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本子と本美と本三郎

 それは、はるか昔。


 ソラブネが落ちて数年後のことだった。


 若い姉弟が亡くなった。


 三人きょうだいだった。


 名を、本美と本子と本三郎といった。


 彼女らは、集落の儀式の犠牲となったのだ。


 彼女らの母親は、村の長だった。


 何者かの手によって、ソラブネの封印が解け掛かっていた。


 全ての鍵が解き外され、あとは重い扉を開けるだけのような状態だった。


 そこで、不思議な力を持っていた女村長は、自分の娘たちを使って、儀式を行おうとした。再びソラブネを封印するためだった。


 危険なものを絶対に目覚めさせてはいけない。


 少女たちは、村のため、世界のために儀式に臨んだ。


 ソラブネを封印するには『始まりの人』の血を引く者が三人、意識を統一して封印を施さねばならなかった。


 しかし、その条件が満たされていなかった。


 次女である本子に、『始まりの人』の血が入っていなかったのである。


 だから、契約違反だったから、その儀式の途中に三人の魂は天に昇ろうとしていた。


 早い話が、死んでしまったのだ。


 彼女らの母親は不思議の力を持っており、咄嗟に三人の意識を捕まえた。


 ソラブネの封印および起動に必要な条件は、『選ばれし者』か、あるいは『始まりの人』の血を引く者三人だった。


 母親である村長こそが、その『選ばれし者』であったのだが、一度ソラブネを封印し、新たに鍵をかけた者のみが、再びその鍵を解くことができるというルールがあった。


 つまり、封印者が『選ばれし者』であると、『選ばれし者』が誰かに利用された際に、破滅的な悲劇が起きかねない。


 そんな状況を避けるために、母親は三人の子供たちの儀式を選択したのだ。


 つまり、鍵の方式を変えようとしたのだ。血統というものを使い、三人の承認が得られなければ説き外せない鍵をつけようとした。


 鍵穴を三つ同時に回さないと開かないようにしようとした。


 これは、万が一の備えとして機能するはずだったのだが、結果はといえば、失敗した。


 目指したのは、『選ばれし者』も残り、『始まりの人』の血を引く三人もこの世に残るはずだった。


 しかし、呪いともいうべき強い儀式の反動は、『始まりの人』の血を引く三人の命を奪おうとした。


 前に言ったとおり、三人のうちの一人が悲劇をもたらしたのである。


 三人のきょうだいを選んだはずなのに、血が繋がっていなかった者が一人いたということ。


 消されようとした刹那に何とか三人の意識を掌に掴んだ母親は、彼女らの意識を本に詰め込んだ。


 そのうえで、『選ばれし者』の力で封印を施した。


 状況が差し迫っていて、兵器として利用されかねなかったため、ソラブネを固く固く封印する必要があったのである。


 こうして、二重ロックが完成した。


 『選ばれし者』()『始まりの人』が必要だった以前のシステムから、『選ばれし者』()『三冊の本の力』が揃った時に起動が可能になる仕組みに変化したのだ。


 こうして儀式の後には、ふわふわ浮いた本子と、三冊の分厚い本だけが残った。


 三人の儀式参加者と一人の立会人は、跡形もなく消えた。


 辞書や百科事典のような立派で、大きな本。


 燃やしても燃えず、濡らしても濡れない不思議の本。


 三種類の、不思議な力を添えられていた。


 一つは、いわゆる超能力的な力を与えるもの。

 一つは、ヒトが知るはずの無い膨大な量の知識を与えるもの。

 最後の一つは、ソラブネの存在と使用方法を子孫に与えるもの。


 超能力に本美が宿り、知識に本三郎が宿り、そして最後の一冊に、本子の魂が宿った。


 いざ必要となった時に、この三冊の本を、村の重要な三つの家系に渡して、ソラブネの封印を解くことができるようにした。


 ちなみに、裏技も用意されていて、この三冊の魂が揃っていて、特定の場所で『始まりの人』の血を引いている誰かが精神を集中して儀式を行えば、『選ばれし者』がいなくとも、みんなの意識を統一しなくてもソラブネの封印が解けるのであるが、それを知る者は本に宿った超善玉の幽霊くらいしか知らない話。


 もっとも、そうした幽霊の記憶も悠久の時間(とき)をかけて忘れられていたのだが。


 やがて永い永い時が経ち、長く生きた母親も亡くなり、それを知るものは誰も居なくなり、本美と本三郎の意識は消え去ったが、記憶を伝え続けるという役割を持った本子だけがそこに残った。


「本子ー、達者でねー」


「元気でなー」


「おねーさん……本三郎……」


 母に連れられて天に昇っていく二人。


 本子は、心底「一緒に行きたい」と思った。


 その後、長い年月が経ち、幼い少女が本を開くまで、本子は大きな屋敷で眠っていた。


 古代の英知を抱えたまま。


 本を開いた幼い少女。それは、穂高家の娘だった。





【本子、本美、本三郎 おわり】




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