華江さんの伝説と隣村
風車の村と、隣村は、大変仲が悪かった。
なぜかというと、隣村に居た人々は、ソラブネが降って来た時(つまりは巨大質量の物体が落ちてきて村が壊滅したとき)に村を出て行った人々だったからだ。彼らは、安全が確認された後に戻ってきて、何事も無かったかのように風車の村に住もうとした。
風車の村の人々は、それを快く思わなかった。
当然だ。
未曾有の災害に見舞われた風車の村を必死に復興したのは、村に残った人々。
――そんな都合のいい話はないんじゃないか。
村人たちは、戻ってきた連中にそう言った。
しかし、戻ってきた連中も、自分たちの土地に戻れないのは腹立たしい。
山の向こうに村をつくって、いがみあった。
ことあるごとに争いを繰り返して来た。
風車の村の人々は、村の外から人が来ることを歓迎していたが、隣村の出身となれば話は別。村に入れようとしなかった。
隣村の人々は、自分達の土地がうやむやのうちに奪われたと主張して、風車の村の土地を合法的に買い取ろうとした。が、風車の村に入ることができないため、叶わなかった。
隣村との交流が再開されたのは、最近の話。
風車の村は風車の村なりに発展し、比較的外から人が入りやすい隣村も隣村なりに発展した。
主に教育に関しては、風車の村よりも進んでいた。
風車の村には高校が無かった。
隣村に、レベルの高い高校ができた。
子供にハイレベル教育を受けさせるために、隣村と風車の村を繋ぐ船が出されることになった。
風車の村の人々の多くは反対したが、絶大な権力を持っていたいくつかの家が提案・賛同し、一日に一度、風の弱まる時間に船が風車の村にやって来るようになったのだった。
閉じられた狭い村だからといって、世界から置いていかれるわけにはいかない。だから、隣村だろうと何だろうと教育を受けられる場所を……。彼らはそう思ったのだ。
やがて時が経ち、二つの村が少しずつ、本当に少しずつ関係を改善していく中で、穂高家が隣村へと繋がる秘密のトンネルを掘ったり……なんてことがあった。
しかし、その矢先に……。
一部の隣村の出身者が風車の村で住民の土地を騙し取ったり脅し取ったりしていた事実が発覚した。
それを知ってしまった働きもせず家でゴロゴロしていた大地主の家の血の気の多い不良娘は、大変怒った。
風車の村の大地主……つまりは穂高家だった。
穂高家の娘は、隣村の人々を信用していなかった。
そういう風に代々育てられてきたのだ。
敵。そう、敵だった。
だから、隣村の者が土地を騙し取ろうとしたことを侵略だと思った。
――相手が卑怯な手を使おうとしているなら、こっちは正攻法で。
穂高の家の娘はそう思った。
そして……金属バット一本肩に担いで、トンネルを通り抜けて隣村へと向かった。
そして、出会う人々全員をシメようとした。
隣村は、彼女一人の攻撃を恐れ、村全体に避難勧告を出した。
村の自慢である高等学校に避難するように、と。
そして、人々は残らず避難した。
穂高家の娘は、人々が集まった学校に乗り込んだ。
と、その時だった。
……土砂崩れが、街を襲い、高台にあった高校を残して、村は崩壊した。
現在も隣村(現在では隣町と呼ばれているが、現在でも実質は村。隣町という呼び方は、風車の町が町になったものだから、対抗して自称していたのが定着した。)には荒れた砂地に囲まれながら高校の建物が残っていて、砂漠の真ん中をトラックが行き来する道路が整備されている。さらに、周りに何人か人も住んでいたりするのであった。
さて、結果的に、隣村の人々の命を救った穂高家の娘であったが、この話に尾ひれがついて、一人で村ひとつを壊滅させたという伝説が生まれることとなった。
そして、再び住む場所を失ってしまった隣村の人々の多くは、風車の村に戻ることなく全国各地に散った。
そして、何年も後のこと。「風車の村」が「風車の町」になり、不良の更生施設が完成した後、隣村が敵だったことを人々が懐かしむようになった頃になって、隣村の血を継ぐ人々の子供が風車の町のアスファルトを踏むこととなるのであった。
【華江さんの伝説と隣村 おわり】