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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
番外編_RUNと明日香のボウリング遊び
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RUNと明日香のボウリング遊び-3

 ロケットハウスの扉を叩いてすぐに、巨大なムキムキの男が勢いよく扉を開けたので、俺は少々面食らった。心の中で、なんだこの筋肉男は、と呟くほどに。


 はちきれんばかりにピチピチなTシャツには、『利奈LOVE』という荒々しい文字が躍っている。


 利奈というのは、確か、上井草まつりとかいう横暴風紀委員の部下みたいな立場の女の子だ。情報通の笠原みどりちゃんの話では、いつも図書館に居て、学校には時々しか行かないらしい。


 この家の表札は宮島。そして利奈のフルネームは宮島利奈。つまりは、このムキムキが利奈の父親といったところだろう。


 筋肉は言う。


「おう、利奈の友達か?」


 別に友達とかそういうわけではないし、そもそも目的は宮島利奈に関連することではなく、ボウリング関連である。若山さんは、コホンと一つ咳払いして、


「実は、お願いがあってきたんです」


「何! 娘はやらんぞ!」


「違いますよ」


「じゃあ何じゃ」


「実は、ボウリング場を作りたいと思ってまして」


「ワシに作れと言うのか?」


「ええ、できれば、腕が立つと評判の宮島さんにそうして欲しいところなんですけど」


 すると筋肉は顎に手を当てて少々考え込んだ後、


「断るッ!」


 無駄に大きな声でそう言った。思わず耳をふさぎたくなるほどの大音声だった。


「ワシは、ロケット作りで忙しいんじゃ。悪いが、ボウリング場などを作っている暇はない! じゃが、ワシも男。青春時代に流行を見せたボウリングを、もう一度やりたいという願望もある。ふおお……どうすればいいんじゃろうかぁ!」


 頭を抱えて震えだしたぞ。なんだろう。すごい変な人だなぁと思った。


「そうじゃ、もしもワシ抜きで造るというなら、ワシの資材は勝手に使って良いぞ。道具もその倉庫に置いてあるから使え。なに、金は取らん。なぜなら、ワシもボウリングが好きだからじゃあ!」


「ありがとうございます。それで、その倉庫ってのは、どこにあるんですか?」





 宮島家の管理する倉庫は、図書館裏にあるという。


 倉庫の場所を告げた宮島さんは、「とはいっても、最近はワシも全然使ってないんだけどな、ファッハッハ」とか豪快に笑っていたっけ。


 というわけで、図書館に来てみたのだが、そこには赤色のパイロンと黄色と黒のKEEP-OUTテープによって侵入禁止のバリケードが張られており、その奥には洞窟が見えた。


「達矢。あの洞窟っぽいところに、宮島家の倉庫があるって話だったよな」


「ええ、そうですね、ムキムキの人はそう言ってましたけど」


「てことは、立ち入り禁止っぽくなってるけど、入って行って問題ないってことだよな、達矢」


「まぁ、そうですね」


「よし、それじゃ行くか」


「はい」


 そうして、若山さんと俺は、パイロンとテープを乗り越えたのだが、超えてすぐに前を歩いていた若山さんがピタリと立ち止まる。


 なんだろうかと(いぶか)しく思い、俺も立ち止まってみた。そして、若山さんの視線が向いている方角を見てみる。


 街灯があった。


 その街灯に、人間が逆さに吊るされていた。長い長い髪の毛が重力に負けて垂れ下がっていた。スカートがめくりあがっていたが、紺色のタイツを穿()いていたので下着などは見えなかった。


 ていうか、何だ。何だこの風景は。何で人が逆さ吊りされているのだろうか。まさか、何かの処刑とか罰とかそういう類のものなのだろうか。こんな掃き溜めの町であるから、ありえない話ではない。


 彼女は生きているのだろうか、まさか既に死んでいるとかじゃなかろうな。いずれにせよ、関わりたくない気持ちもあるし、助けてあげないとやばいだろうという気持ちもある。


 若山さんは、俺の肩を叩き、吊られている女の子を指差し、


「なぁ、どうしちまったんだ、ありゃ」


「若山さんにわからないものが、俺にわかるわけないですよ」


 なに、この、衝撃的な光景。


 と、そんな時、吊られ女が声を出した。


「だ、誰? 誰かいるの?」


 どうやら、生きていたようだ。


「どうしたんだ、お嬢ちゃん!」


 そんな若山さんの問いに、吊られ女はこう言った。


「た、助けて……」


 というわけで、俺が街灯によじのぼり、足首にしっかりと絡み付いていたロープを解き外し、落下したところを若山さんが抱きとめた。


 正直、吊られていた女の子は、胸はちっちゃいものの、背が高く、なかなか可愛かったので、抱きとめるほうをやりたかった。しかしまぁ、そんなことは、もはやどうだって良いのだ。


 女の子は、こう言った。


「あの、助けてくれてありがとうございます。お礼がしたいです。何でもします」


 図らずも興奮した。何でもしますなんて言われてしまったら、アレコレと何してもらおうかグヘヘと考えてしまうのは、普通の男として致し方ないことである。まして俺は十代。広がるいやらしい妄想を抑制する機能は未搭載なのである。


