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みどりの両親の話

 寿司屋にて。


華江「あんた、最近母親に似てきたねぇ」


みどり「え……」


華江「あ、これ言っちゃまずかったかねぇ、ごめん。無神経で」


みどり「いえ、聞きたいです。お父ちゃんは、お母ちゃんのこと全然教えてくれなくて……」


華江「でも、あんたんとこのお父ちゃんがそういう方針なら、あたしに言えることじゃあ……」


みどり「お願いします! おしえてください!」


板前「みどりちゃんにしては珍しくすごい迫力だね、昔の華江さんを思い出すよ」


華江「やめな、そういうこと言うの」


みどり「昔……ですか?」


華江「まぁそうだねぇ、少しね」


板前「みどりちゃんのお母さんと、笠原くんが出会った頃くらいはね、まだ華江さんはヤンチャだったんだよ」


みどり「ヤンチャ……?」


板前「そう、ひどいもんだったんだから」


華江「こらあんた、噂好きなこの子に言ったら街中に広まっちまうだろうに」


みどり「あ、いえ、でも、すごかったらしいってことは、街中みんな知ってるみたいですよ」


板前「まぁ、そうだろうね」


華江「何ですってぇ……」


板前「実は、華江さんはね……若い頃に、隣の村を一つ金属バット一本で乗り込んで壊滅させたことがあるんだ」


華江「あんた、拳いっぱいのガリを口にねじこんでやろうか?」


板前「やめて……ごめんなさい……」


華江「わかりゃいいのよ」


みどり「あの、それで……あたしのお母ちゃんの話……」


華江「あぁ、そうだったねぇ。まぁ、笠原くんが何でみどりちゃんに教えていないのかわかんないけどねぇ、そんな隠すような話じゃないのよ」


みどり「そうなんですか……」


華江「別に悪いことした母親だとか、そういうわけじゃないんだよ。隣村出身だからって、みんながみんな悪い人なわけじゃない」


みどり「隣村?」


華江「そう、隣の村」


みどり「じゃあ、華江さんはお母ちゃんの村を壊滅させて――」


華江「それは違うって言ってんでしょうに。いいから黙って聞いてな」


みどり「あ、はい」


華江「実はね、隣村に行く方法は、船に乗る以外にもあるの」


みどり「……?」


華江「昔、穂高家が管理してて、今はショッピングセンターが建ってる辺り、あるだろ?」


みどり「あ、昔、あたしたちの秘密基地の一つがあった……」


華江「そうそう。そんなこともあったねぇ……」


板前「華江さん。そんな遠い目をして過去の回想をしてると、老けそうな気がするよ」


華江「あぁ? 何だって?」


板前「すみません……」


みどり「それで、どうしたんです?」


華江「大トロちょうだい」


板前「あいよっ」


みどり「あの……教えてくれない気ですか?」


華江「そんなことないよ。ただ、せっかく寿司屋に来たんだから、寿司食べないとダメでしょう。おごってあげるからみどりちゃんも何か頼みな」


みどり「あ、はい……じゃあ、カッパ巻きを……」


板前「あいよ、カッパ巻き」


 コトン


みどり「あ、ありがとうございます」


華江「……まちな」


板前「な、何ですか、華江さん……」


華江「何であたしの方が先に頼んだのに、みどりちゃんへのカッパ巻きの方が早く出てくるんだい?」


板前「いや、ちょうどカッパ巻きを手に持ってたから……」


華江「若い娘だからって、贔屓(ひいき)してんだろ」


板前「決してそんなことは!」


華江「どうだか」


みどり「あの……それで、お母ちゃんの話は……」


華江「あぁ、そうだったね、どこまで話したっけ」


みどり「今はショッピングセンターが建ってる――」


華江「あぁ、そこね。そう、そのあたりに、トンネルがあるのよ。そのトンネルは、実は町の外まで開通しててね、隣町に続いてるんだけど、かなり昔から掘ってあったの」


みどり「え……そんなの、全然知らなかった」


華江「そりゃそうよ。村のトップシークレットだもの。一部の人しか知らないよ」


みどり「一部の人って……?」


華江「そうだねぇ……村長――じゃなかった、町長と、ショッピングセンターの一部の人と、隣町の人と、あたしくらいしか知らないんじゃないかねぇ」


みどり「町長ってことは……まつりちゃんが……」


華江「いや、あの子のおじいさんのことね」


みどり「あぁ、そっか。でも最近少し……」


華江「そうだね、ボケ気味だね。ふふっ」


板前「笑いながら言うことなの?」


