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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_RUNと明日香のボウリング遊び
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RUNと明日香のボウリング遊び-4

 さて、完成するまでの数日間――ずっと地下にいたので時間の感覚が狂ってしまい、詳しい経過時間がわからないから、とにかく数日間――徹夜続きだったので、一晩しっかり寝て、久々の登校。


 明日香とRUNが、向かい合って座っている窓際。


 明日香には、「あんたが居なくて、つまんなかったわ。どこ行ってたの?」とかくすぐったくなるような言葉をかけられ、大場蘭には、「さみしかったで」なんて嬉しいことを言われた。


 なんだかんだ言って、二人とも俺のことを必要としてくれているらしかった。


「それはともかく、二人とも、ボウリング場が完成したぞ」


 二人は目を輝かせて立ち上がった。椅子が跳ね飛ぶ音が響いた。


「楽しみやわぁ」


「今度こそ、まともなんでしょうね?」


「もちろんだ!」


 ちょっとピンのクオリティは低いけどな。でも、頑張ったほうだろう。ピンは紙製じゃなくって木製だし。球は石でできてるし。


「よし、それじゃ行くぞ。ボウリングして遊ぼうぜ!」


 というわけで、授業なんてサボって学校を後にして、坂を下り、風車並木の草原と商店街を過ぎ、湖手前で左折して、緩やかな坂をのぼって図書館方面へ。途中、寮を右手に見ながら通り過ぎて、図書館へとたどり着く。その図書館裏にある洞窟。そこがボウリング場。


 利奈っちがつくった『ぼうりんぐ』というポップな文字が踊るプラスチックの矢印看板が、洞窟の中を指している。


「なんや、怪しいとこにあるんやなぁ」


「洞窟かぁ。なんか、わくわくするわね」


「明日香は、探検とか好きそうだよな」


「うん。大好き。あ、もしかして、だから洞窟の中につくってくれたの?」


 いいや、それは成り行きなんだが、ひとまずここは明日香を喜ばせておくか。


「ああ、その通りだ」


「ふふん、なによ、達矢もやれば出来るんじゃない」


 俺たちは洞窟へと足を踏み入れた。





 深く深く階段を下ると、ボウリング場がある広間で利奈が追い回されていた。


 電動ドリルを持ったムキムキのおっさんが、利奈を追い掛け回している。


「ごめんパパぁ! ごめんってばぁ!」


「ゆるさん! ゆるさんぞ利奈ぁ! よくもワシの大事なロケットちゃん一号と四号を解体しおってぇ!」


 二人の声が、よく響く。


「わざとじゃない! わざとじゃないのぉ!」


 長い髪を揺らして逃げる逃げる。


「わざとじゃなくてどうやってバラバラになるんじゃあ!」


「ごめんなさいぃいい!」


 何だろう、宮島家って、たぶん、すごく騒がしくて賑やかな家なんだろうな。


 そうこうしているうちに、利奈は俺の目の前を通り過ぎ、階段を駆け上って行き、電動ドリルをウィンウィン言わせながら、筋肉男も利奈を追って階段を駆け上がっていった。


 そして静かになった世界に、ボコーン、ボテという、鈍い音が響き渡った。ボールがピンにぶつかって弾けたり倒れたりする音である。見事ストライクだったのだが、何度思い返してみても鈍い音だった。


 本来なら、カコーンと小気味いい音が響くところなのだが、残念ながら、ピンは素人自家製である。中に空洞をつくる技術など持ち合わせていないゆえ、あまり爽快な感じはしない。しかも、ボールが自動で戻ってくるわけではなくセルフで拾いに行かねばならなくて、盛大に散らばったピンを並べ直すのも手動である。


 ただし、このストライクをキメてガッツポーズした和服の女性は、自分で球を拾いに行くこともなければ、自分でピンを並べ直すこともしない。岩の即席ベンチに腰掛けて、ボールが届くのとピンが並べられるのと、スコアを紙に書いてもらうのを待っている。


 その雑用のような球運びピン並べスコア記入をしているのは、なんと若山さんであった。


 若山さんは、まず最初に用意していたスコアシートに蝶ネクタイのようなストライクマークを記し、次にピンをせっせと並べ直し、ピンから五メートルほど後方に転がっていた重たい重たい球を転がしてきて、和服の女の人に渡した。


 あの和服の人は、確か……花屋で会った人じゃないか。


 その花屋の人は、俺たち三人組に気付き、


「おや、あんた、若山くんと一緒にいた子じゃないの。女の子二人も連れて、デート?」


「女の子を二人連れたデートって、あんまり聞かないですけど」


「じゃあ、どっちが彼女なんだい?」


「いえ、その……何なんでしょうね。どっちとも付き合ってるわけじゃないっすけど」


「あらそうなの。じゃあ、どっちが好きなんだい?」


「えっと……」


 この時、背後で二人の女がにらみ合っていたことを、この時の俺は知る由も無かった。


 俺は、そんな好きとか嫌いとかよりも目の前の和服の人がこの場所に居ることが妙に引っかかったのだ。


 そう、あれは、若山さんと融資の相談をしに行った時のこと。若山さんは、ボウリング好きかどうかを、この女の人に聞いた。記憶を辿ってみると、女の人は、嫌いだと言って戸をピシャリと閉じたはずだ。


 俺の記憶が違っているのだろうか。確かに徹夜続きだったから、脳細胞が誤作動を起こしている部分はあるかもしれない。ただ、そうそう数日前の鮮烈で鮮明な記憶が薄れるものでもない。


「花屋さん」と、俺は女の人に話しかける。「ボウリング、嫌いって言ってませんでした?」


「ん? ああ、いやぁ、大好きだよ」


「あれ、でも、この前、ボウリング好きかって若山さんが訊ねたら、嫌いだって言って店の奥に引っ込んでいきませんでしたっけ?」


「いやさ、恥ずかしい話なんだけどね、昔、温泉を掘ろうってんで投資して、業者に穴掘ってもらったんだよ。そのボーリング作業にすごいお金かかってね。でも、温泉は出なかった。だから、ボーリングは嫌いなんだよ。あたしゃてっきり、あっちの穴掘る方のボーリングかと思ったんだけど、球転がすボウリングの方だったんだねぇ。ちゃんと説明してくれたら、一枚噛んだのに」


 でも、何度その場面を思い返しても、取り付く島がないというか、全く聞く耳持たない感じだったけどな。


 そんな世間話みたいなもんを繰り広げている時、どうやら背後では無言で女の戦いが繰り広げられていたようだ。明日香もRUNも、別に俺が恋愛対象ってわけでもないと言い張っているのだが、どうも「自分の方が選ばれたい欲求」ってのが人間にはあるようで、承認欲求っていうのかな、そういうの。


 とにかく、そういう感じで俺こと戸部達矢を巡っての勝負が、無言のにらみ合いという形で既に始まっていたのだという。


 俺が二人を花屋さんに紹介しようと背後を振り返ると、なんだか張り詰めていた。何だか、おかしな空気だった。二人とも、俺のことをじっと見つめている。俺はこの時、花屋の未亡人相手に鼻の下を伸ばしてると思われたんじゃないかと思ってちょっと焦ったんだが、どうやらそういうことでもなくて、花屋の人なんて既に眼中に無かったようだ。


「ん、あれ。えっと……どうした? 二人とも」


 すると明日香は、こう言った。


「あんたさ、私とRUNだったら、どっちが可愛いと思う?」


 そしてRUNまでもが、


「せやな。ウチもそれ聞きたいわぁ」




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