幕間_14_まつり×フミーン
まつり「おい、フミーン。最近どうだ」
史紘「あ、治りました」
まつり「治った? 何が?」
史紘「病気ですよ」
まつり「あぁ、お前本当に病気だったの?」
史紘「えぇ……?」
まつり「てっきり嘘吐いてんのかと思ってた」
史紘「そんなわけないでしょう、僕はあまり嘘は吐かないわけですよ」
まつり「何の病気だったの?」
史紘「死に至る病でした」
まつり「そっ――」
史紘「…………」
まつり「…………」
史紘「…………」
まつり「もう、死なないのか?」
史紘「死にますよ」
まつり「えっ」
史紘「たぶん六十年後くらいに寿命で」
まつり「てめぇ、ふざけたこと言いやがって、ぶっ殺すぞ」
史紘「す、すみません……そんな怒らないで下さいよ」
まつり「まぁでも、その得体の知れない病が治ってよかったよ」
史紘「心置きなく僕をパシリにできるからですか?」
まつり「さすが、わかってんじゃないの」
史紘「僕は、風紀委員補佐なわけですよ。もう長いことまつり様のことを補佐しているわけですから、まつり様の考えてることなんてお見通しなわけですよ」
まつり「じゃあ、今からあたしが考えることを当ててみな」
史紘「やきにくのたれ」
まつり「何言ってんだお前」
史紘「違いましたか」
まつり「全然違うぞバカヤロウ」
史紘「じゃあ、『のどかわいた』とかでしょうか」
まつり「ハズレよ。おなかすいたのよ」
史紘「おしい」
まつり「惜しくない。いいから行ってこい」
史紘「何を買ってきましょうか」
まつり「急にたこ焼きが食べたくなった」
史紘「あぁ、それなら、僕の病室にたこ焼きセットがありますよ。たこ焼きパーティでもやりましょうか」
まつり「ん? 病室? お前、治ったんじゃないの?」
史紘「治りましたけど、住む場所が無いから置いてもらってます」
まつり「そうか……」
史紘「僕も、できれば退院したいんですけど、寮に入ろうにも一度退寮処分になってしまっていて……」
まつり「ほう、病院以外に住むところが無いというわけか」
史紘「はい、その通りです。さすがまつり様」
まつり「ふっ、まぁな。住むところ欲しいんだったら……」
史紘「やですよ」
まつり「まだ何も言ってねえだろ」
史紘「どうせ独房に入れとか言うんじゃないかって、僕は思ったわけですよ」
まつり「そんなこと言うわけないでしょ、この心優しいあたしが」
史紘「そうですね、言われてみれば確かに」
まつり「独房じゃなくて牢屋の方に入れてあげようかって」
史紘「僕、何か悪いことしました?」
まつり「病気になったから牢屋行きだ」
史紘「何でそうなるんだか、さっぱりなんですけど」
まつり「日々の行いが悪いから病気になるんだぞ!」
史紘「そうですね、まつり様も――」
まつり「何だよ」
史紘「いや、何でもないです」
まつり「おいぃ、言いかけてやめるなよ、気分悪いだろ」
史紘「ところで、たこ焼きでしたっけ、用意するのは」
まつり「いや待て。気が変わった。やきそばを食べたい」
史紘「ソースやきそばで良いですか?」
まつり「カップやきそばは嫌だぞ」
史紘「細麺と太麺、どっちがいいですか?」
まつり「太い方が好きだ」
史紘「……太いやきそば売ってるところなんて、ありましたっけ?」
まつり「無いなぁ。食べたのずいぶん昔で、もう太いやきそば、この町じゃ売ってないらしいんだよ」
史紘「じゃあ、細いので良いですね」
まつり「まて、太いの無いならやだ。気が変わった」
史紘「今度は何ですか」
まつり「そうだな……お好み焼きが食べたい」
史紘「大阪風ですか? 広島風ですか?」
