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風車は力強く回転を繰り返し規格外の強風は坂を駆け抜けてゆく  作者: 黒十二色
フェスタ_紅野明日香(野球ルート)
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フェスタ_明日香-2

 で、中庭を歩いていると……。


不良ども「「「うおりゃぁあああ!」」」


まつり「…………」


不良ども「「「ぐあああああ!」」」


 不良どもが吹っ飛んでいる光景があった。見覚えのある不良から、あまり見ない顔の不良まで大勢。


 なにこれ。


 ドラマとか映画とかの撮影でもしてんのか?


 まぁ文化祭だしな……そういうのもあるのかもしれんが。


 いやしかし、だいぶ本気で圧倒的な暴力だった気がするぞ……。


男子生徒D「くっ……よくも……。オレは戦意は無かったが、やられたらやり返したいと思うのは人として当然の感情! バナナを食ってスタミナをつけなければ!」


 そして、男子生徒は、どこからかバナナを取り出し、それを半分くらいまで食べた後、投げ捨てた。


紅野「…………」


達矢「…………」


 そして、男子生徒が投げたバナナは、歩く俺たちの前に落ち……。


 紅野明日香の足がそのバナナの上に乗った。


 ぐにゅっ、つるっ。「わきゃっ!」ごちっ。


 明日香はコンクリ地面におでこをぶつけた。


達矢「うぉ……おい……大丈夫か?」


紅野「…………」


 黙って起き上がった明日香のその瞳は、怒りに支配されていた。


 紅野明日香の瞳が燃えていた。


 しかし、これは転んだから怒っているわけではない。


 何故かそう感じるのだ。


 明日香が、そういう空気を発しているとも言える。


 そう、この紅野明日香は……食べかけたバナナを投げ捨てるという行為に対して怒っているのだ!


