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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
フェスタ_紅野明日香(野球ルート)
434/579

フェスタ_明日香-4

 各自、ユニホームに身を包み、今にも試合が始まろうとしていた。


アルファ「校庭は校舎に風が遮られて無風。しかし上空は強風が吹いています。屋上に立てられた旗は、今日も強くはためいております」


 実況は、この人。


アルファ「こんにちは、実況はファルファーレです。皆様よろしくお願いします。そして今日の解説は、穂高緒里絵さんと」


おりえ「よろしくにゃん」


アルファ「宮島利奈さんでお送り致します」


利奈「よろしくおねがいしまっす!」


アルファ「それでは早速、各チームのオーダーを確認してみましょう。


まずは一塁側、『まつり&不良軍』からです」


一番、セカンド、不良Dくん。

二番、ファースト、不良Cくん。

三番、レフト、不良Bくん。

四番、ピッチャー、上井草まつり。

五番、キャッチャー、不良Aくん。

六番、ライト、不良Gくん。

七番、サード、不良Hくん。

八番、ショート、不良Eくん。

九番、センター、不良Fくん」


 不良ばっかだな。


アルファ「この布陣はどうなんでしょうか、解説のお二方にお話を聞いてみたいと思います」


おりえ「うむにゅん……まつり姐さん以外どうでもいいにゃん」


利奈「はい、えー四番のまつりを中心に、パワーのある打線は強力。決してレベルは低くないです。練習を見た感じでは、野球経験者が多そうでした」


アルファ「はい、ありがとうございます。経験者揃い、ということですね。続いては、三塁側の『紅野明日香軍』の方を見てみましょう。


一番、センター、伊勢崎志夏さん。

二番、セカンド、紅野明日香さん。

三番、ピッチャー、浜中紗夜子たん。

四番、サード、柳瀬那美音たま。

五番、ファースト、戸部達矢くん。

六番、ショート、大場蘭さん。

七番、キャッチャー、男子生徒Dくん。

八番、ライト、笠原みどりさん。

九番、レフト、本子たん」


 そんなオーダー。


アルファ「こちらはどうでしょうか」


おりえ「Dきゅんっ☆」


利奈「風間くんが激しい運動をできない体だったということで、急遽幽霊の本子さんが参加してますね」


おりえ「あ、ほんとだ」


利奈「でも本子ちゃん、ボールには触れないけど、どうするんだろう」


アルファ「なるほど。しかし、本子さんには、念動力とよばれる超能力があります。それで何とかするんじゃないですか」


利奈「何とかなるのかなぁ……」


アルファ「それに、レフトが居ないなら、ピッチャーの浜中紗夜子たんがレフトに打たせないピッチングをすれば大丈夫でしょう」


おりえ「はぁはぁ、Dきゅんっ……」


利奈「大丈夫? カオリ」


おりえ「どうしようマリナ! Dくんのユニホーム姿が眩しいよぅ」


利奈「そ、そう……」


アルファ「……さて、両チームのメンバーを紹介したところで、試合が始まろうとしています。いまいち何が目的なのか不透明な試合ではありますが、とにかく今、試合が始まろうとしています! バッターボックスに向かったのは、神を自称する生徒会長にして級長。伊勢崎志夏」


審判(若山)「プレイボール」


 審判の若山さんが、プレイボールを告げた。


アルファ「さぁ、紅野明日香軍の先攻で今、ゲームが始まりました。主審は若山さん。一塁塁審は名も無きそこらへんの男子生徒、三塁塁審は風間史紘くんです」


 まつりが振りかぶる。


アルファ「ピッチャーの上井草まつり、振りかぶって、投げました」


 ズビャァアン!


アルファ「ど真ん中に剛速球! これは速い。まずは、不良のまつりがストライクを取りました」


まつり「こらぁ! 誰が不良だぁ!」


アルファ「おっと、こちらの実況がきこえてしまったようです」


利奈「いけませんねぇ、集中力を欠いています」


まつり「利奈。あとでモイスト」


利奈「…………ごめん」


 利奈っちは謝った。


 しかし、謝ったところで、まつりのモイストを回避することはできないだろう。


アルファ「さて、再び振りかぶった上井草まつり。大きく体を捻って、独特のフォームから剛球を繰り出します」


利奈「まつりのトルネード投法、久々に見たなぁ」


 ドッビャーーン!


