風間史紘の章_6-4
303号室。
フミーンの病室の前に立った。
アルファは、俺とRUNを順に深く青い瞳で見上げ、
「お二人は、扉の外で待ってて。診察してきます」
真剣な表情で、アルファは言った。
「え? おう……」
「うん」
二人、返事する。
アルファは、引き戸を開けて、中に入っていった。
しばらくして、アルファが出てきた。
「どうだった?」
訊くと、
「手術すれば治ります」
いきなりそんなことを言った。
「……本当に?」とRUN。
「この病院の設備なら何とかなると思うので、院長先生に掛け合ってみます」
「あの……アルファって……何者なんだ?」
「さぁ……何者なんでしょう……」とアルファは笑った。
★
で、俺たちは、アルファと一緒に院長室に突撃した。
「な、何だね、きみたちは」
顔をしかめた院長に向かい、アルファはこう言った。
「風間くんのことで話があります」
「風間……? あぁ……風間史紘くんのことか」
「本来ならすぐにでも手術をしなければならない状態とお見受けしますが……」
「誰だい、きみは」
当然の疑問。
その時、アルファは長袖の袖をめくって見せた。
黒いリストバンドをしていた。
リストバンドには『ICBM』という文字の金の刺繍がしてある。
それを目にした院長は驚愕した。
「そ、それは……『国境を越えて選ばれし闇医師団』のリストバンド!」
何だそれは。
「通称……『ICBM!』」
どっかで聞いたことある略称だな。
ミサイルか何かのことだったと記憶してるが。
「世界最高の非合法闇医者組織の団員が何故ここに!?」
「偶然通りかかりました」
院長は、そのリストバンドを見た途端に態度を変え、子供相手にペコペコして、
「そ、それで……風間史紘がどうかしましたか!」
「彼の手術がしたいです」
「し、しかし……本人にその意思が無いらしいんですよ……なんでも、実家が借金を抱えているそうで……それに、手術による生存確率が10パーセントに満たないのも……」
アルファはフフンと鼻で笑った。
「10パーセント? どんな古くさい方法で手術をすればそんなパーセンテージが出るんですか? 我々の技術を使えば生存確率は96パーセント以上です」
それでも、4パーセントは死ぬらしい。
あ、いや、ここはネガティヴな思考にとらわれてはいけない。
100人が手術を受けて96人が助かるのなら、それは受けるべきだと思う。
まぁ俺は、その病気の患者ではないから軽く言えるのだろうが……。
きっと、手術を受けることを決断するのは、とても大きな勇気が必要なんじゃないかと思う。自分の体を他人に切られたりするわけだからな。
だが……こうなった以上は、フミーンはもう、手術を受けるべきだ。
お金が無いから手術を受けないなんて、悲しい。
助かる命が、助からないなんて、悲しい。
手術を受けて欲しい……。
「なぁアルファ。手術すれば、絶対に治るのか?」
「絶対は無いよ。でも、治すよ」
「その……しゅうつはいくらくらいするん?」
「キャンディもらったお礼だから、お金はいらないです」
「何ぃ?」
「かかる経費は、全てあたしが出しますので、院長先生。手術室を貸して下さい」
「え……あぁ……まぁ……構いませんが」
「ありがとうございます」
許可が下りた。