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ブルースクリーン-1

 その時、俺は血が凍る思いってのはこのことかってくらいに焦ったんだ。


 青い画面に、白い英数字の文字列が並んでいた。


 後になって聞いた話ではブルースクリーンと呼ばれるものらしい。


 パソコンが何らかの原因で安定性を失い、エラーでどうにもならなくなったり、どうにもならなくなりそうな状態に陥った時に無音で表示される画面とのことだ。あまりに突然に表示されるものだから、パソコンと向き合った多くの人間を恐怖に陥れてきた。


 とにかく、そんな画面になっちまったもんだから、俺は焦った。


 大変なことになったと思った。


 背後のベッドを見れば、紗夜子は暗い部屋の中、十本の両手の指を甘く浅く組んで、お腹の上に載せている。その手は呼吸によって優しく上下に揺れていた。眠っていたので安心した。


 再び前を向くと、やっぱり青い画面は逃避できない現実だった。


 なんてこった。


 紗夜子のパソコンで、うっかりエロサイトを覗き見ていたからウイルスに感染したのか何なのか知らんが大変なことになっちまったと思った。


 幸か不幸か、紗夜子はいつもの腹に組んだ手を乗せた格好で昼にもかかわらず熟睡しているのでとりあえず見つかっていない。


 正直に申し出れば、簡単に直るのかもしれないし、直らないのかもしれない。


 俺は混乱しながらも責任逃れの術を考える。元はと言えば、紗夜子が自由に使っていいと言ったからこういうことになったのだ。だからこれは俺のせいじゃなくて紗夜子のせいだ。


 青い画面は動かない。いや、下のほうでちょっと文字が動いたりしているけれど、自分の意思で動かすことができない。


 マウスを動かしてみても、キーボードを乱雑にカチャカチャやってみても、動きやしない。


 コンセントを抜いてみても、ノートパソコンの電源は落ちない。


 とにかく、色々とやばいと思った。


 やばすぎて、冷静になんて全くなれなかった。


 無言で静かに寝息を立てる紗夜子を見て、あの幸せそうな寝顔が歪むのは悲しいと考えた。


 そう考えたはずなのに、その時の俺は暴挙に出ちまった。


 ブツブツと、呟くように、こう言った。


「こうなれば、やるしか。こうなれば、こうなれば、こわすしか……」


 俺は、ノートパソコンに繋がれていた管を全部抜いて、三階の窓からコンクリ地面に叩きつけるように放り投げた。


 少し古い型のパソコンは地面へと落ちて、真ん中の繋ぎ目から真っ二つに割れた。


 エロサイト見た証拠をひとまず隠滅することには成功したが、何かに失敗した気がした。


 薄暗い室内を振り返ると、紗夜子が何事も無かったように眠っている。


 よかった。平和だ。


 俺は階下へと降りた。パソコンの亡骸を回収するためだ。


 回収して、どっかに隠しておこうと思った。学校の外に持ち出せば骨の髄までひきこもりである紗夜子には絶対に見つからないはずだと思った。


 パソコンのところには、上井草まつりが居た。


 やばい奴に会っちまったと思った。もしも俺がパソコンを落としたことがバレたら、風紀を乱した罪とかって独房入りになるかもしれない。


 だがしかし、その場から逃げたら「あたしから逃げたから現行犯逮捕だよ死ね」とか言われて病院送りもしくは牢屋入りさせられると考え、俺は動くことができなかった。ヘビににらまれたカエルさんってのは、まさにこのことを言うのかと思ってビビっていた。


 上井草まつりは、俺を相変わらずのキツイ目つきでにらみつけた後、「キミのか」と言いつつ残骸を指差してきたので、俺は少々迷った末にコクコクと頷いた。するとまつりは「頭上から物を落とす時は気をつけて落とせよ」と言い残して去っていった。何となくピントがずれた注意だった。落としちゃダメだろとツッコミ入れてやりたくなるくらいに。


 とにかく、無事に危機をすり抜けた俺は慌てて残骸となった機器を集めて、袋に詰めた。そりゃもう、鬼気迫る表情で必死だったと思う。


 そして、体育倉庫から拝借したちょっと古めの黄ばんだナイロン袋を肩にかけて、サンタクロースのごとき格好になりながら、中庭を早歩きで抜け、門の外へ。


「大丈夫。これで大丈夫だ。あとは湖にでも沈めて不法投棄すれば万事解決」


 不法投棄とか、本来ならやってはいけないなんてことはプチ不良という常識人の範疇におさまる種の生き物には理解できること。しかしながら、その時はそれどころじゃなかったのだ。法律なんて意味をなさないのだ。紗夜子に嫌われるわけにはいかないって感情で頭がいっぱいだったから。


 いやもう、その時点で何か色々手遅れな挙句、俺は最低なんじゃないかと思うけれど、とにかく、つまり、何だ、その、あれだ。自分の身がかわいかったんだ。




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