 しかし、俺が妄想を展開させようとした矢先に、若山さんは、あろうことか、


「構わん。礼なんていらないさ。おれは、落ちてきたお嬢ちゃんを抱き止めることができた時点で、余るほどの幸運に打ち震えたい気分なのさ。むしろ、こっちがお礼したいくらいだぜ」


「え。そんな……。なんか、お上手ですね」


「ともかく、お礼なんて必要ないんだよ。どうしてもって言うなら、これからボウリング場を造ろうと思ってるんだが、その手伝いをして欲しい」


「あ、はい。やらせてください。ぜひ!」


「ところで、何で吊るされてたの?」


「やはー、恥ずかしい話なんだけど、自分の仕掛けた罠にはまっちゃって」


「すさまじい間抜けぶりだな」


「たまたまですよ。普段は、そんなこと全然なくて、しっかりしてる方だって、よく自分に言い聞かせてます」


「他人から言われるわけじゃないんだ」


「きっと、周りからも、一見しっかり者に見えるって思われてるっしょ」


 まぁ確かに容姿だけ見ればきちんとしていて、そんなに抜けてる子には見えないな。


 若山さんは、「そうか」と頷き、続けて「名前は?」と訊ねた。


「宮島利奈です」





「勝手に使っていい? 本当に、パパがそう言ったんですか? 泥棒とかじゃなくて? 資材が盗まれる事件とか都会じゃけっこう起こるらしいじゃん。ていうか、パパに会ったって証明してください。パパはどんな服着てましたか? え、ムキムキのピチピチで利奈ラヴシャツ? じゃあ、本当に会ったんだ。ていうかパパあの服また着てたんだ。恥ずかしいから着るのやめてって頼んでるのに。でも、そっか。それなら、いいよ。入っても。ていうか、案内するね。一本道だから迷うことは無いだろうけどさ」


 宮島利奈はそう言って、ない胸を張り、歩き出したのだが、


「きゃああああああ」


 またしても自分のトラップに引っかかり、足をロープに絡め取られ、地面を十メートルくらい引きずられた後、上昇し、街灯のそばで逆さ吊りになる格好で止まった。


 体中についた土埃、またしても垂れ下がるこれまた土まみれの長い髪と両の腕。


「あぅ、助けて……」


 泣きそうだった。


 思わず、俺も追い討ちをかけるようにこう言ってしまった。


「お前、アホだろ」


 そんな利奈に案内されて、階段を降りていく。


 かなり地下深くまで洞窟は続いていて、蛍光灯の明かりのおかげで何ら困ることなく降りられた。


 洞窟の終点には、扉があって、その扉を開けると、大きな空洞を利用した倉庫になっていた。


 石材も、木材も大量にあった。なぜか物騒な近代兵器が置いてあったり、巨大なロケットが放置されていたりと何でもありな場所だった。


 若山さんは宣言する。


「さて、材料も揃った。人手はちょいと足りないが、造るぞ、ボウリング場!」

 俺と利奈っちは、揃った返事をした。


 と、いうわけで、ボウリング場建設が開始された。


 とはいっても、建物を丸ごと造るとなると、そりゃもう大変な作業になってしまうので、ボウリングレーンのみを敷くことにした。


 場所は、資材置き場のある図書館の裏の洞窟内。


 人手が少なくて、資材の運搬が大変だったということもある。倉庫へと続く扉の前、そこに何も無い広場があるので、そこに敷くことにした。


 若山さん、利奈、俺。三人で、多種多様な木の板を綺麗に平らになるように敷き詰めて、何度もやすりをかけて表面が平らになるように削り、仕上げにオイルを塗る。ガター用の溝は、倉庫に大事に保管されていたロケット二本を半分に割ってつなぎ合わせた。


 長さ二十メートルほど、幅一メートルのレーンと、両側のガターがまず完成した。


 次に取り掛かったのが、ピンである。これも木材を使って作った。ナイフでそれっぽい形に削って、やすりをかけて、白と赤で色を塗って。


 薄暗い地下で、こういった地味な作業をしていると、なんだか気が滅入ってくる。


 そんでもって成果物も、正直、見慣れた感じになったとは言いがたいものだった。形が不ぞろいで、歪で、並べてみると魔女が住んでる森みたいになってしまう。


 しかしまぁ、これはこれで良いことにして、次に進んだ。


 次は、いよいよ球である。


 しかし、これが、大変だった。


 重たい石を加工してみたのだが、なかなかちゃんとした球体になってくれず、若山さんも利奈も、上手く作ることができなかった


 そこで利奈が一人、激重な石の塊を持って何処かへ行って、その間、俺たちは二つ目のレーンや、予備のピンを作っていることにした。やがて利奈は、「恥をしのんで、器用な友達に頼んできた」と言って、手ぶらで帰って来て、予備のピンをつくる作業に参加した。


 石の塊をいくつか持っていってから二日ほど経って、利奈は見事な球体を持ち帰ってきた。


「いいっしょ?」


 誇らしげに、大きな重たい石球を差し出した。


 その後、発注先と洞窟とを往復して、六個ほど持ってきた。


 仕上げとばかりに、若山さんが種々の照明器具をショッピングセンターから運んできて、ライトアップ。


 そうして完成した、ボウリング場。


 洞窟だから全体的に暗くて、見ようによっては大人っぽい雰囲気の空間。まだら模様のレーンは二つ。ピンの形は不揃い。球は超重い。


 少々至らぬところがありつつも、何とか完成したのである。



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