アルファ「これもストライク。あぁ、これはキャッチャーの不良Aくんも手が痛そうです」


おりえ「あの程度なら大丈夫だと思うにゃん。不良さんたちは不死身だから」


アルファ「そして、三球目を、投げました」


 バスーーーーン!


アルファ「ストライク、アウトォ! まずは上井草まつりが、先頭バッターを三球三振に切って取りました」


利奈「一度もバットを振らなかったのが、逆に不気味ね」


アルファ「さぁ、ワンナウトとなって次のバッターは、ソフトボール経験のある紅野明日香! ピッチャー振りかぶって第一球を……投げたっ! おっとバントした! ボテボテの打球は一塁側に転がる。一塁手がこれを捕って一塁……を見たがベースカバーが居ないー! 投げられません。今、紅野明日香が一塁ベースを駆け抜けて内野安打でランナー一塁!」


まつり「何してんのよ! エラーすんな!」


利奈「今のは、まつりのミスっしょ。一塁線に内野ゴロが転がったら、ピッチャーはベースカバーに行かないといけないのに、それを怠ったから」


まつり「ちがうわよ!」


アルファ「また解説に反応してますよ」


利奈「集中力ないから」


まつり「うきー!」


 地団駄踏んでた。


 さすがの短気さだな……。


アルファ「さぁ、続くバッターは、浜中紗夜子たん」


利奈「マナカは打ちますよー」


アルファ「おや、左打席に入りましたね」


おりえ「左利きだもん」


アルファ「さて、上井草まつり。足を大きく上げて、体を捻り、投げました。しかし外に大きく外れてボール」


紗夜子「…………」


アルファ「紗夜子たん。集中しています」


まつり「……ぁう……」


アルファ「少し迫力に押されているか、上井草まつり。そしてピッチャー、二球目を、ゆったりとしたフォームで投げました」


 その時、明日香が動いた。


アルファ「おっとランナー走っている! 盗塁だぁ! 投球は外に外れてボール! ランナーの紅野明日香は既に二塁に到達しています。いやぁ、紅野明日香は足が速いんでしょうか」


おりえ「むしろ普通より遅いにゃん」


利奈「だけど、まつりの投球フォームが大きすぎて盗塁し放題っしょ」


アルファ「盗塁し放題……というのは、どういうことでしょうか」


利奈「盗塁を阻止するためには、ピッチャーはクイックモーションで素早くバッターに投げなくちゃいけない。それで初めて一塁ランナーとキャッチャーの勝負になるんだけど……今のまつりのフォームだと、キャッチャーが二塁に送球する前に、もう盗塁成功が物理的に決まってしまうんです」


おりえ「つまり、トルネード投法を程々にしないと、まつり姐さんは走られ放題ってことだにゃん」


アルファ「なるほど。さぁ、ツーボールノーストライクから、まつりは三球目を、投げた。これも外に外れる」


利奈「逃げてますね」


アルファ「おや、逃げる場面なんですか?」


利奈「全然逃げる場面じゃないっしょ。逃げたら恥ずいっしょ」


まつり「…………」


アルファ「四球目、これはワンバウンド、ボール。フォアボール。ストレートのフォアボールを与えてしまいました」


利奈「これはひどいですねぇ……」


アルファ「ランナーは一塁二塁となって、続くバッターは、柳瀬那美音」


利奈「那美音……って、まさか……あの那美音さん?」


おりえ「サングラスしてるからわからないにゃん」


アルファ「お二人は、おねーたまの知り合いなんですか?」


利奈「たぶん……知り合いだと思う」


おりえ「那美音さんがサナだったら幼馴染だにゃん」


アルファ「では、那美音おねーたまの恥ずかしい過去の話とかも、知ってるわけですか」


 その時、まつりが、那美音に対して初球を投げた。


 打った、打球は放送席へ一直線!


