の三本ラインが特徴の風紀委員の女は、
「キミ、そこで何してんのよ」
なんて言って来て、その威圧的な態度と目つきの悪さにビビった私は、全力で土下座してやったわよ。
そしたら独房入りって、何だかおかしな話よね。