華江「何だい、さっきからうるさいねぇ、大トロまだかい? 待ってんだけど」


板前「できてるけど、そんな態度で言われても出す気になれないねっ」


華江「なんだってぇ? それがお客様にいうことなのかい!」


板前「華江さんはお客さんじゃなくて華江さんなんですよ!」


華江「いいからトロをよこせ」


板前「じゃあ結婚してくばさっ――」


華江「…………」


みどり「…………」


板前「…………」


みどり「カミましたね」


板前「結婚――」


華江「大トロくれたら考えてやる」


板前「はいどうぞ」


 コトン


華江「それでみどりちゃん、話の続きだけどね、そのトンネルを使ってね」


板前「――ちょっとちょっと! 返事は!」


華江「何だいうるさいねぇ! こっちは今忙しいんだよ」


板前「そりゃないでしょ!」


華江「だいたいねぇ、大トロくらいで結婚してくださいなんて小さい男だよ!」


板前「くっ……」


みどり「こんなところでお寿司食べながらプロポーズされるの、あたしだったら微妙だな……」


板前「みどりちゃんまで……」


華江「はいはい、バカな男は放っておいて、続きいくよ」


みどり「はい、お願いします」


華江「これは、死んじまったウチのダンナが言ってたんだけどねぇ、ある日、秘密の存在であるはずのトンネルを使って隣村とウチの村を行ったり来たりしてた男を捕まえたんだってさ」


みどり「それが、お父ちゃん?」


華江「そう、そういうこと」


みどり「でも、何で隣の村に……?」


華江「好きな人が居たからだよ」


みどり「あ……」


華江「そうなんだよね。今は全然アレだけどね、当時はまだ隣の村とウチらは仲が非常に悪くてね、敵同然だったから、二人が付き合うことは許されなかったのよね」


みどり「そうなんですか……」


華江「ダンナが言うには、笠原くんと彼女を別れさせてしまったのは自分だって話で、随分後悔してたみたいだったよ」


みどり「あの、お母ちゃんは、どんな人でしたか?」


華江「可愛い子だったねぇ。隣村の子なのが勿体ないくらいに」


板前「そうだねぇ、あれは可愛かったなぁ」


華江「なんか、あんたが言うとむかつくねぇ」


板前「何でよ……」


華江「とにかく、みどりちゃんの両親は、このトンネルを使って互いに行き来して、愛を育んでいたらしいんだけどねぇ、女の子の方は笠原くんと別れて隣村に戻って、笠原くんはこっぴどく痛めつけられた上で独房入り。ルール違反だからね」


みどり「その時にはもう、あたしはお母ちゃんのお腹に……?」


華江「さぁ、その辺は、ちょいと謎だけどね、たぶんそうだったと思うよ。何しろみどりちゃんの出生時期がハッキリしてないからねぇ」


みどり「えぇっ!?」


華江「あぁっ、知らなかったのかい? 参ったな……余計なこと言っちゃったかも……」


みどり「どういうことですか?」


華江「いやまぁ、ほら、隣村で生まれてさ、資料とかそういうの全部失われてるから」


みどり「隣村で……。じゃあ、何であたしは幼い頃からずっとこっちの村に……?」


板前「簡単な話だよ。隣の村がつぶれて、その時に船に乗って来たのさ」


みどり「あぁ、華江さんがつぶした時に……」


華江「違うって言ってんでしょうに」


板前「でも。金属バット持って乗り込んだのは事実だよね」


みどり「な、殴りこみですか?」


華江「あんたぁ! それは言っちゃいけないでしょう! あたしの清楚なイメージが!」


板前「ハハッ清楚っ」


華江「山盛りのわさびを塗りこんでやろうか?」


板前「すみません」


華江「わかりゃいいのよ」


みどり「でも、それじゃあ……あたしのお母ちゃんはどこに居るんですか?」


華江「さぁねぇ。たまに手紙が来るから、どっかで元気にやってるんじゃないかねぇ」


みどり「なんか……嘘っぽい……」


華江「嘘なんか吐いてどうすんだい。あたしゃ過ぎるくらいに正直な人間だよ。嘘なんて――」


板前「ハハッ正直って」


華江「煮えたぎったアガリぶっかけられたい?」


板前「すみません華江さん」


華江「わかりゃいいのよ」


板前「お詫びに、お二人に中トロサービスします」


華江「お、いいねぇ」


みどり「あ、ありがとうございます」


華江「ま、とにかく、今は隣村出身だからって、別にこれといって気にするような町じゃないけど、昔は色々あったんだよ。そんでもって自慢だけどね、それをぶちこわしたのが、まだあたしと結婚する前の、死んじまったダンナなんだよね」


