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ブルースクリーン-2

 翌日。


 理科室に着くと紗夜子が居なかった。待っても待っても戻ってこなかった。シャワーにしては、長すぎる。


 どこに行ったのかと首をかしげてみても、誰かが答えてくれるはずもなかった。


 おかしい、理科室の主がこれほど長期間家を空けるなどということは考えられない。


 そう思った俺は、紗夜子を探す旅に出た。


 一通り、町の中やらショッピングセンターやらを探して戻ってきたのだが、居ない。どこにも見当たらなかった。


 実は紗夜子が本当に幽霊だったんじゃないかなんて疑惑も持ち上がってくるくらいに普段とは違う世界だった。


 そして、理科室に戻ると紗夜子が居た。


 俺は扉を開けて、緊張しながら「よ、よお」とか平静を装って言ったが、紗夜子は椅子に座り、背中を向けたまま無視をした。


 こいつはやべえと本能的に思ったね。


 どうしてバレたんだか不明だが、俺がやらかしたことが十中八九バレている。


「どこ、行ってたんだ、紗夜子」


「湖」


 冷たい声だった。


 おもわず、「うっ」と声を漏らしてしまった。焦りを隠せない。


 紗夜子は、こちらを向く気配も見せずに、ただ赤いカーテンの方を見ているようだ。


「め、めめ、珍しいなぁ、湖……っていうか外に出るなんてな、こんな昼間に」


「…………」


 やばい。こわい。


「紗夜子は、あれか、湖で何してたんだ? 水遊びか?」


「サルベージ」


 知らない単語だったので、俺はヘラヘラしながら、


「何だそれは。意味わかんねぇぞ」


「ひきあげてた。湖底から」


 血の気が引いた。サァっと引いた。


「な、何を?」


「パソコン」


 ああ、俺、死んだと思った。


 部屋を見渡してみれば、緑色のカーペットの上に少々水に濡れた箇所が広がっていて、その上には見覚えのあるナイロン袋が鎮座していた。


 ああ、もうダメだ。


「えっと、その、紗夜子」


「言ってみて」


「え、何を」


「いいわけ。あるんでしょ」


「あ、ああ」


「正直に」


「う、え、まぁ、その、うん。ごめん」


「なんで」


「何が」


「なんで、あんななった」


 そして俺は言った。


「パソコンがな、突然自殺したくなっちゃったみたいで――」


 バシン、と机を左手が叩いた。


 普段、痛くてあんまり使わない左手で、思い切り叩いた。


 ああこりゃやばい。でも紗夜子に消されるなら本望だと思った。


 でも、その時の紗夜子は、そんな暴力的なことは何一つしなかったんだ。


 振り返った紗夜子の目に、涙が浮かんでいた。まばたきしたら、大粒のそれらがポロポロと落っこちた。


 紗夜子はベッドに仰向けに寝転んだ。


 たぶん、殴る気も失せたんだろう。


 声を出さずに、仰向けに寝転び、ただただグッタリして泣いている。


 なんか濁った目で、人生が詰んだみたいな絶望に満ちていた。


「あ、あの――」


 と俺は言い掛けた。紗夜子はそれを遮って、震えた声で、


「あれはね」言って、寝返り。顔も見たくないとばかりに背を向ける。「あれは、わたしにとって、すごく大事な、第二の命みたいなものなんだよ?」


 なるほどな、と思った。ひきこもりにとってのパソコンなんてのは世界そのものと言っても良いくらいだって話を聞いたことあるし。


 泣かれてしまったんでは、もうどうしようもない。可愛い子の涙に弱い俺は土下座した。


「責任はとる。何でも言うことを聞く。だから、許してくれ」


 すると紗夜子は、わりとアッサリした声でこう言った。


「新しいパソコンくれたら許すよ」


「わかった!」


 俺は拳を握り締めた。


 それで済むのなら、何とかできると思った。




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