まつり「広島の気分だな」
史紘「ふむ、やきそばとか入ってるやつですか」
まつり「もちろん、太い麺じゃないとやだ」
史紘「じゃあ無理じゃないですか」
まつり「うーむ……」
史紘「他に何か無いんですか?」
まつり「ビシソワーズ」
史紘「ますます無理です。そんなの作れる人知りませんよ」
まつり「トマトをフミーンにぶつけたくなった」
史紘「何ですか突然」
まつり「とにかく、何かおいしいやつ買って来い」
史紘「そんなアバウトな……」
まつり「元気が出そうなやつ!」
史紘「点滴とかですか」
まつり「病人の発想は卒業しろ」
史紘「あ、すみません」
まつり「チョコレート食べたい」
史紘「あ、持ってますよ。チョコ。チョコ大好きなまつり様のためにいつもポケットに入れてます。国産だから安心ですよ。はい、どうぞ」
まつり「ヨーロッパ産の高いやつ……」
史紘「無茶ですよ」
まつり「じゃあそれでいいや、くれ」
史紘「どうぞ」
まつり「サンキュ」
史紘「…………」
まつり「…………」
史紘「…………」
まつり「なぁ、フミーン」
史紘「何ですか?」
まつり「病院以外でさ、その……す、住むところ無いなら、ウ、ウチに来るか?」
史紘「何でですか?」
まつり「ぶっとばしていい?」
史紘「なっ――わ、わけわかんないんですけど……ていうか顔こわすぎですよ」
まつり「あぁ、えっと、あれだなぁ」
史紘「何です?」
まつり「あたしが男子寮の寮長にでも命令すれば、またフミーンは寮に戻れると思うんだよ。あたしが命令すれば。あたしが命令すれば、ね」
史紘「なんで同じようなこと三回言ったんですか。命令が何とかって……」
まつり「なんか、だって、病気治っちゃったら、フミーンがあたしから離れていきそうで……」
史紘「まつり様? 熱でもあるんですか?」
まつり「一生退院できない体にしてやろうか?」
史紘「ひぃ、やめてください」
まつり「フミーンは、この町、出て行かないよな?」
史紘「そうですねぇ……」
まつり「やめろよ、遠い目して空とか見るの」
史紘「まつり様は、外の世界には興味ないですか?」
まつり「…………」
史紘「あるみたいですね」
まつり「ぶん殴るよ?」
史紘「やめてください」
まつり「あたしは、この町に必要な存在なんだよ」
史紘「もし、僕が町を出て行くことになったら……」
まつり「ならねぇよ。牢屋とか独房とか特別室とかに入れるよ」
史紘「えぇっ?」
まつり「今決めた。どうやらお前、出て行く気満々みたいだからな、そんな気がなくなるまで軟禁する」
史紘「そ、そりゃないですよ」
まつり「お前が出て行こうとするから悪いんだぞ。いくらあたしがパシリにしようとしてるからって、逃げるなんて許されることじゃないんだよ」
史紘「メチャクチャですね、相変わらず」
まつり「おい、今、心の中で笑っただろ」
史紘「い、いえ、そんなことないですよ」
まつり「本当か?」
史紘「ないわけですよ」
まつり「絶対出て行くなよ? あたしの近くに居ろよ? お前はあたしが守ってやらなけりゃ危ないんだからな」
史紘「僕が一人でいて危ないのは、この町だけだと思いますけど」
まつり「口答えするな!」
史紘「僕は、この町が好きですよ」
まつり「あたしのことは?」
史紘「一緒に、外の世界に行きませんか?」
まつり「えっ……」
史紘「そういうことです」
まつり「どゆこと?」
史紘「さぁ……」
まつり「はっきりしない野郎だな」
史紘「退院したら、はっきり言います」
まつり「さっさと退院しろ」
史紘「はい、まつり様」
【まつり×フミーン おわり】