板前「華江さんが隣村自体を壊滅させて、ダンナさんが隣村の人たちを受け入れたんだよね。わざわざ穂高の敷地を売ったりして」


華江「そうそう。当時はあまりのバカさにね、呆れちまいそうになった――って、まちな。あたしが壊滅させたとか何言ってんの。ちがうっつの。勝手に壊滅して、むしろ大勢を助けたってだけの話だろう」


板前「まあ結果だけ見ればそうだけど、殴りこみかけたのは事実じゃん。そこは認めないと」


華江「まぁ、ねぇ……うん。でも、若かったし」


みどり「あの……ところで、あたしの両親の話は……」


華江「ああ、ごめんね。話が逸れちゃったね」


みどり「あたしの、お母ちゃんって、その、どんな人だったんですか? できれば詳しく……」


華江「詳しくて言われてもねぇ。あたしは、一度しか会った事ないから。笠原くん……っと、つまり、あんたのお父さんの話だとね、優しい子だったらしいね。虫も殺せないような」


みどり「それで?」


華江「うーん、見た目は、あんたにソックリだったって話だよ、目元とか、もう瓜二つで、ただ、あんたと違うのは、物静かで、料理上手で、あんましお喋りじゃなかったってことらしいけど」


みどり「料理上手……」


華江「ああ、何でも作れて、笠原くん、手料理が嬉しいってノロケてたよ」


みどり「お父ちゃん、そんなの、全然教えてくれなかった……」


華江「何でだろうねぇ。聞かないからじゃないか? あたしも、聞かれないことベラベラ喋ったりしないし」


みどり「でも、聞いても教えてくれなくて……」


華江「じゃあ、恥ずかしいんじゃないか。そんなロミオとジュリエット的な恋が。あたしにゃ、そんな感情理解できないけどね」


みどり「大人の人って、秘密がいっぱいなんですね」


華江「あははっ、そうだねぇ」


板前「秘密といえば、華江さんはね、昔、みどりちゃんのお父さんのことを棒切れもって追いかけ回したりしてたんだよ」


華江「こら、変なこと吹き込むなっつってんだろ」


みどり「え、初耳ですけど、華江さんは、お父ちゃんをいじめてたんですか?」


板前「いや、違うよ、みどりちゃん。コミュニケーションだ」


みどり「……なんか、まつりちゃんみたい」


華江「なっ! あんなのと一緒にすんじゃないよ。上井草んとこのあれは、必要なプライドも一緒に捨てちまってるだろ。いらないプライドまみれで。あたしは、あんなじゃなかった」


板前「穂高家のプライドでもって、他の生徒たちを虐げてたんだよね」


華江「何が言いたい」


板前「い、いえ、べつに……」


華江「みどりちゃん。今きいたことは忘れるように」


みどり「はぁ」


板前「あの、それで、華江さん。結婚の話は……」


華江「ちょっと待ってな」


板前「ちょっとって、いつまで待てばいいんだよ」


華江「そんくらい察しな」


板前「……わからん」


華江「それがわかんないうちは、あんたと一緒になれないねぇ」


板前「くそぉ、何なんだぁ! あれか、穂高家のプライドで、借金のかわりに結婚なんてのが嫌だから、うちの店のツケを払わない限り結婚してやらないみたいなそういうことなのかぁ? そんなの身勝手すぎるだろうがぁ」


華江「ちがうねぇ。みどりちゃんなら、わかる? なんでか」


みどり「いえ、全然。ていうか、どうでもいいっていうか……」


華江「あははっ、だよねぇ」


みどり「それで……お母ちゃんの話……」


華江「ん、ごめんね。本当は色々教えてやりたいんだけど、本当に、あんまり知らなくてね。これが宮島くんのとことか、上井草んとこのだったら、いくらでも出てくるんだけどね」


みどり「そうですか……」


華江「でもね、あんたが良い子なんだから、あんたのお母ちゃんも、お父ちゃんも、良い人に間違いないね。あたしが太鼓判を押してやるよ」


みどり「なんか、あんまし納得できないですけど、ありがとうございます」


華江「うん、がんばりなさい」


みどり「お母ちゃんが料理上手かったんだから、あたしだって出来るはず。頑張らなきゃ」


華江「まちな」


みどり「へ?」


華江「やっぱり頑張らなくていい」






【みどりの両親の話 おわり】




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