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風間史紘の章_6-3

 帰り道。


 湖に着いたあたりで、不意にRUNが背後を振り返った。


「どうした? RUN」


「あの子……ついてきちゃった」


「えぇ?」


 俺も振り返ってみると、


「…………」


 銀髪ツインテールのブルーアイズ少女が物欲しそうな表情で立っていた。


「どうしたの?」


 少女はゆったりした長袖の服を着ていた。人差し指で自らの唇をいじくっていて、その時に、黒いリストバンドがチラリと覗いた。そして呟く。


「キャンディ……」


「アメちゃんもう一本か。ええよ」


 RUNは、再びどこからかキャンディを取り出して与えた。


「わーい」


 受け取った。


 なんか、ニコニコして甘やかしていた。


「お前、子供好きなのか」


「子供嫌いな人なんておらんやろ」


「どうだろうな……」


「達矢くんは嫌いなん?」


「いや、好きだぞ」


 するとアルファは、


「あたし、子供じゃないよぅ」


 うそつけ。


 どう見ても子供じゃねぇか。


 俺が「子供が一人で出歩くと危ないぞ。この町は不良が多いからな」と忠告し、RUNは「お父さんとお母さんは?」と質問する。


「……死んじゃった……」


 俺たちは言葉を失った。


「宇宙移住計画のロケット事故で……」


 そんな……。


 何で、そんな、悲劇が安売りされてるんだ。この世界は。


 フミーンも、アルファも……。


 風に吹かれ髪を揺らした少女は続けて、


「だから、あたし、誰かのこと助けたくて、病院に行ってみたの」


「…………」


 俺とRUNは顔を見合わせた。


「あたし、大学で医学専攻してたし、免許もあるから」


「大学ぅ? お前みたいな小さな子がぁ?」


「アルファちゃんは、天才少女なんやな」


「うん、よく言われる」


 RUNはニコニコ笑いつつ、


「あははー、そうかぁ。ええ子やなぁ」


 言ってアルファの頭を撫でた後、小声で俺の耳元で、


「なんや、変な子やな……」


 まったく同意する。


 そして、その変な子は言うのだ。


「日本では、うれしいことしてくれたら、何百倍にもしてお礼する文化があるって聞いたの」


 いや、それは大袈裟すぎだろ。


 誰だ、そんなふざけたこと言ったの。


 相応のお返しじゃなければむしろ警戒しちまう気がするぞ。


「だから、おにーたんとかおねーたんとか、何か体調に不安とかない? 診てあげるよ」


「ウチは至って健康やけど」


「俺もだ」


「……それじゃ、困ったなぁ……。数学とか科学とか教えるくらいしかできないな」


 いやいや、待て待て!


 勉強を教えてもらうなんて、眠くなる展開は避けたい!


 俺にとって、勉強――特に理系――なんてのは苦痛でしかないのだ!


 と、その時、


「ピンときたわ」とRUNが人差し指を立てた


「どうした?」


「フミくんを、この子に治してもらうんや」


「はぁ?」


「だから、ウチらは健康やろ。でも、フミくんの体はもうボロボロみたいやないか」


「あぁ……そう……らしいが……」


 フミーンの声が、脳内再生された。


『それに……そんな大事な人を作れる体じゃないでしょ。ここは、僕の死に場所なんですよ……』


 思い出すだけで悔しくなるような、


『お墓は、この町が見渡せる高台に……なんて……言えないな……』


 寂しそうな声。


「フミーン……本当に死ぬのかな……」


「死ぬわけないやろ」


「死にそうな友達がいるの? だったら、あたしが治すよ」


 どうすれば良いんだろうか。


 子供の妄言に振り回されそうになっていやしないか。


 でも、この子の深いブルーの瞳からは嘘の気配も冗談の気配もしない。自然体で、本当に治せると思ってる顔で、自信に満ち溢れていた。


 しばらく考えて、俺は頷いた。


「……よし、治してもらおう。ダメで元々じゃないか。あの口ぶりだと、フミーンはもう諦めてしまっている。だったら、少しでも可能性のある行為をするのが、俺たちの役目だと思わないか?」


 RUNは俯いている。


「フミーンだって生きたいんだろ。でも、それができないって確信があるから諦めてるんだ」


「そうなんやろか……」


「偶然とはいえ、フミーンの命が風前の灯火であることを聞いてしまった以上、何とかする責任が生まれたと俺は思う。何らかの形で、まだ若いフミーンの命を救うべきだと、俺は思うんだよ。それが得体の知れない医者に任せるということになるってことでも」


 RUNは黙っている。


「十分生きた、なんて思えるはずがない。フミーンにだって、もっと壮大な人生の目標を持つ権利があるはずだ。死なせてたまるか。死なせて、たまるかよ」


 そう言った時の俺はもう、大いなる何かにすがるような心境だった気がする。


「達矢くん……」


「俺は、簡単に友達を死なせてやるほど、優しくはないんだよ」


 沈黙が広がって、風と、林の葉がこすれ合う音と、風車が回転する音が響いていた。


 沈黙を破ったのは、RUNだった。


「じゃあ……」


「うん?」


 RUNは顔を上げ、真剣で深刻な表情で、


「ウチ、フミくんの病気が治ったら、歌聴かせたる」


「そ、そうか……そりゃ良いな……なんか、素敵だ」


 RUNは、今度は決意に満ちた表情で、


「それじゃ、アルファちゃん。任せてええかな」


「お任せ下さい」


「何か、この子なら本当に治しそうな気がしてきた」


「そうだな……」


 根拠は無いが、このアルファという子なら本当に治しそうな気がする……。


 そう思って、アルファを見ると、キャンディをペロペロしていた。


 何だか不安になったのだが、とにかく病院に戻ることにしよう。


「とにかく、病院に戻るか」


 病院に向かって、三人、歩き出した。




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