アルファ「ひぃ」


 ボールはアルファの顔の横を掠めていった……。


那美音「余計なこと知ろうとするのはやめようね、アルファちゃん」


まつり「じゃ……ジャストミートされた……あたしの直球が、簡単に……」


アルファ「す、すみません、那美音おねーたま」


那美音「わかればいいのよ。実況、頑張って」


アルファ「はい! さぁさぁ、ワンストライクからまた直球が来る。柳瀬那美音はそれを簡単に打ち返したぁ! センター前ヒット!」


アルファ「二塁ランナーは三塁でストップ! 満塁です! ワンナウト満塁!」


アルファ「初回にいきなり満塁のチャンスが訪れました!」


達矢「ま……満塁かぁ」


 俺は呟き、バッターボックスに向かう……。


志夏「たっちゃん! ファイト!」


 後ろから志夏の声。


紅野「打たないと許さないよ!」


 三塁塁上から明日香の声。


紗夜子「たっちー! わひゃほー!」


 二塁塁上で手を振る紗夜子。


 何が言いたいのかわからんが、テンション高いな、今日のあいつは。野球、好きなんだろうか。


アルファ「さぁ、満塁のチャンス、生かせるか、無断遅刻と無断欠席の常習犯、戸部達矢!」


達矢「そういう紹介の仕方ってあるかぁ!?」


アルファ「野球経験は友達とキャッチボールした程度くらいしかない戸部達矢!」


まつり「うおりゃぁあああ!」


アルファ「掛け声と共に、今日一番の剛速球!」


 ズビャアアアアン!


審判(若山)「ストライーーック!」


アルファ「ストライクです」


 な、何だ、この球は……。


 速すぎて、こわすぎて、手が出せないんですけど。


アルファ「ど真ん中を見逃してストライクです」


 ズビャァアアン!


アルファ「二球目もストライク!」


 ボビャアアアアン!


アルファ「見送って三球三振ッ!」


みんな「「「「「…………」」」」」


 嗚呼、みんなの冷たい視線が突き刺さるようだぜ……。


 だが、あんな剛速球、打てる方がおかしいぞ。


 見逃し三振するのが普通なんだ。


 それをバットに当てるわ、ヒットにするわ。


 おかしいのは明日香や那美音なんだ。


 どうかそれをご理解いただきたい。


利奈「満塁で見逃し三振はないっしょ」


おりえ「たつにゃん! 見損なったにょ!」


達矢「打てないものは打てない! 無理なものは無理!」


アルファ「しかし、まだ満塁のチャンスは続きます! 次のバッターは大場蘭!」


まつり「いかにRUNちゃんといえど、手加減はしないわ!」


 しかし、その時、味方から声が響く。


不良A「おい! 手加減してやれよ! RUNちゃんだぞ!」


まつり「あぁ?」


不良B「そうだそうだぁ!」

不良C「RUNちゃんをいじめるやつは、許さない!」

不良D「わかったな、まつり!」


まつり「てめぇ! 誰に指図してんだコラァ!」


アルファ「チーム内でモメてますね」


利奈「いつものことです」


おりえ「Dくんまで回らないかなぁ」


利奈「カオリ、それじゃまつりが一点とられちゃうよ」


おりえ「はっ、それはダメ。まつり姐さんから打点を挙げていいのはDくんだけだもん」


利奈「へぇ、そう……」


アルファ「さぁ、上井草まつり。イライラしながらも第一球を、投げた! 剛速球っ! 空振りっ!」


RUN「うあぁ、速いわぁ」


アルファ「速い球できましたねぇ」


利奈「相手がRUNちゃんでも、手を抜かない。野球に対する姿勢の方をまつりは大事にしました」


おりえ「まつり姐さん、カッコイイにゃん」


アルファ「しかし……あの速い球に対して、バットを振っていきましたね」


利奈「はい。三球見逃して三振した人とは大違いです」


 俺のことだな。


 言ってくれるぜ……。


 事実だけども。


アルファ「二球目を投げたっ。際どいコースだが見逃してボール」


まつり「えぇ、ストライクだろ、今の! さては審判てめぇ、バッターがRUNちゃんだからって、ひいきしてんだろ!」


若山(審判)「そ、そんなことは無いぞ。断じて」


アルファ「審判にケンカ売ってますね」


利奈「バカなんですよ。まつりは」


まつり「利奈。後で、色々する」


利奈「うそ、やだ、やめて、ごめん」


 しかし、謝っても意味が無いだろう。


 利奈っちは後で色々されてしまうだろう。


アルファ「色々って何ですか?」


利奈「……考えたくもないっしょ……」


おりえ「えっちなこと?」


利奈「違うわよ。何言ってんの……」


アルファ「さて、ワンストライクワンボールとなった三球目!」


RUN「えいっ」


アルファ「打っていってファールボール」


RUN「やたっ。当たったっ」


 あの剛速球に当てるのか……。


 さすがの運動神経だな。


アルファ「追い込んで、まつり、四球目を投げたぁ、三振ー。高めの球を振らせました。これでスリーアウトチェンジ! 初回満塁のチャンスでしたが後が続かず無得点に終わりました」


 一回表が終了した。


 えっと……これ、何回までやるつもりなんだ……?




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