紅野「バナナって、何だと思う、達矢」


達矢「栄養満点の果物(ふるうつ)だろ」


紅野「そうね。それもあるわ」


達矢「他に何があるってんだ……?」


紅野「食べられる前のバナナ、その中身は刀。バナナの皮は(さや)なのよ。鞘に入っていてこそ、刀は刀として尊敬されるべき姿でそこにあるものなのよ」


達矢「バナナひとつで、すげぇ意味不明なこと語るのな、お前」


紅野「何、達矢。あんたもバナナをバカにしてんの?」


達矢「いや、そうじゃないが」


紅野「バナナちゃん……ごめんね。踏んでしまって。もう食べれないね……」


 バナナに話しかけた明日香。


バナナ「…………」


 しかしバナナは返事をしなかった。


 当然である。


 で、そんなことしてた時、向こうでは、


男子生徒D「ふうっ、バナナでHPが回復したっす」


まつり「ふっ、どうしても血祭りにされたいみたいね」


男子生徒D「うぉおおおおおお!」


まつり「きなさい!」


 男子生徒と上井草まつりとの戦闘が開始されようとしていた。


 二人が拳を交えようとした、まさにその時――


紅野「やめなさいよ!!」


 隣に居た紅野明日香が言った。腹の底から搾り出したような大声だった。耳がキーンってなった。


まつり「え?」

男子生徒D「はい?」


 立ち止まって振り返った二人。


紅野「あんたら、不良でしょ!」


まつり「ふ、不良じゃねえよ。風紀委員だよ!」


男子生徒D「お、オレだって一般的な男子生徒っす! そ、そりゃ昔は不良だったっすけど!」


紅野「ええい、口答えはいい! ケンカなんかしてんじゃないわよ、みっともない!」


まつり「あたしは別に……」


男子生徒D「いや、でも……」


紅野「ケンカするなら、野球でしなさいよ! 不良らしく」


達矢「野球でケンカってのは、不良らしいのか?」


 すかさずツッコミを入れてみる。


紅野「私の中ではね! あ、ケンカっていっても、乱闘とかじゃないわよ。シロクロつけたいなら野球やんなさいって意味!」


まつり「野球……ね。いいわ。あたし、野球なら負けないわよ」


男子生徒D「オレだって、野球で女に負けるわけにはいかないっす!」


まつり「なにぃ? 男女差別かこの野郎!」


男子生徒D「野球は男のスポーツ! それが現実なんすよ!」


まつり「はっ! 三打席連続満塁ホームランとか打って泣かしてやるわ! それで悔しがってベンチでも殴ってればいいのよ!」


男子生徒D「そんなこと言っていられるのも今のうちっすよ。これでもオレはシニアリーグ時代には『火の玉Dくん』と呼ばれていたんすから」


まつり「え、お前、ピッチャーだったの?」


男子生徒D「いえ、キャッチャーっす。盗塁阻止率は96%っす。セカンドへの送球が火の玉のようだって言われてたっす」


達矢「すげぇな……」


 ほとんど盗塁を許さない鉄砲肩というわけか。


紅野「さぁ、それじゃあ野球をするわよ! 私はバナナを投げ捨てたあんたを許さない。だから、私のチームと勝負よ、不良ども!」


 ビシッと男子生徒Dを指差した明日香。


不良ども「うおー!」


 いつの間にか、ゾンビのごとく起き上がっていた不良どもが、返事した。


達矢「何だ、この展開……」


 と、その時、俺はあることに気付いた。


達矢「あのさ、明日香」


紅野「何?」


達矢「水を差すようでアレだが……根本的なこと訊いていいか?」


紅野「何よ」


達矢「人数足りるのか?」


 不良チームには九人くらい居るが、明日香とまつりのチームは、俺を入れても、合計三人。


紅野「あっ!」


 はっとしていた。


達矢「野球は九人でやるスポーツだよな」


紅野「そうね……じゃあ達矢。重要な任務を言い渡すわ」


達矢「何だよ」


 だいたい察しはつくが……。


紅野「野球の上手な人を集めてきなさい!」


 やっぱりか……。


 こういうこと言うんじゃないかって思ったよ。


 とはいえ、予想できたからといって、回避できるものでもない。


達矢「ああ、わかったよ」


 しかし!


志夏「その必要は無いわ!」


 伊勢崎志夏が、どこかから現れた。


紅野「あら志夏。どうかしたの?」


志夏「メンバーなら、もう私が揃えておいたわ!」


 何この、都合の良すぎる展開。


 ていうか、何で志夏は俺たちが野球やろうとしてること知ってんだ。


志夏「あら、たっちゃん。『何で野球やること知ってんだ』って顔してるわね!」


 心を……読まれただと……。


志夏「それは私が神だから! というわけで、試合は明日! 場所は校庭! わかった?」


 と、そんなタイミングで、不良の一人が歩み出て言った。一番強そうなムキムキの不良だった。


不良A「おのれ伊勢崎志夏! あの時の恨み、忘れたわけではないぞぉ!」


 志夏は呆れたようなジェスチャーで、


志夏「恨み? 何を言ってるのかしらこの不良は。正当な選挙で私が生徒会長に就任したことが、そんなに気に入らないの?」


不良D「正当だって!? 卑怯な手を使ったことは、わかってんだよ!」


 何やら色々あるらしい。


志夏「証拠はあるわけ?」


不良C「それは……」


志夏「無かったんでしょ。そりゃそうよね。証拠が無いんじゃあ、私が悪いことしたなんて言うのは、私の名誉を傷つける妄言よね」


不良B「くっ、この女、どこまで……っ」


不良A「やめろ、B。この女は、そう簡単に尻尾を出すような甘いヤツではない」


志夏「尻尾なんて無いわよ。お稲荷さんの使いじゃあるまいし」


不良A「一つ提案だ。賭けをしようじゃないか、伊勢崎志夏」


志夏「何かしら」


不良A「こちらのチームが勝ったら、伊勢崎志夏は真実を語れ。過去の生徒会選挙で、不正をしたかどうかを、正直にな」


志夏「いいわよ。そのくらい」


不良D「うぉお! これで元不動の生徒会長だったAさんの地位が回復するぞぉ!」


不良A「気が早いぞ」


 まったくだ。


 ていうか、不良Aは志夏の前に生徒会長だったのか。


 ものすごい意外だな……。


不良A「…………」


 今では、あまりにもムキムキで昭和の不良らしい感じになってるのにな。


志夏「つまり、この試合に賭けられたのは、私の真実の告白というわけね」


男子生徒D「待ってくださいっす!」


志夏「何かしら? Dくん」


男子生徒D「実は……オレらは、中庭にえんにちを出したいんす。お祭りらしく」


志夏「出せばいいじゃないの。そんなの」


男子生徒D「そ、そうっすか。じゃあ、オレらには戦う理由がない――」


 と、Dくんが言い掛けたその時だった――


紅野「ダメよ」


 何故か紅野明日香がNGを出した。


男子生徒D「な、何でっすか!」


紅野「バナナを食べかけで投げ捨てるような男に、簡単に何らかの権利を与えるべきじゃない。目には目を、歯には歯を。バナナ権を侵害した不良が、人権を持つなんて、私は納得しないわ」


志夏「じゃあやっぱダメ。ね、上井草さん」


まつり「そうだな。ダメだ」


男子生徒D「くっ……」


 悔しがっていた。


達矢「バナナ権ってのは何だ、明日香」


紅野「そんなの、『バナナがバナナとして人間に立派に食べられる権利』のことよ」


達矢「そうですか……」


 変なこと言ってた。


 どうやら、尋常じゃなくバナナが好きらしい。


紅野「てか常識じゃん、こんなの」


 そんな身勝手で変な常識は今まで生きてきて聞いたことないが。


志夏「じゃあ、不良Aくんは、紅野さんを倒して、私に真実を語らせることを。男子生徒Dくんは、フェスティバルに参加するために紅野さんを倒すことを。それぞれの目標のために戦うというのね! これは盛り上がる展開だわ!」


みんな「…………」


 志夏は一人、盛り上がっていた。


志夏「試合は明日! 校庭で! いいわね!」


 こうして、試合開催が正式に決定した。



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